海獣だって走りたい

 ブルーバックの空模様。なにも投影されていない不気味な青が広がっていた。
 見慣れているはずの学校らしき建物や木々も、全てが不気味に彩度を失っていて、白と黒のコントラストが強調されている。


 ここは、青と白と黒で作られた世界。


 ぱしゃんと足元にかかる水の冷たさに狼狽えた。裸足のままタイルを踏みつけ、その拍子に己の存在を認める。


「……ここ」 


 秀輝は、学校のプールサイドに立ち尽くしていた。
 脚にかかった水の出どころは、出しっ放しに投げ捨てられたホースによる悪戯。中になにかが詰まっているのか、道を途切れさせながら、不規則に放水し続けている。
 練習着がじわじわと背中から湿って、張り付いていた。裾を掴んで肌から引き剥がせば、心地の悪い、空虚なぬるい風が這い上がってくる。
 まるで、箱庭に囚われているようだった。生活音も、目を瞠るような演出物も、過剰な物語展開も、なにも用意されていない。
 波打つ反射の間から、真っ黒な影が音もなく姿を現す。海坊主かと息を呑んだが、影は一瞬にして、その世界で最も燦然と輝き白んだ。
 誰のものとも判断つかないソレは、青白い腕を秀輝のほうへと伸ばすのだ。
 まるで、あの時の歩のように。
 しかし、今の秀輝の精神状態で、ソレに応えられるような覚悟はできていなかった。


「……っ」


 手を伸ばして、やむなく振り下ろされる。白い影は、残念そうに、それでも希うように、無垢に秀輝を求めていた。
 分かってくれと眉間に深くシワを刻み、強く目を瞑り頭を振る。


(今すぐ去ってくれ)

(俺も、お前も、ただの勘違いで済ませたほうがきっと、この先幸せなんだ)


 音のない世界で目を閉じることが、こんなにも怖いことだなんて、知りたくもなかった。唇を噛み締めて、視界を邪魔してくる明滅から逃げるべく顔をそらす。やがて、チカチカと瞼は疲れを訴えてくるのだ。もはや、力を込めすぎたせいか、目尻から小さく涙が滲んでいた。
 どれだけ拒んでも、限界はとうに迎えている。これ以上は、閉じていられない。
 秀輝は、観念し、息を一つ吐いた。


「――海が、嫌いなんですか」


 彼方から運ばれてきた遥かな潮の香り。
 鼻腔をくすぶっていた独特な塩素の匂いは、消え去っていた。
 足場は、一気に崩れ去り、泥濘に纏われ、落ちていく。
 驚嘆の声と共に頭を持ち上げ、彼は、絶望の色を眼に孕んだ。


「あ、あぁ……っ」


 水平線は、残酷なまでに美しく、絶大な存在感こそ、無力を叩きつけてくる。
 気付けば理由もわからず、海のど真ん中に投げ出されていたのだ。
 たとえ、腰にも満たないほどに浸かっていても、秀輝にとっては、足をすくわれるのと同義。仕切りのなくなった代わり映えのしない景色に、逃げ場を見失っていた。


「い、いなくなれっ……! 知らない!」


 あいも変わらず佇む影。さきほどまで、歩のようだと錯覚していたが、どうにも違う。頭のてっぺんからびしょ濡れの真っ黒な塊。当然、靡くはずもない髪の毛は、薄気味悪く肌に張り付いて、うねっている。
 ソレは、秀輝が恐怖する概念なのだろうか。彼と寸分違わない、赤の他人のような存在感。しかし、他人事にも出来ないほど、異質な同族嫌悪。
 遂に、呼吸困難に陥る。秀輝は、治まらない動悸にえずき、膝を屈した。


「……ッ! は、鬱陶しいんだっ……いつも!」


 その真っ黒な頭は、跪く秀輝を覆うように、影を落とす。無いはずの月明かりを頼りに。偽りの世界を映すブルーバックは、名前の通り今もなお、彼らを青で突き刺している。
 海面上に浮かぶ影の動きを目で追う。ゆるりと上げられた両手は、こちらへと緩慢に、悠然に伸びてくる。
 思わず、声にならない悲鳴が喉奥を掠めた。


