愛しい君は、生き霊になっても俺を離さない。

 それはとある日の放課後のこと。
 その日はたまたま互いに親が家にいる日で、俺と渚は学校で時間を潰していた。しかし、夕方になれば当然、教師に追い出される。
 そこで、俺たちは旧校舎に行くことにした。そこは十数年ほど前に使われていたところで、現在は生徒数の減少に伴い廃墟となっている。
 一部生徒達はそこを隠れ小屋のように使用していた。俺たちもその中の1人で、ランプやクッションなどを持ち込んで、一つの教室をまるで自分たちの部屋のようにしていたのだ。
 その日も、いつものようにゲームをしたりしながら、適当に時間を潰した。
 とはいえ、風呂や着替えなど最低限のことをするためには一度帰宅しなければならない。
 真夜中になったころ、俺たちは重い腰を上げて廊下に出た。そこでは、ど真ん中で1組のカップルがいい感じの雰囲気になっていた。お金のない高校生にとって、ここはそういう目的でも使われる場所でもあった。さすがに廊下とは恐れ入るが。

「……遠回りしていくか」
「別に気にしないで通ればいいのに」
「さすがに邪魔しちゃいけない雰囲気だろ」
「まぁ、いいけど。じゃあ反対からいこ」

 そして、俺たちはいつもとは違う道順で帰ることにしてしまったのだ。
 スマホで暗い廊下を照らしながら歩いていると、ふと物音が聞こえた。
 ギシギシと、なにか重いものが動くような音。
 それは今通った教室の中から聞こえたようだった。

「……なぁ、渚。この旧校舎の噂、知って?」
「ずっと昔に自殺した、女子生徒の幽霊が出るってやつ?」
「そう……あれの噂って、確か美術室じゃなかったっけ」
「え……」

 俺たちの目の前にあるのは美術室。そこから聞こえる音。
 その時点で逃げなければならなかった。
 それなのに、俺は覗いてしまったのだ──。

 教室の奥。
 倒れた椅子。
 その上に、浮いた足。
 ぶらぶらと足が揺れていた。
 見てはいけない、そうわかっているのに、目が離せない。
 視線が自然に上へ、上へと向かう。
 髪の長い女性の頭。
 顔は長い髪に覆われて見えない。けれど、その身に纏っているものは、月明かりに照らされてはっきりと分かった。
 色褪せた、古い型のセーラー服。
 逃げないと、足を動かして、この場から離れないと。
 しかし、足は床に縫い付けられたようにびくともしない。その時、
 ぐるん━━と、
 女性の首がありえない方向に曲がった。
 目が合う。
 真っ暗な瞳。
 奥の奥まで広がる暗闇。
 何かを言いたげな、恨めしそうな瞳。
 
(あ、やばい。持ってかれる)

 何がかはわからない、わからないが直感的にそう思った。

「燈!」

 ぐいっと腕を強く引っ張られた。温かい手に手首を掴まれる。
 
「逃げるよ! 早く!」

 ふわっと足が浮く。そのまま引きずられるようにその場を離れた。