「死ねばよかったのに」
画面に流れたコメントに、教室が笑った。
昼休み。
二年C組の教室。
窓際の席でスマホを握る結城紗奈は、うつむいたまま動けなかった。
クラス全員が知っている。
彼女専用の“裏アカ晒しタグ”が存在することを。
『#結城菌うつる』
『#メンヘラ被害者ヅラ』
『#今日も泣いてて草』
誰が始めたのかなんて、もうどうでもよかった。
止める人間が、一人もいなかったから。
「ねえ紗奈、それ見た? 昨日のやつ超バズってる」
わざと明るい声。
クラスの中心にいる女子――姫野ミウが、机に肘をついた。
長い巻き髪。完璧なメイク。
教師のお気に入り。
そして、この地獄の中心人物。
「ほら」
差し出されたスマホ。
そこには紗奈の盗撮動画が映っていた。
体育の着替え中。
下着姿。
『加工キツすぎて草』
『女子版モンスター』
『需要なし』
コメント欄が高速で流れていく。
「や、やめ……」
喉が震える。
でも声にならない。
「え? 聞こえないんだけど」
ミウが笑う。
周囲も笑う。
男子も見て見ぬふり。
教師は気づかないふり。
その瞬間。
教室後方から、小さく舌打ちが聞こえた。
全員が振り返る。
知らない女がいた。
黒パーカー。
色褪せたジーンズ。
ぼさぼさの黒髪。
教室には似合わない、異様に冷めた目。
「……誰?」
ミウが眉をひそめる。
女は答えない。
代わりに、紗奈のスマホ画面を見た。
数秒。
それだけ。
「あー」
興味なさそうに言う。
「終わったね」
教室が静まった。
「は?」
ミウが笑う。
「なにその陰キャ。誰の友達?」
女はポケットに手を突っ込んだまま、ミウを見る。
「別に。通りすがり」
「は?」
「たださ」
女は少し首を傾けた。
「人って、自分が加害者の時だけ、
“バレない前提”で生きてるよね」
ミウの顔がわずかに引きつる。
「意味わかんないんだけど」
「だろうね」
女は笑った。
冷たい笑いだった。
「頭悪そうだし」
空気が凍る。
「……は?」
ミウが立ち上がる。
「なにコイツ」
だが女はもう興味を失ったように背を向けていた。
「じゃ、頑張って」
「は?」
「人生終了まで、あと少し」
そう言い残し、教室を出ていく。
誰も追えなかった。
ただ。
その女の目だけが、妙に怖かった。
◆
午後十一時五十八分。
姫野ミウは、自室でスマホを見ていた。
「……なにこれ」
通知が止まらない。
DM九十九件。
着信十七件。
フォロワー激減。
そして。
タイムライン最上部。
【姫野ミウ、援交疑惑まとめ】
「……は?」
心臓が止まりそうになる。
タップ。
そこには。
ホテル前写真。
裏アカ画像。
飲酒動画。
男とのLINE。
教師とのツーショット。
「な、なんで……」
指が震える。
次々に拡散されていく。
『最低』
『被害者いじめてたってマジ?』
『学校通報した』
『終わったな』
「嘘……嘘……!」
その時。
スマホに、一件の通知。
【配信招待】
意味が分からないまま開く。
真っ暗な画面。
そして。
ノイズ混じりの声。
『こんばんは』
ミウの全身が凍る。
あの女だった。
『謝罪の時間です』
「な、何なのあんた……!」
『選んで』
淡々とした声。
『自分で全部話すか』
数秒の沈黙。
『もっと面白い形で暴露されるか』
「……っ」
『あ、ちなみに録画してるから』
ブツッ。
通話が切れる。
次の瞬間。
スマホに新しい通知。
【配信開始まで 00:59】
ミウの呼吸が止まる。
誰。
なんなの。
なんでここまで。
怖い。
でも。
一番怖かったのは――
あの女が、本気だと分かったことだった。
