新大阪まで三時間。そこから電車で二十分ほど。スマホの地図を見ながら住宅街を進み、目的の古びたアパートに到着した。表札には三木原の文字があった。日永と顔を合わせ、互いに小さく頷く。インターホンを押すと、少しして「はい」という女性の声が聞こえた。
「こんにちは。突然お伺いしてすみません。私、月芝直輝といいます。子どものころ、真子さんによくしていただいて……今さらなんですが……せめて手を合わせたいと思いまして」
できるだけ柔らかい声でそう言う。
「……少しお待ちください」
インターホンが切れ、ほどなくしてチェーンの擦れる音と、鍵がガチャリと開く音がした。そっと扉が開き、隙間から小柄で痩せた中年の女性が顔をのぞかせる。三木原と顔が似ているので、母親だとすぐに分かった。しかし、白髪の目立つショートカットはパサついていて、どこか疲れた印象を受ける。
「……月芝さん?」
「はい」
僕は頭を下げ、持ってきた紙袋を差し出した。
「本当に突然お伺いしてしまってすみません……これ、よかったら」
「まあ……そんな……わざわざ……」
三木原の母親は戸惑いながらもそれを受け取り、扉を大きく開けた。
「狭いところだけど、どうぞ」
玄関は、すり減ったサンダルと僕たちの靴でいっぱいになるほど狭かった。薄い壁越しに、隣室のテレビの音がかすかに聞こえる。台所と六畳ほどの和室がつながった、こじんまりとした間取りだった。
「ここで……真子に」
和室の隅の小さな棚の上に、遺影と線香立てが置かれていた。写真の中の真子は満面の笑みを浮かべている。その横には花瓶と小皿が並んでいた。
僕と日永は畳に膝をつき、手を合わせる。
「ありがとうございます」
僕は三木原の母親に深く頭を下げた。
「お茶、いれるから座って」
ちゃぶ台の前に座布団が二枚敷かれる。彼女は小さな台所で湯を沸かし始めた。薬缶のシューという音が部屋に響く。外からは、子どもたちがキャハハハと笑い声を上げながら、走り去る足音が聞こえてくる。生活の音であふれているのに、部屋の空気がどこか侘しく感じるのは、うがった見方だろうか。
「どうぞ」
二人分の湯のみがそっと置かれる。
「月芝くんって、もしかして……真子が出てた映画の……?」
「そうです。共演させていただきました」
「まあ……子どもの成長って早いねぇ」
そう言って、目を見開く。
「そちらは……?」
日永のほうへ視線が向く。
「彼は僕の親友で。一人で来るのが不安で、ついてきてもらったんです。神社の跡取りで、もう実際に仕事もしていて」
「そうなの……なんだかオーラがあるから、同業の子なのかと思って……」
「あはは、よく言われるんですよ」
少し、場の空気が緩んだのが分かった。
「あの、今日はどういうご用件で……?」
「実は、真子さんが亡くなったことは、当時、人づてに聞いて知っていました。でも、子どもの僕にできることなんて何もなくて……今年、あれ以来初めて映画に出演することになって、真子さんのことを思い出したんです。現場でとてもよくしてもらっていたのに、僕は真子さんのことを何も知らなかったなって思ったら……気になって、どうしようもなくなってしまって。僕の勝手な都合なんです。すみません」
そう言って、頭を下げる。
「頭を上げて」
三木原の母が、焦ったように言った。
僕はゆっくりと頭を上げる。
「もしよかったら、真子さんのこと、教えていただけませんか」
そう言って、三木原の母と目を合わせる。彼女はスッと目を伏せた。
「真子は……子どものころから、明るくて素直な子でした」
父親は、真子がまだ赤ん坊の頃に、女をつくって出て行ってしまって。それからは働き詰めの生活でしたけど、どんなに疲れてても、笑顔で駆け寄ってくる真子を見たら、幸せを感じました。この子の前では辛気臭い顔なんて見せたくない、頑張ろうって気持ちになれたんです。
小学生になってからは、休日はほかの子みたいに遠くに出かけたりはしてやれなくて……よく一緒に図書館に行っていました。
誕生日には、絶対に真子の欲しいもん買うって決めてました。「好きなもんプレゼントするで。ゲームでも服でも、なんでもええよ」って言うたら、あの子、いつも「本がいいわ」って言うんです。遠慮してるんじゃないかと思って、「ほんまになんでもええんやで」って言うても、「本がいい。私とお母さんで同じ本読んで、感想を二人で話すんが好きや」って。
