翌朝、目を覚ますと、日永はすでに起きて着替えを済ませ、インスタントのコーヒーを飲んでいた。スマホで時間を確認すると、七時を少し過ぎたところだった。
「……おはよ」
声をかけると、日永も「おはよう」と短く返す。
洗面所で顔を洗って戻ってきても、頭はまだぼんやりしている。そんな様子を見て、日永が言った。
「朝、弱いんだな」
「うん……日永は平気そうで、うらやましいよ」
冷蔵庫からコンビニの袋を取り出し、二人で簡単な朝食をとる。食べながら、これまでに集めた情報を一通り整理した。
「結局、なぜ死に至ったのかを突き止める必要がある」
日永はサンドイッチのフィルムを手の中で丸めながらそう言った。
「でもさ、怨霊の願いを言い当てるのが目的なんだよね?それなら、どうして死んだのかまで調べる必要があるの?」
「願いが完全に壊れた瞬間がいつなのかを突き止めれば、逆にその願いの形が見えてくる。だから、死に至るまでの過程を追って、何が決定打になったのかを明らかにする必要がある。手がかりになりそうなのは――」
「映画業界の偉い人たちが集まるパーティー、だよね」
日永の言葉を、僕が引き継いだ。実は、昨日新幹線の中で検索していたのだが、それらしい情報は見つからなかった。
「僕もちょっと調べたけど……全然わからなかった」
「じゃあ、詳しいやつは?」
そう聞かれて、少し考え込む。芸能人で親しい人は、そこまで多くない。その中で、さらに業界の裏事情のような、踏み込んだ話まで聞けそうな相手となると――
「あ……」
ふと、ひとりの顔が浮かぶ。
「一人、いるかも」
「……ツクシー?どしたんこんな日曜の朝っぱらから」
綾木は明らかに寝起きの掠れ声でそういうと、大きなあくびをした。
「もしもし?ごめん朝早く。ちょっと聞きたいことあってさ」
「えっなに?昨日なんかやらかした?女子の機嫌の取り方ならいくらでも伝授したるぜ?」
「……お前勝手に変なこと考えてんなよ。別に何にもしてねーから」
「えーツクシーの意気地なし!相手は絶対期待してたって!」
無視して話を続ける。
「映画業界の偉い人たちが集まるパーティーって聞いて、思い浮かぶものある?」
「う〜ん、俺、学園ドラマくらいしか出たことないしなぁ。急ぎ?」
「なるべく早く知りたい。2020年の12月20日に開催されたはず。多分非公式の会だと思う。どんな会なのか、できれば詳しく」
「おぉ、なんか探偵みたいだな。分かった、ちょい待ち」
ガサッという音がして、遠ざかっていく足音が聞こえる。数分の沈黙のあと、またドタドタと足音が近づいてきた。
「お待たせー!多分分かったよ」
「マジ?」
「親父によると、“日曜会”じゃないかって」
「日曜会?」
「そっ、通称“中条会”」
どくん、と心臓が跳ねる。
「それって……中条秀雄監督のこと?」
「そうそう。中条秀雄とつながりの太いプロデューサーとか、芸能事務所の幹部とか、作品に何度も出てる出演者とかが集まるやつらしい。偶数月の第3日曜日にやってるから日曜会。主催者はもちろん中条監督」
「偶数月の第3日曜日って……」
「うん、今日もやるんじゃない?」
日永と目を合わせる。
「でもさ、近寄らない方がいいらしいぜ」
声をひそめる綾木。
「なんで?」
「あそこは芸能界の闇だって」
「闇って……」
「親父も詳しいことは教えてくんなかったけどさ、会に参加するときは最低一人は女の子を連れていかなきゃいけない暗黙のルールがあるらしいんだよ。なんか……察するよな」
「……」
「まぁ俺たち未成年だから誘われることもないだろうけど。今後のためには知っといた方がいい情報だよな。特にツクシーなんか出演者なんだから、いつか誘われるときがくるんじゃね?」
「その会に参加するのに必要なのは、女性だけ?」
突然、日永が口を開いた。
「えっ、なに、誰?ツクシー今誰といんの?」
「あ〜えっと、友だち。信頼できる人だから大丈夫」
「そ、そうなん?え、どなた?」
「日永」
端的に答えてから続ける。
「その会に参加するのに、他に必要なものは?」
「え、えっと……招待状がいるみたいですけど……」
口元に手を当てて考え込む日永。
「え〜っと……日永さんは……芸能人の方?」
「いや、日永は違うよ……どうしても知りたいことがあって、それを探るために潜入したいっていうことなんだけど……僕も……」
「はぁ⁉︎優等生くんが何言ってんの⁉︎それはちょっと……かなり難しいだろ……」
「まぁそうだよな……」
「俺が女子になる」
「「えっ?」」
日永の言葉に、僕と綾木の声が重なる。
「……仮に日永が女装したとしても、招待状はどうするの」
「なしでどうにかする」
「どうにかするって……」
「……よし」
綾木が覚悟を決めたような声を出す。
「なんか俺も関わっちゃったみたいだし、こうなったら協力する!なんかおもろそうだし」
「最後のが本音だろ。協力って……別にいいよ。万が一にもトラブルに巻き込まれたら――」
「それを言うならツクシーだってそうじゃん」
言い返せない。
「だぁいじょうぶだって。俺、結構そういう嗅覚は鋭いからね。ほんとにヤバいとこまでは首突っ込まないよ。いざとなったらツクシー見捨てて逃げるから」
「薄情なやつ」