 さわるな。くるな。こっちに、くるな。


(――俺を巻き込まないでくれ)




「……ッは」


 最初の感想は、「最悪」だった。
 ぐっしょりと汗に濡れた枕を床に投げつけて、まだ冷気の残っていたベッドの隅へ四肢を投げ出す。何の変哲も無い自部屋の天井が見えて心底安心していた。
 夏の夜は、蒸し暑くてエアコンなしでは熱中症になってしまう。網戸があるから、と余裕綽々としていた就寝前の自分の姿を思い出して気怠げに呻く。
 くしゃくしゃに、よれてしまうのも厭わないくらいに強引に襟ぐりを伸ばして、額から伝っていた冷や汗を拭った。
 スマホを覗き込めば、まだ深夜の三時過ぎ。「気味が悪い」と秀輝は、水を飲みにベッドから起き上がるのだった。






 翌日の朝練習を迎えると、秀輝と海虎は「侵略者」の話題で盛り上がっていた。正しくは、海虎だけが盛り上がっていた、のだが。
 結局、あれから眠りも浅く、寝付けなかった秀輝は、回復どころか疲労困憊といったところ。朝から頭に響く海虎の大きな声に唸りつつも、ベッドの上にいた時よりは、穏やかな顔つきに戻りつつあった。


「不思議なこと言うもんだなー。秀輝が言うんだから、スゲー選手なんだろうけど」
「まぁ、そうだよね。あそこまでの泳ぎなら、学校でも話題になってるはずなのに……なんで、知らなかったんだろう」
「同じ運動部とはいえなぁ。水泳部のキャプテンとも繋がってるけど、全く共有されてなかったわ」
「へぇ……」


 二人は、準備運動を終えるなり、早速スクエアパスの練習に入っていた。海虎が合図を出せば、部員たちは一斉に四隅に分かれ、列を作る。秀輝は、その間にタイマーをセッティングして再度の号令でスタートを押した。
 話したいことは山ほどあるけれど、練習は練習。彼らにとって、最も優先するべきは、少しでもチームの練度を上げることである。
 高校最後となるウィンターカップに向けた県予選を目前に控えているのだ。特にチームをまとめるキャプテンと副キャプテンの存在は、今こそ欠かせない重要な核。
 歩に伝わっていたかは不明だが、秀輝のバスケに対する思いは十二分にある。だから、改めてボールを手にコート内を駆け、仲間と試合をしてしまえば、すっかり「まあいっか」という気持ちに移ろいでいった。


「恐怖症のせいで怪我をしました、なんて聞きたくないからな」
「あぁ……。うん、俺も今は、バスケに集中していたい」
「それが聞けて嬉しいよ。今日こそは、しっかり休めよ」


 まだ休憩の途中といえど、海虎は甲斐甲斐しく、秀輝の心身を労ってくれた。彼にしては珍しく、冷えたスポーツドリンクを買ってきてくれるほどに心配していたらしい。「ただの水じゃ、すぐぶっ倒れるぞ」と押し付けてくる姿に秀輝は苦笑しつつも、有り難く受け取った。
 海虎は、秀輝の恐怖症のことを知る一人。ひょうきん者で、おちゃらけた性格であるものの、友人の悩み事や抱えているものに対しては、常に真摯に向き合ってくれる。そんな、別け隔てなく善意を振りまける海虎は、バスケ部以外の人達からも多くの信頼を寄せられていた。
 まさに、キャプテンたる証拠であり、所以だ。


 そして、そのキャプテンとしての才覚は、当然のように発揮される。
――秀輝が、フリースローを打った瞬間に。


「姿勢が、変わったな?」


 完全に無意識だった。何のことかと、はてなを顔に書いた秀輝は、海虎から再度パスを受けた。
 目で促されて、フリースローラインに立つ。そして、自分の中で定着させた動作を当たり前にこなした。それだけなのに、ゴールへ打ったボールは思いの外、逸れていく。


