愛しい君は、生き霊になっても俺を離さない。


 まずは俺。
 このままじゃ未練たらたらで成仏なんてできそうにない。
 もう一つは……。
 脳裏に旧校舎の光景が過ぎる。
 永遠に時が止まったまま、暗がりの中で一人彷徨い続けている彼女の姿。

「……旧校舎」
「え?」

 渚が不思議そうな顔で聞き返す。

「旧校舎に行きたい」
「……どうして」
「そろそろ限界なんだよ。さっきから、なんか、息が詰まるっていうか……。体も時々薄くなってるし」

 そう言えば、渚は血相を変えてこちらに向かってくる。

(ごめん、渚。……嘘なんかついて)

 我ながら大分ひどい嘘だったのに、騙されてしまったところを見ると、やはり渚にいつもの冷静さはないようだ。
 その弱みに付け込んで、適当な嘘を続ける。

「ここは……えっと、あれだ。『生きてる奴』の場所だからかも、しれない。現実の空気に当てられて? 俺の存在が……弾き出されそうになってる……みたいな」

 いけると思ったら、より嘘が酷くなり、流石にまずいかと内心焦る。
 けれど、それは杞憂だった。

「そんな……! じゃあ、どうしたらいいの!? どうすれば燈は消えないの!?」

 渚は100点満点の反応を返してくれた。
 ちょっと、本格的に心配になってくる。早く助けてやらないと。
 今まで見た物語のなかで、なるべくそれっぽいやつを思い出して、どうにか言葉を紡ぐ。

「ここじゃ、俺は長く保たない。だから……もっと、えっと、死者に近い場所……とかにいきたい」
「死者に、近い場所……?」

 渚は本当に偉い。欲しかった質問をもらい、俺は少しキメ顔で言った。

「旧校舎だよ」
「……どういうこと?」
「ほら、あそこは昔から幽霊が出るっていうし。俺たちも実際見ただろ。あそこならきっと、俺も普通でいられる。誰にも見つからないし……お前が望むなら、あそこでずっと、2人でいよう」

 俺の提案に渚は戸惑っているようだった。
 部屋からは出したくない。でも、ここにいては俺が消えてしまう。その選択肢の間で悩んでいるのだろう。
 追い討ちをかけるように言う。

「頼む、渚。……ここは苦しいんだ」

 渚が俺の顔を見る。俺も、懇願するような瞳で見つめ返した。

(頼む……ずっと一緒にいるために……)

 少しの沈黙の後、渚が震える手を俺の手に重ねた。

「……うん。わかった」

 渚の目に、決意が宿る。

「燈が消えちゃうのは絶対に嫌だ。……行こう、旧校舎」
「ああ」

 俺はゆっくりと立ち上がり、渚の手を引いた。

(ごめん、渚。これが最後の嘘だから)

「行こう」

 足早に部屋を後にした。もう二度と、ここには戻ってこないという予感を抱えながら。
 向かおう、あの旧校舎へ。