「お前〜感謝しろよ〜?売れっ子アイドル様の貴重な休日使ってやるんだからな?とりあえずうち来いよ」
「……おはよ」
声をかけると、日永も「おはよう」と短く返す。
洗面所で顔を洗って戻ってきても、頭はまだぼんやりしている。そんな様子を見て、日永が言った。
「朝、弱いんだな」
「うん……日永は平気そうで、うらやましいよ」
冷蔵庫からコンビニの袋を取り出し、二人で簡単な朝食をとる。食べながら、これまでに集めた情報を一通り整理した。
「結局、なぜ死に至ったのかを突き止める必要がある」
日永はサンドイッチのフィルムを手の中で丸めながらそう言った。
「でもさ、怨霊の願いを言い当てるのが目的なんだよね?それなら、どうして死んだのかまで調べる必要があるの?」
「願いが完全に壊れた瞬間がいつなのかを突き止めれば、逆にその願いの形が見えてくる。だから、死に至るまでの過程を追って、何が決定打になったのかを明らかにする必要がある。手がかりになりそうなのは――」
「映画業界の偉い人たちが集まるパーティー、だよね」
日永の言葉を、僕が引き継いだ。実は、昨日新幹線の中で検索していたのだが、それらしい情報は見つからなかった。
「僕もちょっと調べたけど……全然わからなかった」
「じゃあ、詳しいやつは?」
そう聞かれて、少し考え込む。芸能人で親しい人は、そこまで多くない。その中で、さらに業界の裏事情のような、踏み込んだ話まで聞けそうな相手となると――
「あ……」
ふと、ひとりの顔が浮かぶ。
「一人、いるかも」
「……ツクシー?どしたんこんな日曜の朝っぱらから」
綾木は明らかに寝起きの掠れ声でそういうと、大きなあくびをした。
「もしもし?ごめん朝早く。ちょっと聞きたいことあってさ」
「えっなに?昨日なんかやらかした?女子の機嫌の取り方ならいくらでも伝授したるぜ?」
「……お前勝手に変なこと考えてんなよ。別に何にもしてねーから」
「えーツクシーの意気地なし!相手は絶対期待してたって!」
無視して話を続ける。
「映画業界の偉い人たちが集まるパーティーって聞いて、思い浮かぶものある?」
「う〜ん、俺、学園ドラマくらいしか出たことないしなぁ。急ぎ?」
「なるべく早く知りたい。2020年の12月20日に開催されたはず。多分非公式の会だと思う。どんな会なのか、できれば詳しく」
「おぉ、なんか探偵みたいだな。分かった、ちょい待ち」
ガサッという音がして、遠ざかっていく足音が聞こえる。数分の沈黙のあと、またドタドタと足音が近づいてきた。
「お待たせー!多分分かったよ」
「マジ?」
「親父によると、“日曜会”じゃないかって」
「日曜会?」
「そっ、通称“中条会”」
どくん、と心臓が跳ねる。
「それって……中条秀雄監督のこと?」
「そうそう。中条秀雄とつながりの太いプロデューサーとか、芸能事務所の幹部とか、作品に何度も出てる出演者とかが集まるやつらしい。偶数月の第3日曜日にやってるから日曜会。主催者はもちろん中条監督」
「偶数月の第3日曜日って……」
「うん、今日もやるんじゃない?」
日永と目を合わせる。
「でもさ、近寄らない方がいいらしいぜ」
声をひそめる綾木。
「なんで?」
「あそこは芸能界の闇だって」
「闇って……」
「親父も詳しいことは教えてくんなかったけどさ、会に参加するときは最低一人は女の子を連れていかなきゃいけない暗黙のルールがあるらしいんだよ。なんか……察するよな」
「……」
「まぁ俺たち未成年だから誘われることもないだろうけど。今後のためには知っといた方がいい情報だよな。特にツクシーなんか出演者なんだから、いつか誘われるときがくるんじゃね?」
「その会に参加するのに必要なのは、女性だけ?」
突然、日永が口を開いた。
「えっ、なに、誰?ツクシー今誰といんの?」
「あ〜えっと、友だち。信頼できる人だから大丈夫」
「そ、そうなん?え、どなた?」
「日永」
端的に答えてから続ける。
「その会に参加するのに、他に必要なものは?」
「え、えっと……招待状がいるみたいですけど……」
口元に手を当てて考え込む日永。
「え〜っと……日永さんは……芸能人の方?」
「いや、日永は違うよ……どうしても知りたいことがあって、それを探るために潜入したいっていうことなんだけど……僕も……」
「はぁ⁉︎優等生くんが何言ってんの⁉︎それはちょっと……かなり難しいだろ……」
「まぁそうだよな……」
「俺が女子になる」
「「えっ?」」
日永の言葉に、僕と綾木の声が重なる。
「……仮に日永が女装したとしても、招待状はどうするの」
「なしでどうにかする」
「どうにかするって……」
「……よし」
綾木が覚悟を決めたような声を出す。
「なんか俺も関わっちゃったみたいだし、こうなったら協力する!なんかおもろそうだし」
「最後のが本音だろ。協力って……別にいいよ。万が一にもトラブルに巻き込まれたら――」
「それを言うならツクシーだってそうじゃん」
言い返せない。
「だぁいじょうぶだって。俺、結構そういう嗅覚は鋭いからね。ほんとにヤバいとこまでは首突っ込まないよ。いざとなったらツクシー見捨てて逃げるから」
「薄情なやつ」
「お前〜感謝しろよ〜?売れっ子アイドル様の貴重な休日使ってやるんだからな?とりあえずうち来いよ」