プレゼントが本からブルーレイに変わったんは、小学校四年のときです。『白露』いう映画の試写会が当たって、真子と一緒に観に行ったんです。あの子、ほんま楽しみにしてて……試写会のちょっと前が誕生日やったから、原作小説欲しい言うて、買うてあげました。当日は監督とキャストも来てて……真子が、『谷本百合恵、めっちゃ綺麗やね』って耳打ちしてきたん、よう覚えてます。
上映が終わったあと、真子が興奮した顔で、「私、将来女優になりたい」って言うたんです。「なんでそう思ったん?」って聞いたら、「小説読んだとき、ここはこんな感じで言うてるんやろなって想像してたんやけど、それよりもっとぴったりな表情で演じてて……ほんまにすごいなって。完全に映画の世界に入り込んでしもたわ。お母さんもそうやろ?」そう言うてたん、今でもはっきり覚えてます。私も久しぶりに映画を見て、笑って感動してちょっと涙ぐんだりしてたもんですから、「ほんまやね、真子ならきっと女優なれるわ」って、軽く言うてしまったんです。
それからは、テレビでやってる映画、片っ端から録画して観るようになって。友だちと遊んだりするような様子もなくて、ずっと画面にかじりついていたので、ちょっと心配するレベルでした。
高校生になってから、「卒業したら東京出て、芸能事務所入りたい」って真剣に言われて、ああ、この子ほんまに本気なんやなって思いました。
正直、不安はありましたけど、やりたいことやらせたげたい気持ちのほうが、ずっと強くて。「頑張ってみ」って言いました。もし夢破れて帰ってきても、ちゃんと迎えたろう思ってました。
上京する日、笑顔で見送るつもりやったのに……つい涙が出てしまって。「もらい泣きするやん」って言いながら、あの子も泣いてました。
「次帰ってきたとき、一緒にデパート行こな。お母さんの欲しいもん、なんでも買うたるから」って言われて、私、冗談で「ほなシャネルのバッグでも買うてもらおかな」って言うたんです。そしたら、「いや、夢は大きくやろ。大女優なって、芦屋に家買うたるわ」なんて言い出して……「約束やで」って言うて、指切りして、真子は電車に乗っていきました。
上京してすぐに、事務所が決まったって連絡がありました。「君は光るものを持ってる。そういう子は滅多にいない」って社長さんに言われたって、ほんまに嬉しそうにしてました。
やっぱり最初はオーディションになかなか受からへんくて……でも、「上手い子はたくさんおる。まだ実力不足やから頑張る」って、私には落ち込んだ様子も見せずに、前向きに取り組んでました。
だんだん選考の先にも進めるようになってきて……応募した役には受からへんかった作品でも、端役ですけど二つ出させてもらって。ちゃんとしたセリフも名前もない役やったんですけど、一生懸命演じてる真子見てたら、輝いてるなあって思ってました。親バカですよね。
上京して一年くらい経ったころ、真子から興奮した様子で電話がかかってきて……あの中条監督の作品に出られることになったって。ちゃんとセリフも名前もある役やって。私は何回も「よかったね」って言いました。
でも、撮影が始まるって言うてた時期くらいから、電話がぱったりなくなったんです。それまでは一週間に一回は必ずかけてきてたのに。
きっと忙しいんやろうなって思って、あまり気にしてへんかったんです。撮影は2か月やって聞いてたんで、その期間が終わったあと、こっちから電話してみたら、最近忙しいのと、撮影終わったからまたオーディション受けるので忙しくなるって。声は明るいんですけど、なんとなく元気ない気がして、「疲れてるんちゃう? 無理せんときや」って言いました。
それからは電話よりも、メッセージでやり取りすることが増えて。
『オーディションの感触よかった』とか、『バイト先のおばちゃんに美味しい煮物もらった』とか、『卵割ったら双子やった』とか……いろんなこと報告してくれて。それ見て、忙しい中でも元気にやってるんやなって思ってました。
公開された映画を観たときは……ほんまに感動しました。セリフは少なかったんですけど、お屋敷のメイドの役やったから、メインキャストの後ろに控える形で、スクリーンに映ってる時間はけっこうあって。有名な方たちと肩並べて頑張ってる姿を見て、涙が出ました。すぐ電話したんですけど……真子は出なくて。用事中なんやろうと思って、メッセージ送ったんです。