画面に流れたコメントに、教室が笑った。
昼休み。
二年C組の教室。
窓際の席でスマホを握る結城紗奈は、うつむいたまま動けなかった。
クラス全員が知っている。
彼女専用の“裏アカ晒しタグ”が存在することを。
『#結城菌うつる』
『#メンヘラ被害者ヅラ』
『#今日も泣いてて草』
誰が始めたのかなんて、もうどうでもよかった。
止める人間が、一人もいなかったから。
「ねえ紗奈、それ見た? 昨日のやつ超バズってる」
わざと明るい声。
クラスの中心にいる女子――姫野ミウが、机に肘をついた。
長い巻き髪。完璧なメイク。
教師のお気に入り。
そして、この地獄の中心人物。
「ほら」
差し出されたスマホ。
そこには紗奈の盗撮動画が映っていた。
体育の着替え中。
下着姿。
『加工キツすぎて草』
『女子版モンスター』
『需要なし』
コメント欄が高速で流れていく。
「や、やめ……」
喉が震える。
でも声にならない。
「え? 聞こえないんだけど」
ミウが笑う。
周囲も笑う。
男子も見て見ぬふり。
教師は気づかないふり。
その瞬間。
教室後方から、小さく舌打ちが聞こえた。
全員が振り返る。
知らない女がいた。
黒パーカー。
色褪せたジーンズ。
ぼさぼさの黒髪。
教室には似合わない、異様に冷めた目。
「……誰?」
ミウが眉をひそめる。
女は答えない。
代わりに、紗奈のスマホ画面を見た。
数秒。
それだけ。
「あー」
興味なさそうに言う。
「終わったね」
教室が静まった。
「は?」
ミウが笑う。
「なにその陰キャ。誰の友達?」
女はポケットに手を突っ込んだまま、ミウを見る。
「別に。通りすがり」
「は?」
「たださ」
女は少し首を傾けた。
「人って、自分が加害者の時だけ、
“バレない前提”で生きてるよね」
ミウの顔がわずかに引きつる。
「意味わかんないんだけど」
「だろうね」
女は笑った。
冷たい笑いだった。
「頭悪そうだし」
空気が凍る。
「……は?」
ミウが立ち上がる。
「なにコイツ」
だが女はもう興味を失ったように背を向けていた。
「じゃ、頑張って」
「は?」
「人生終了まで、あと少し」
そう言い残し、教室を出ていく。
誰も追えなかった。
ただ。
その女の目だけが、妙に怖かった。
◆
午後十一時五十八分。
姫野ミウは、自室でスマホを見ていた。
「……なにこれ」
通知が止まらない。
DM九十九件。
着信十七件。
フォロワー激減。
そして。
タイムライン最上部。
【姫野ミウ、援交疑惑まとめ】
「……は?」
心臓が止まりそうになる。
タップ。
そこには。
ホテル前写真。
裏アカ画像。
飲酒動画。
男とのLINE。
教師とのツーショット。
「な、なんで……」
指が震える。
次々に拡散されていく。
『最低』
『被害者いじめてたってマジ?』
『学校通報した』
『終わったな』
「嘘……嘘……!」
その時。
スマホに、一件の通知。
【配信招待】
意味が分からないまま開く。
真っ暗な画面。
そして。
ノイズ混じりの声。
『こんばんは』
ミウの全身が凍る。
あの女だった。
『謝罪の時間です』
「な、何なのあんた……!」
『選んで』
淡々とした声。
『自分で全部話すか』
数秒の沈黙。
『もっと面白い形で暴露されるか』
「……っ」
『あ、ちなみに録画してるから』
ブツッ。
通話が切れる。
次の瞬間。
スマホに新しい通知。
【配信開始まで 00:59】
ミウの呼吸が止まる。
誰。
なんなの。
なんでここまで。
怖い。
でも。
一番怖かったのは――
あの女が、本気だと分かったことだった。



