愛しい君は、生き霊になっても俺を離さない。

 渚と出会ったのは11歳の頃。ちょうど小学校の学年が上がった時だ。

「霜月渚です」

 無愛想にも程があるだろうといった様子で、名前だけ呟いた渚のことを、今でも鮮明に覚えている。
 転校生というだけで、皆が興味を持ち、湧き立つ年頃だというにも関わらず、渚はなんだか人を寄せ付けない空気を放っていた。
 常に無表情で、返事も最低限。どんなに暑くても真っ黒の長袖長ズボンを身につけ、前髪は目が掛かるくらいに長かった。最初は興味を持っていた同級生たちも、1ヶ月経つ頃には渚をおばけくんと呼び、避けるようになった。
 そんな渚とまともに話したのは、小学校最後の運動会の日だった。

[只今より1時間のお昼休憩となります]

校庭にそんなアナウンスが鳴り響くと、みんな嬉しそうに家族の方へと駆けていく。
 そんな様子を、俺は固い椅子の上でぼーっと見つめていた。しばらく楽しそうな様子を眺めていると、ふと斜め前の少年が視界に入った。
 俺と同じように、遠い遠いところを見つめ、動けずにいる少年。
 それが渚だったのだ。

「……渚くん、行かないの?」
「……どこに」
「えっと、お父さんとお母さんのとこ?」
「きてない」
「あっ、あの、俺も! 俺もきてない!」
「ふぅん」

 そっけない渚の態度に比べ、俺はなんだかこの時すごくはしゃいだ気持ちになっていた。今考えるとなかなか薄情だが、俺はこの時なんだか嬉しくなってしまったのだと思う。
 同じ状況の子がいることが。1人じゃないことが。

「ねぇ、一緒に食べない? 家族が来てない人は教室で食べるところがあるんだって。一緒に行こうよ!」
「えっ」
「ねっ、行こう! ほら!」
「……ちょっ、わかったから。引っ張んないで」

 あの時の渚の嫌そうな顔は今でも覚えている。後の渚曰く「断った方がめんどくさそうだったから、ついてくしかなかった」とのことらしい。昔から冷静なやつなのだ。
 俺は多分、この日のお昼時間を、一生忘れることはない。

「「えっ」」

 机の上に出した昼食を見て、驚きと感動に混じった声がシンクロした。

「渚くん、それお昼……?」
「うん……。くる時にスーパーで買った」
「おばちゃんがやってるボロボロのお店曲がったところの?」
「うん」
「そこの半額コーナー?」
「……うん」
「ふっ! ははっ! あはははっ! 俺も! 俺もだよ! そんなことある!?」
「……ふっ」
「あ、笑った! 初めて見た!」
「……別に俺だって笑うくらいするけど」
「そりゃあそうか! そうだよね!」

 同じスーパーで買った、同じ半額のパン。大きくて甘いだけのカケラの栄養もないパン。
 それが、俺たちが話したきっかけなった。
 幼いながらにお互い分かったのだと思う。
 俺たちが同じような家庭環境だということを。