 おかしい。もう一度。
――落ちる。
 なぜだ。もう一度。
――跳ね返される。
 わからない。もう一度。もういちど。


「――秀輝」


 ぴた、と動きが止まった。
 最後まで、ボールはゴールに入らなかった。
 壁に跳ね返されて、秀輝のすぐ足元まで転がって戻ってくる。目でソレを追いかけていたら、見慣れたバッシュが視界の隅に映った。


「何が、どう変わったとか。力が入らないとか、あるか?」
「……海虎」


 ボールを拾い上げて、片手で抱え込む。空いたほうの左手で、グーパーと何気なく感覚を掴もうと繰り返した。秀輝は、ぼんやり気まずそうに目を伏せるのだ。


「着地する時、不安定になる……」
「そういえば、猫背気味になってたな……姿勢が保てないのか?」
「いや……足は、しっかり床に着くことは理解してる。……でも、なんだか、……そうだ」


 突如、思い詰めたように顔が、青ざめていく。
 瞬きをするのも忘れるくらいに愕然と口を開けている秀輝の様子を見て、海虎は、眉をひそめた。


「――水の中、みたいだ」


 その言葉が出てくるのを予感していたのか。海虎は、すぐに秀輝の腕を掴んでコート外へ誘導した。扇風機のよく当たる一番涼しい場所に腰を下ろさせて、バタバタと忙しなく走り回っている。


「痛いとこはないか?」


 氷嚢と未開封のスポーツドリンクを手に持っていた。しゃがみ込んで、さっさとバッシュを抜くから、秀輝は思わず足を引っ込めた。
 海虎は、ベンチに座る彼を見上げて、目で訴える。「今は、そうじゃないだろう」とでも言いたげに。


「本当に怪我をした覚えはないから、……自分で見れるし」
「お前、自分がどういう立場なのか本当に理解してて、それ言ってる?」


 なにも言い返せなかった。練習に打ち込んでいた仲間たちも、二人の様子が気になってチラチラ伺ってきている。
 秀輝は、素直に海虎の言うことを聞くことにした。明らかに、チーム全体の雰囲気が自分のせいで落ちかけていると自負したからだ。


「本当に見た目はなにもない……」
「だから、言っただろ」
「いいや、見えないだけで、なにか故障を起こしてたら一大事だぞ」
「はぁ……」


 結局、海虎の計らいで秀輝は、練習を打ち切ることとなった。奇妙なことに、痛みも違和感も平時では訴えてこない足の異変。


 そして、今しがたその足で、かかりつけの整形外科に向かっているところだった。






「また、怪我をしたのかと心配したよ」


 デスクトップから目を離した医者は、くるりと椅子を回して、秀輝のほうを向いた。背後に立っていた看護師も、柔和な笑みを浮かべていて、大事ではないことが分かる。
 ここの整形外科は、スポーツをする学生が頻繁に通っている地域で最も名高い医院だ。秀輝も同様に子供の頃から通っているため、双方が顔も名前も覚えている状態である。
 医者の「また」と言う言葉は、秀輝が頻繁に怪我をする、ということではない。どちらかというと秀輝は、メンテナンスを欠かさない徹底的な運動人間。なので、整体のほうが通院回数は多いだろう。
 今回は、久しぶりの受診だったのに、どうして「また」と強調されるのか。


「何も起きてないよ。君、練習のしすぎだね。疲れが取れていないねえ。筋肉がすっごく硬い……あと、ストレスも溜めないでね」
「……やっぱそうですかぁ……」
「う~ん、適度に休みなね。あの時のクセが、完全に抜けてるわけじゃないんだから」
「……ですね。……気をつけます」