『映画観たよ!とても感動しました😭 頑張ったね!真子は私の自慢の娘です☺️ 体に気をつけてね。いつも応援してるよ📣』って。
そのあとも何回か電話かけたんですけど、出えへんくて……少ししてから「ごめん、オーディション中やった」とか「バイト中やった」ってメッセージが来て。あの時点で、おかしいって気づくべきやったんです。メッセージなんて、いくらでも嘘書けるのに。
それで……半年くらい、真子の声聞いてへんって気づいて。夜遅くに、電話かけたんです。いつもは十コールもせんうちに切るんですけど、そのときはもうちょっと粘ってみよう思って。それでも出えへんくて……やっぱりタイミング悪かったんやなって切ろうとした瞬間、つながったんです。
「真子?」って聞いたら、「どうしたん、こんな時間に?」って、いつもの調子で返ってきたんですけど……びっくりしました。声が、聞いたことないくらいガラガラで。「風邪ひいたん?」って聞いたら、「うん、ちょっとこじらせてしもて」って。「ごめんね、夜遅くに電話して。もう寝なさい」って言ったとき、車の音とか、雑音が聞こえて。「もしかして今、外におるん?」って聞いたら、「うん、今日は映画業界の偉い人たちが集まるパーティーに行ってきて、その帰り」って言うんです。「体調悪いのに何してんの。早よ帰り」って言ったら、「うん、もう帰ってるよ」って笑いながら言って……そのあと、しんどそうに咳き込んで。「もう電話切るで。あったかくして寝なさい」って、ちょっと強めに言いました。「うん、じゃあね」って真子はそう言うて――電話切ったんです。それが……私と真子の、最後の電話でした。
次の日、警察から連絡があって、東京に駆けつけて……白いシーツを取って、娘の顔見たとき、私、「この子、娘やないです」って言うてしまったんです。頭では分かってるのに、勝手に口から出てしまって……そのあとすぐ気失って、病院で目覚めたとき……一生分、泣きました。
真子が何を思って死んだんか知りたくて、その日のうちに事務所を訪ねて……自殺したこと伝えたら、社長さん、特に驚いた様子もなくて。何か心当たりありませんかって聞いても、「我々に言われてもねぇ」って、そればっかりで……それ以上、私も何も言えへんくて……そのまま事務所を出ました。
「こんにちは。突然お伺いしてすみません。私、月芝直輝といいます。子どものころ、真子さんによくしていただいて……今さらなんですが……せめて手を合わせたいと思いまして」
できるだけ柔らかい声でそう言う。
「……少しお待ちください」
インターホンが切れ、ほどなくしてチェーンの擦れる音と、鍵がガチャリと開く音がした。そっと扉が開き、隙間から小柄で痩せた中年の女性が顔をのぞかせる。三木原と顔が似ているので、母親だとすぐに分かった。しかし、白髪の目立つショートカットはパサついていて、どこか疲れた印象を受ける。
「……月芝さん?」
「はい」
僕は頭を下げ、持ってきた紙袋を差し出した。
「本当に突然お伺いしてしまってすみません……これ、よかったら」
「まあ……そんな……わざわざ……」
三木原の母親は戸惑いながらもそれを受け取り、扉を大きく開けた。
「狭いところだけど、どうぞ」
玄関は、すり減ったサンダルと僕たちの靴でいっぱいになるほど狭かった。薄い壁越しに、隣室のテレビの音がかすかに聞こえる。台所と六畳ほどの和室がつながった、こじんまりとした間取りだった。
「ここで……真子に」
和室の隅の小さな棚の上に、遺影と線香立てが置かれていた。写真の中の真子は満面の笑みを浮かべている。その横には花瓶と小皿が並んでいた。
僕と日永は畳に膝をつき、手を合わせる。
「ありがとうございます」
僕は三木原の母親に深く頭を下げた。
「お茶、いれるから座って」
ちゃぶ台の前に座布団が二枚敷かれる。彼女は小さな台所で湯を沸かし始めた。薬缶のシューという音が部屋に響く。外からは、子どもたちがキャハハハと笑い声を上げながら、走り去る足音が聞こえてくる。生活の音であふれているのに、部屋の空気がどこか侘しく感じるのは、うがった見方だろうか。
「どうぞ」
二人分の湯のみがそっと置かれる。
「月芝くんって、もしかして……真子が出てた映画の……?」
「そうです。共演させていただきました」
「まあ……子どもの成長って早いねぇ」
