クズ悪役貴族、破滅回避のために主人公のルートを先回りクリアしたのがうっかりバレる~もう平穏に過ごしたいのに、最強の三役職が実は全部俺だと知ったヒロイン達が激しく執着してきます~

 「「「はあああああああッ!!」」」

 訓練場の中心で、四人が同時に最大火力を解き放つ。
 しかし、これはまずい。

 リーゼル、ノアルの剣技。
 セレス、コノメの魔法。
 その全てが正面からぶつかれば、訓練場の結界は吹き飛ぶ。

 それを一早く察知したアスラは、勢いよく観客席を()った。

「まったくもー、しょうがない!」

 その瞬間──ドゴオオオオオオオオッ!!

 訓練場の中央で、巨大な衝撃音が鳴り(ひび)いた。
 同時に砂ぼこりが巻き上がり、観客席からは様子が見えなくなる。
 観客はどよめくことしかできない。

「すげえ音したぞ!?」
「煙で見えねえ!」
「中はどうなったんだ!?」

 一方で、技を放った四人は目を見開いていた。

「「「「……ッ!」」」」

 自分たちの全力だった。
 リーゼル・コノメ・セレスは隠し玉を用意し、ノアルは覚醒した力の全てをぶつけた。
 しかし、それが止められていた。

 ──アスラひとりによって。

「君たち、ちょっとやりすぎかも」

 片腕では、二本の剣を止めている。
 ──【(ぜつ)()】。
 全ての剣技を受け流し、勢いを殺す剣聖の(わざ)だ。

 もう片腕では、二つの魔法を吸収した。
 ──【(ふう)()(じん)】。
 圧倒的な魔力量で魔法を押し殺し、無理やり封じる賢者の業である。

 そして、この体幹。
 剣聖・賢者クラスの業を同時に扱えるのは、武神としての心得があるからこそ。
 これが三役職を全て手にする、アスラという存在だ。

「「「「……っ」」」」

 もっとも、技を放った四人ですら、何が起きたか理解していない。
 急に技が消えたと思ったら、目の前にアスラがいたのだ。
 衝撃音も砂ぼこりも、アスラの“自作自演”である。

 すると、アスラはふっと笑う。

「結界、壊れそうだったよ」
「「「!」」」

 そこでようやく四人も気づいた。
 自分がどれほど力を付けたのかに。
 アスラに与えられた影響の大きさに。

 そんな中、アスラは目を見開く。

「──っと、やべ」

 砂ぼこりが晴れかけていたのだ。
 アスラは即座にその場を蹴った。

「あとよろしく!」

 そう言い残すと、シュバッと観客席に戻る。
 それとほぼ同時に、場内の砂ぼこりが引き始めた。

「おい、中が見えるぞ!?」
「さっきの衝撃やばくなかった!?」
「勝敗は決まったのか!?」

 中央に立っているのは、四人。
 誰も倒れていない。

 観客が困惑する中、最初に口を開いたのはコノメだった。

「これは引き分けですかね。まさか完全に相打ちとは」
「……! そうね、もうわたしも魔力が残ってないわ」

 セレスが空気を読んだ。
 それには剣チームも続く。

「わ、私も限界」
「僕も……!」

 こちらは少々ぎこちないが、お互いに認め合う。
 対決は引き分けで決着を迎えた。

 すると、割れんばかりの声援が会場を包む。

「「「うおおおおおおおおおお!」」」

 歓声はしばらく鳴りやまない。
 それぞれ高々と上げる感想が、一つの声になっているのだ。

「まじでハイレベルな戦いだったな!」
「本当にあれで一年生なのかよ!?」
「最後見れなかったのは惜しいけど!」
「そんだけすごい衝撃ってことだろ!」

 だが、中心で起きた事は誰も分かっていない。
 アスラの動きは把握できなかったようだ。

 すると、観客席のアスラは隠れて息を整える。

「ふぅ──って、あれ?」

 しかし、隣のレーニャの姿が消えていた。
 アスラが攻撃を止めた間に、どこかへ行ったらしい。
 それでも、レーニャを全面的に信頼しているアスラは、深くは追及しない。

