遺響綴録:銀幕に巣食うもの

「お楽しみタイムの始まりでーす!」
荒井の張り上げた声に、わっと歓声が上がる。クラブの照明がさらに落とされ、ステージだけが白く浮かび上がった。
「女の子たちはみんな前来て〜!」
女性たちが男たちに促されるまま、わらわらとステージへ集められていく。一人ずつナンバーシールを配られ、胸に貼りつける。
中条の卓の女性たちは誰も動かない。ここだけは別ということだろう。私はじっと座ったまま、ステージを見つめる。
「じゃあ右端手前から、一歩前に出て、名前と自己紹介お願いしまーす!テンポよくね!」
荒井がへらへら笑いながら言う。
「アヤです。モデル活動をしていて、得意料理は肉じゃがです」
「おっ、いいねぇ。家庭的!」
ヤジが飛び、男たちが大きな笑い声を上げる。
「……ネクストエンターテイメント所属の、ミナミです。女優になりたくて――」
次々と自己紹介が進んでいく。退屈そうにステージを眺めていた中条は、「俺、トイレ」と言って途中で離席した。
「はい、じゃあ自己紹介も終わったところでぇ――」
荒井が大げさに手を広げる。
「シャッフルタ〜イム!」
黒服が箱を持ってくる。荒井が中から番号札を引き抜いた。
「三番卓〜!」
呼ばれた卓の男たちが、笑いながら手を挙げる。
「好きな子、選んでくださーい」
男たちの視線が、商品を見るみたいに女たちの上を滑っていく。
「五番、八番――」
番号で呼ばれた女性たちは、笑顔を貼りつけたまま卓へ移動する。
「六番卓〜!」
また一人。また一人。ステージの上から人が減っていく。
最後に一人だけ、ステージに残った。20歳前後だろうか。まだどこか垢抜けない雰囲気を持っている。
「では、皆さんグラスをお手に〜」
いつの間にか卓にはシャンパンが用意されていた。周囲に合わせ、私も慌ててグラスへ手を伸ばす。
「乾杯――の前にぃ〜。あれれ、ひとり余っちゃったねぇ!」
笑いが起こる。
「でもぉ〜!ラストチャンスがありまーす!」
荒井が声を張った。
「覚悟を見せてくれたらぁ……中条監督卓に行けるかもしれません!」
どっと沸く会場の中、女性の顔が強張る。
「脱げよ!」
誰かが笑いながら叫んだ。
すると、その言葉を待っていたかのように手拍子とコールが始まった。
「脱げ!」
「脱げ!」
「脱げ!」
女性は引きつった笑みを浮かべたまま、凍ったように動けない。
声はどんどん大きくなる。
こんな場所、いたくない。
腰を浮かしかけた、その時だった。
「ほんとにそれでいいの?」
隣から、そっと声が落ちた。谷本百合恵だった。テレビで何度も見たことのある、優しい笑顔。
「……え?」
「いいのね?」
穏やかな声。
「チャンスをどぶに捨てて」
周囲ではまだコールが続いている。みんな笑っている。笑っていないといけない。心の底から楽しそうに。そうしないと。そうしないと、きっと――
食い物にされる。
ソファに再び背を預け、引きつった頬の筋肉を無理やり動かそうとした、その時だった。
視界の端に、隣の卓の若い男が映った。腿のあたりでさりげなくスマホを構えている。レンズが、会場からゆっくりとステージへ向いていく。
一瞬、レンズと視線がかち合った。その瞬間、胸元のお守りが、じりっと熱を持った。