そう言って、目を見開く。
「そちらは……?」
日永のほうへ視線が向く。
「彼は僕の親友で。一人で来るのが不安で、ついてきてもらったんです。神社の跡取りで、もう実際に仕事もしていて」
「そうなの……なんだかオーラがあるから、同業の子なのかと思って……」
「あはは、よく言われるんですよ」
少し、場の空気が緩んだのが分かった。
「あの、今日はどういうご用件で……?」
「実は、真子さんが亡くなったことは、当時、人づてに聞いて知っていました。でも、子どもの僕にできることなんて何もなくて……今年、あれ以来初めて映画に出演することになって、真子さんのことを思い出したんです。現場でとてもよくしてもらっていたのに、僕は真子さんのことを何も知らなかったなって思ったら……気になって、どうしようもなくなってしまって。僕の勝手な都合なんです。すみません」
そう言って、頭を下げる。
「頭を上げて」
三木原の母が、焦ったように言った。
僕はゆっくりと頭を上げる。
「もしよかったら、真子さんのこと、教えていただけませんか」
そう言って、三木原の母と目を合わせる。彼女はスッと目を伏せた。
「真子は……子どものころから、明るくて素直な子でした」
父親は、真子がまだ赤ん坊の頃に、女をつくって出て行ってしまって。それからは働き詰めの生活でしたけど、どんなに疲れてても、笑顔で駆け寄ってくる真子を見たら、幸せを感じました。この子の前では辛気臭い顔なんて見せたくない、頑張ろうって気持ちになれたんです。
小学生になってからは、休日はほかの子みたいに遠くに出かけたりはしてやれなくて……よく一緒に図書館に行っていました。
誕生日には、絶対に真子の欲しいもん買うって決めてました。「好きなもんプレゼントするで。ゲームでも服でも、なんでもええよ」って言うたら、あの子、いつも「本がいいわ」って言うんです。遠慮してるんじゃないかと思って、「ほんまになんでもええんやで」って言うても、「本がいい。私とお母さんで同じ本読んで、感想を二人で話すんが好きや」って。
プレゼントが本からブルーレイに変わったんは、小学校四年のときです。『白露』いう映画の試写会が当たって、真子と一緒に観に行ったんです。あの子、ほんま楽しみにしてて……試写会のちょっと前が誕生日やったから、原作小説欲しい言うて、買うてあげました。当日は監督とキャストも来てて……真子が、『谷本百合恵、めっちゃ綺麗やね』って耳打ちしてきたん、よう覚えてます。
上映が終わったあと、真子が興奮した顔で、「私、将来女優になりたい」って言うたんです。「なんでそう思ったん?」って聞いたら、「小説読んだとき、ここはこんな感じで言うてるんやろなって想像してたんやけど、それよりもっとぴったりな表情で演じてて……ほんまにすごいなって。完全に映画の世界に入り込んでしもたわ。お母さんもそうやろ?」そう言うてたん、今でもはっきり覚えてます。私も久しぶりに映画を見て、笑って感動してちょっと涙ぐんだりしてたもんですから、「ほんまやね、真子ならきっと女優なれるわ」って、軽く言うてしまったんです。
それからは、テレビでやってる映画、片っ端から録画して観るようになって。友だちと遊んだりするような様子もなくて、ずっと画面にかじりついていたので、ちょっと心配するレベルでした。
高校生になってから、「卒業したら東京出て、芸能事務所入りたい」って真剣に言われて、ああ、この子ほんまに本気なんやなって思いました。
正直、不安はありましたけど、やりたいことやらせたげたい気持ちのほうが、ずっと強くて。「頑張ってみ」って言いました。もし夢破れて帰ってきても、ちゃんと迎えたろう思ってました。
上京する日、笑顔で見送るつもりやったのに……つい涙が出てしまって。「もらい泣きするやん」って言いながら、あの子も泣いてました。
「次帰ってきたとき、一緒にデパート行こな。お母さんの欲しいもん、なんでも買うたるから」って言われて、私、冗談で「ほなシャネルのバッグでも買うてもらおかな」って言うたんです。そしたら、「いや、夢は大きくやろ。大女優なって、芦屋に家買うたるわ」なんて言い出して……「約束やで」って言うて、指切りして、真子は電車に乗っていきました。
上京してすぐに、事務所が決まったって連絡がありました。「君は光るものを持ってる。そういう子は滅多にいない」って社長さんに言われたって、ほんまに嬉しそうにしてました。