「じゃ、任せた」

 なんとなく行動を察しながら。





 第一訓練場から少し離れた場所。

「はぁ、はぁ……ハハッ!」

 中年の男が、息を切らして走っていた。
 だが、その顔には興奮が浮かんでいる。

「いたんだ! 本当に学園にいたんだ! 役職持ちの男が!」

 この国の三役職──剣聖、賢者、武神。
 その正体は長く謎に包まれていた。

 しかし、それなりの実力者である男は確信した。
 先程のリーゼル達の技は、誰かに止められたのだと。
 誰かは把握できなかったが、出来るとしたら役職クラスだ。

 つまり、学園に役職持ちが存在すると。

「“あの方”の推測は当たっていた! 早く帰って報告しなければ!」

 男は雇われの身のようだ。
 “あの方”と呼ばれる者は、ボスだろう。
 男はもう笑いが止まらない。

「はっ、どこのバカか知らねえが、あんな目立つことをやりやがって! “対決を言いふらした奴”には感謝だなあ!」

 この男は、対決の噂を聞きつけて、第一訓練場に潜り込んだ。
 情報収集力の高さから、生徒にもスパイがいるのだろう。
 半分は無駄足覚悟だったが、ビンゴだったのだ。

「へへっ、これで俺も昇格──がはっ!?」

 だが、男の体は硬直したように止まり、吐血する。
 首に何かが巻き付いたのだ。

 すると、後方から声が聞こえる。

「お呼びでしょうかぁ」
「……!?」
「私が対決を言いふらした者ですが」

 そこに立っていたのは──レーニャ。
 彼女がムチを振るい、男の首を抑えたのだ。

 対して、男は顔を青ざめさせる。

「お、お前……“(めい)()の案内人”!」
「うふふっ」

 男も裏世界に身を置いているのだろう。
 裏世界でレーニャを知らない者はいない。

 レーニャは小さく笑う。

「その名前は捨てました。今は可憐なメイドです」
「は、はあ?」
「――ところで」

 レーニャはじっと目を向けた。

「これは誰の差し金ですかぁ?」
「……っ!」

 レーニャは最初から分かっていた。
 あえて事を大きくすれば、バカなネズミが紛れ込むと。
 対決を宣伝したのは、“釣り針”だったのだ。

 大笑いを上げていたこの男は、レーニャの罠に引っかかった魚に過ぎない。
 
「早く言ってくださいね」
「がふっ……!?」

 レーニャはムチをきつく締める。
 敵には全く容赦(ようしゃ)がない。
 普段から、アスラの手を汚させぬように、汚れ役は自ら買って出ているのだ。

「ほら」
「かッ……!」

 今度はムチが男の急所を撃ち抜いた。
 男はもう耐えられない。

「分かった! 言う、言うから! 俺だけは見逃してくれ!」
「はい」
「あの方は、()――」
「……!」

 その瞬間、男の体に魔法陣が浮かぶ。
 レーニャはすぐに距離を取った。

 すると──ボガアアアッ!
 男の身体が、内側から爆発した。

「……口封じですか」

 ボスを明かさないための仕掛けだ。
 口封じと同時に、聞き出そうとする者ごと爆発させる算段だろう。
 当然、レーニャは引っ掛からないが、すぐに思考を巡らせる。

「ふぅむ」

 相手は、役職に迫ってきている。
 セレスの事故を起こした奴らとも、同一組織かもしれない。
 目的は、役職の正体を暴くことか、それとも……。

「やはり、魔法に関する者で間違いなさそうですけど」

 レーニャはそう確信した。
 同時に、相手の状況もある程度掴むことができた。

 相手は、“役職が学園にいる”と推測している。
 しかし、その正体には至っていない。
 ならば、情報戦としてはまだ五分だ。

 レーニャは薄っすら笑みを浮かべた。

「ご主人様に(あだ)なす者は許しませんよ」





 一方、訓練場の外。

「ねえ」

 ふとセレスが口を開いた。
 対決終了後、アスラと二人で帰っていたのだ。
 そこでアスラをちらっと見る。

「あんた、まだ何か隠してない?」
「……ッ!!」

 尋ねたセレスの思惑とは──。