 ――それは、秀輝の中学時代にまで遡る。


「何も起きてないね。練習のしすぎだよ。疲労とストレス溜まってるでしょ?」
「……はぁ」


 中学三年の夏。制服姿で、秀輝は整形外科を受診していた。
 ここのところ、脚に感じる異変と伸び悩んでいた自己記録に不信感が募りつつあったのだ。本調子になれていないだけだと、自分を騙し続けて数か月。脱却するどころか、すっかり、沼に嵌っている始末である。


「いつから放置してたの?」
「……多分、はじまりは三、四か月前になるんですかね?」
「あのねえ……治療にも明確な日数が分からないと駄目なんだからね。……まだ続ける予定なんでしょ?」
「それは、もちろん。……スポーツ推薦のために」


 医者は、秀輝のカルテを見直して、「あぁ」と顎に手を添えた。どう切り返せば良いのか、医者として、人間として、言葉を探していた。


「とりあえず、このあと電気を当ててもらってね。それと、しっかり休養を取ること」
「ありがとうございます」


 看護師の説明を聞きながら、ぼんやりと簡易ベッドの上に投げ出された己の足を見つめていた。電極から流される電気に、筋肉が解れていく感覚が明確に伝わってくる。傍についてくれていた看護師は、どうやら、新人だったらしく、えらく慎重に秀輝の様子を伺ってきた。


「スポーツ推薦ってすごいですね」
「あぁ……ありがとうございます」
「なにを、なされてるんです?」


 丁度いい電気の強さに達したことを、手を上げて合図する。すかさず、看護師は「ありがとうございます」と微笑んで、機械の操作を止めた。


「――陸上です」


 秀輝は、だんだんと弛緩する脚を緩やかに撫でる。常套句とはいえ、律儀に返事なり、リアクションなり返してくれる看護師に上手く笑い返すことが出来なかった。
 なぜなら、このたった数日後に彼は、陸上を放棄し、スポーツ推薦すら蹴るのだから。




 もともと、彼はバスケではなく、持ち味である脚力を陸上に活かしていた。地域駅伝や全国体力テストでも、平均して上位十人の中には入り込めるほどに、卓越した能力を持っていたのだ。それも陸上競技全般において。
 シャトルランも、立ち幅跳びも、長距離走も、秀輝にとっては造作もない嗜みだ。中学に上がれば、陸上部に入ることは決まっていたこと。彼の周りにいた人も、皆口を揃えて「陸上」だと言っていた。
 実際に、彼は順調だったのだ。世の中の途方もなく残酷な現実に触れるまでは。
 高校受験、つまりスポーツ推薦という実質的なスカウトが視野に入り始める、二年の秋からだろうか。


 秀輝は、異変をただの何気ないスランプだと言い聞かせ、弱さを閉じ込めて、無理を強い続けていた。


 記録も伸びない。フライングは顕著になる。バトンを落とす。そんな毎日。
 都合よく出来ていない人生に、唾を吐くように無視を続けた。その矢先、秀輝をどんどんと追い抜いていく後輩が数人現れ始める。
 いや、既に存在していた。
 秀輝が、自分の足場しか見ていなかっただけに過ぎなかった。
 世界を認めると途端に、フィルターは薙ぎ払われていく。耳を突き刺すとめどない他人の言葉は全て、嘲笑かのように思えて反吐が出た。
「秀輝は陸上」
「秀輝は陸上」
「秀輝は陸上」


「鳶巣秀輝? あぁ、最近記録が落ちてるアイツか」


 なので、陸上をやめた。淡々と極めて、あっさりと。
 特に後悔はなかった。なにせ、造作もないことだったから。
 彼は、陸で生きられれば、それだけで良かったのだ。将来に対して深く考えている計画も、展望も明確になかったのだろう。わざわざ引きずるための理由も、持ち合わせる未練がましさも浮かばなかったに過ぎない。
 こうして、スポーツ推薦も中学三年間の結果も投げ捨てて、彼は地元の普通の高校に入学した。
 バスケと出会ったのは、そこから。
 水ではない、数ある陸を使える競技。