やっぱり最初はオーディションになかなか受からへんくて……でも、「上手い子はたくさんおる。まだ実力不足やから頑張る」って、私には落ち込んだ様子も見せずに、前向きに取り組んでました。
だんだん選考の先にも進めるようになってきて……応募した役には受からへんかった作品でも、端役ですけど二つ出させてもらって。ちゃんとしたセリフも名前もない役やったんですけど、一生懸命演じてる真子見てたら、輝いてるなあって思ってました。親バカですよね。
上京して一年くらい経ったころ、真子から興奮した様子で電話がかかってきて……あの中条監督の作品に出られることになったって。ちゃんとセリフも名前もある役やって。私は何回も「よかったね」って言いました。
でも、撮影が始まるって言うてた時期くらいから、電話がぱったりなくなったんです。それまでは一週間に一回は必ずかけてきてたのに。
きっと忙しいんやろうなって思って、あまり気にしてへんかったんです。撮影は2か月やって聞いてたんで、その期間が終わったあと、こっちから電話してみたら、最近忙しいのと、撮影終わったからまたオーディション受けるので忙しくなるって。声は明るいんですけど、なんとなく元気ない気がして、「疲れてるんちゃう? 無理せんときや」って言いました。
それからは電話よりも、メッセージでやり取りすることが増えて。
『オーディションの感触よかった』とか、『バイト先のおばちゃんに美味しい煮物もらった』とか、『卵割ったら双子やった』とか……いろんなこと報告してくれて。それ見て、忙しい中でも元気にやってるんやなって思ってました。
公開された映画を観たときは……ほんまに感動しました。セリフは少なかったんですけど、お屋敷のメイドの役やったから、メインキャストの後ろに控える形で、スクリーンに映ってる時間はけっこうあって。有名な方たちと肩並べて頑張ってる姿を見て、涙が出ました。すぐ電話したんですけど……真子は出なくて。用事中なんやろうと思って、メッセージ送ったんです。
『映画観たよ!とても感動しました😭 頑張ったね!真子は私の自慢の娘です☺️ 体に気をつけてね。いつも応援してるよ📣』って。
そのあとも何回か電話かけたんですけど、出えへんくて……少ししてから「ごめん、オーディション中やった」とか「バイト中やった」ってメッセージが来て。あの時点で、おかしいって気づくべきやったんです。メッセージなんて、いくらでも嘘書けるのに。
それで……半年くらい、真子の声聞いてへんって気づいて。夜遅くに、電話かけたんです。いつもは十コールもせんうちに切るんですけど、そのときはもうちょっと粘ってみよう思って。それでも出えへんくて……やっぱりタイミング悪かったんやなって切ろうとした瞬間、つながったんです。
「真子?」って聞いたら、「どうしたん、こんな時間に?」って、いつもの調子で返ってきたんですけど……びっくりしました。声が、聞いたことないくらいガラガラで。「風邪ひいたん?」って聞いたら、「うん、ちょっとこじらせてしもて」って。「ごめんね、夜遅くに電話して。もう寝なさい」って言ったとき、車の音とか、雑音が聞こえて。「もしかして今、外におるん?」って聞いたら、「うん、今日は映画業界の偉い人たちが集まるパーティーに行ってきて、その帰り」って言うんです。「体調悪いのに何してんの。早よ帰り」って言ったら、「うん、もう帰ってるよ」って笑いながら言って……そのあと、しんどそうに咳き込んで。「もう電話切るで。あったかくして寝なさい」って、ちょっと強めに言いました。「うん、じゃあね」って真子はそう言うて――電話切ったんです。それが……私と真子の、最後の電話でした。
次の日、警察から連絡があって、東京に駆けつけて……白いシーツを取って、娘の顔見たとき、私、「この子、娘やないです」って言うてしまったんです。頭では分かってるのに、勝手に口から出てしまって……そのあとすぐ気失って、病院で目覚めたとき……一生分、泣きました。
真子が何を思って死んだんか知りたくて、その日のうちに事務所を訪ねて……自殺したこと伝えたら、社長さん、特に驚いた様子もなくて。何か心当たりありませんかって聞いても、「我々に言われてもねぇ」って、そればっかりで……それ以上、私も何も言えへんくて……そのまま事務所を出ました。
