愛しい君は、生き霊になっても俺を離さない。

 それから7年、俺たちはずっと一緒にいる。
 周囲から見れば、俺が世話をしてばかりに見えるだろうが、そんなことはない。
 渚は頭がいいし、対俺限定ではあるが、察しも良い男だ。物理的にも心理的にも、渚に助けられたことは数え切れないほどある。
 俺たちは多分、お互いの足りない部分を補い合っている。
 だからこそ、このおかしな状況でも、離れるという決断ができないのだ……。

 ────と、過去を振り返ってまで言い訳を並べてみた。

 まったく、自分でも馬鹿らしいと思う。
 でも、そうでもしないと、気が狂いそうだった。
 冷静になったら終わりだと、自分にそう言い聞かせる。言い訳でも、綺麗事でも、嘘でもなんでも良い。
 今の状況を正当化する何かしらがないと、この夢みたいな現実が、途端に地獄に変わってしまう気がした。

「燈、全然集中してない。相手になんないんだけど」
「あ、悪い……」

 画面に浮かぶゲームオーバーという文字。
 なんだか、今の俺たちのような気がした。もう戻れないのでは。そんな考えが脳裏によぎる。が、すぐに首を横に振って打ち消した。縁起でもない。
 渚が呆れたようにため息をつく。

「まぁ、燈の性格なら、考えるなって言っても無理だよね」
「俺じゃなくても無理だろ……」
「俺は平気だけど」
「お前が普通じゃないんだよ」
「だって、実際そんな悪いことないし。今も普通に寝て、普通に遊んでるし」

 それは、そうなのだ。
 眠って起きて、喋って、ゲームをして。
 気づけばもう1日が終わる。
 気を抜くと昨日の出来事を忘れてしまいそうなほど平和である。とはいえ、ずっとこうしてはいられないだろう。事が起きたのが金曜だったおかげで、あと1日は猶予があるが、明後日には学校がはじまる。教室ではきっと、渚の話題で持ちきりになるだろう。
 いったい俺はどんな顔をしていれば良いのだ。本体の容体だって心配だし、病院にずっと行かないわけにも行かない。
 それに……。

「……おまえ、家には行ったのか」
「行ってない。行かないよ」

 渚は数秒の間もなく答えた。まぁそうだよなという気持ちと、こんな時でもそうなのかという気持ち。相反する2つの感情が湧く。

「なんで燈がそんな顔してんの」
「……そんな顔ってなんだよ」
「なんか悲しそうな顔。やめてよ。そういう顔好きじゃないんだってば」
「……別に悲しんでなんかない」
「心配しなくて良いよ。あの人は俺が数日帰ってこないくらいじゃ、なんも気づかない。まぁ病院から連絡はいってるだろうけど。それも無視してるんじゃない?」
「悪い。やめよう、この話」

 渚はなんてことのないように頷いた。いつも通り冷静に。だけど、俺には手に取るようにわかる。
 渚の悲しみが。寂しさが。
 どんなにどうしようもない親でも、どんなに諦めたと思っていても、子供は親に期待せずにはいられないのだ。
 きっと渚は行かないんじゃなくて、行けないんだろう。怖くて行けないんだ。
 自分が重体と知り、それでもなお心配してくれない親の姿を見るのが。それどころか喜ぶ姿を見てしまうかもしれないことが。

「渚、眠くなってきた」
「早くない? 珍しいね」
「もう寝ようぜ。お前、抱き枕になれよ」
「……ふっ。今の俺、冷たいと思うけど」
「暑いからちょうど良い」
「そっか」
「ほら、抱き枕、早くこっち来い」

 先に布団に入り、渚を手招く。渚は笑顔で隣に入り込んだ。

「燈、ありがと」
「何が?」
「ううん、なんでもない。おやすみ」
「おやすみ」

 眠りは現実逃避だ。これまでも2人で何度も一緒に現実から逃げてきた。そう思うと、なんだか少し気持ちが楽になってきた。これまでだって、どうしようもないことはたくさんあった。
 その度に、2人でどうにかしてきたんだ。今回だって同じだ。
 渚がいれば大丈夫。
 俺たちは2人でいれば、大丈夫なんだ。