「お前、脚はえーんだな! 背もあるしさ、俺とバスケ部入らねえ?」


 強く差し込んだ光は、じめじめとした心の底を久しぶりに干上がらせ、火花を散らした。
 知らず知らずのうちに、手を取っていた。

――ここでなら、きっと溺れる(・・・)必要はない。






 病院を出ると、駐車場に設置された自販機横で見慣れた二つの姿が、こちらへ手を降っているのが見えた。


「おつかれー! 調子どうなの」
「おつかれ……大丈夫だったけど……てか、暑くなかった?」


 秀輝から駆け寄る隙も与えないくらい、あっという間に距離を詰めてくるところは、やはり、似た者同士であることを物語っている。
 彼女――入江真帆(いりえ まほ)は、海虎と同様に一年のときにクラスが同じで、秀輝の恐怖症を知るもう一人の友人だった。特徴的な亜麻色の長髪を揺らして、耳たぶでピアスが揺れている。はっきり言って秀輝とは縁のなさそうな派手な容姿をしているが、それには理由がある。
 幼少期から、彼女はダンススクールに通っていて、校内でも陰ながらファンが多い。しかし、彼女に男が進んで近づかない、否近づけないのは、海虎という彼氏の存在が大きかった。バスケ部キャプテンの彼氏にダンサーの彼女という並びは、夢のまた夢であり、安易に近付いて良いものじゃない。気付いた頃には、むしろ、神格化されるまでに至っている。
 そんな二人だが、秀輝にとっては、唯一無二の気のおけない普通の友達。恋仲である二人の間にいることが、引け目に感じることも多少はある。だが、彼が少しでも気遣いや遠慮をしようもんなら、冗談でも「やっぱり三人で付き合うか」などと噛みついてくるお節介な甲斐性人間たちを嫌いになる理由も特にない。秀輝は、今のように安心して信頼を置けていた。


「今日、朝練終わりにさ、歩くん来たんだよ」
「……そっか」
「うん。……秀輝のこと探してたからさ」


 秀輝と真帆が戻ってくるのを確認するなり、自販機の影から姿を出し、暑そうに練習着をはためかせていた。だというのに、練習疲れを一切感じさせない、いつもの清涼感を放っている。海虎は、たった一日のほんのひとときしかなかった出会いでありながら、歩のことを下の名前で「くん付け」していた。


「一応伝えた。予選控えてること、秀輝の脚のこと」
「……」
「……これ以上、負担になったら、困るから」


 表情には出ていなかったが、相当心配をかけてしまったのだと悟った。秀輝よりも、なぜか海虎のほうが肩を落として、萎んでいるように見える。それもあって、無闇矢鱈に感謝や謝罪を伝えるのも今ではない。出かけていた言葉を、既のところで引き結んで飲み込んだ。


「お前が、水の中って例えるから、……放置しちゃ駄目だって思った」
「そっか……」
「とりあえず、怪我! なくてよかったよ!!」


 パン、と両手を合わせて、雰囲気を打ち壊す。海虎は、秀輝の背中を数回ほど叩いて、歩き出した。呆気にとられ少し遅れて歩き出すと、隣に真帆が並んでくる。


「あれでもチョーーー焦ってたんだよ。バスケすら、秀輝のストレスになってたら、どうしようって」
「……ふ、優しいなあ」
「それくらい大事なんよー。アンタってやつはよ~!」
「ごめんごめん。俺も、海虎には心配かけたくない。から回ってたんだね、きっと」


 つい昨晩、妙な悪夢を見たばかり。
 今、秀輝に必要なのは練習でも、思い詰めることでもない。
 ただ、普通に、友人と並んで今みたいに駄弁って過ごすことが何よりの休養なのだ。


 だから、しまっておこう。嫌なものは、置いていってしまおう。
 そうすれば、自然と歩とも話すタイミングなんて無くなっていくはず。


「海虎ー……帰り、どっか寄るか」
「いいねぇ、乗った!! もちろん、真帆も来いよ」
「行くに決まってるじゃん~! 久しぶりの三人だもん」