その謝罪、配信します。

校長室の空気は、
異様に重かった。
 
ソファ。
高そうな絵。
観葉植物。
 
そして。
 
並ぶ大人たち。
 
校長。
教頭。
学年主任。
知らないスーツの男二人。
 
まるで事情聴取だった。
 
黒崎レイは、
そんな空気を見回してから言った。
 
「で?」
 
校長のこめかみが引きつる。
 
「君……自分が何をしたか分かってるのかね」
 
「配信?」
 
「とぼけるな!!」
 
教頭が机を叩く。
 
「学校の信用は地に落ちたんだぞ!」
 
レイは少し考えるような顔をした。
 
「でも」
 
首を傾ける。
 
「いじめ放置してた時点で、
元から落ちてません?」
 
空気が凍る。
 
主任が慌てて口を挟む。
 
「君の行動は違法性が――」
 
「証拠あるんですか?」
 
即座に返される。
 
主任が黙る。
 
レイは椅子にもたれた。
 
「あと」
 
視線をゆっくり大人たちへ向ける。
 
「本当に問題なのって、
私ですか?」
 
誰も答えない。
 
「盗撮した生徒」
「脅迫した生徒」
「見て見ぬふりした教師」
 
レイは指を折る。
 
「そっちは放置だったのに」
 
静かな声。
 
「私が暴いた瞬間だけ、
急に“正義側”になるんだ」
 
教頭が顔を赤くする。
 
「言葉を慎みなさい!!」
 
「嫌です」
 
即答。
 
校長が深く息を吐いた。
 
「……黒崎さん」
 
今度は妙に優しい声。
 
「君にも事情はあるのかもしれない」
 
レイは無表情。
 
「だが、やり方が過激すぎる」
 
「ふーん」
 
「ネットは怖い場所だ」
 
校長は続ける。
 
「一度拡散された情報は消えない。
人生を壊してしまう」
 
その瞬間。
 
レイが笑った。
 
小さく。
でも明確に。
 
「今さら?」
 
「……」
 
「被害者が壊れてた時には、
誰もそんなこと言わなかったのに」
 
沈黙。
 
その時だった。
 
今まで黙っていたスーツの男が口を開く。
 
「黒崎レイさん」
 
低い声。
 
「少しお話いいかな」
 
空気が変わる。
 
学校関係者じゃない。
 
レイは男を見る。
 
四十代くらい。
短髪。
鋭い目。
 
そして。
 
“警察っぽい”。
 
レイは少しだけ笑った。
 
「職質?」
 
男は名刺を出す。
 
【警視庁サイバー犯罪対策課
 東條 恒一】
 
やっぱり。
 
教室配信が大きくなりすぎた。
 
東條はレイを観察するように言う。
 
「君、かなりの技術持ってるよね」
 
「普通です」
 
「普通の高校生は、
学校内部サーバーに侵入しない」
 
教頭たちがざわつく。
 
「侵入……!?」
 
レイは面倒そうにため息をついた。
 
「だからセキュリティ弱すぎなんですよ」
 
東條が少し笑う。
 
「否定しないんだ」
 
「面倒なんで」
 
校長が青ざめる。
 
「き、君……!」
 
しかし東條は、
逆に興味深そうだった。
 
「一つ聞く」
 
レイを見る。
 
「なんでこんなことしてる?」
 
校長たちも黙る。
 
レイは少しだけ考えた。
 
窓の外を見る。
 
夕方。
赤い空。
 
そして。
 
ぽつりと言った。
 
「助けを求めても、
誰も助けないから」
 
部屋が静かになる。
 
レイは続けた。
 
「だったら、
壊す方が早い」
 
東條の目が細くなる。
 
「……君」
 
「はい」
 
「そのやり方、
いつか自分も壊れるぞ」
 
レイは笑った。
 
でも。
 
その笑いは少しだけ空っぽだった。
 
「別にいいです」
 
静かな声。
 
「もう、
とっくに壊れてるんで」