クズ悪役貴族、破滅回避のために主人公のルートを先回りクリアしたのがうっかりバレる~もう平穏に過ごしたいのに、最強の三役職が実は全部俺だと知ったヒロイン達が激しく執着してきます~

 「まさか、ここを開放する日が来るとは」

 アスラが深刻そうな声を()らした。
 ぼかぼかした木陰(こかげ)で、横になりながら。

「俺の昼寝スポットが潰されていくぜ」
 
 そして、そのままゴロンと寝転がる。

 校外学習から数日。
 セレスに賢者だとバレたことで、アスラの周囲は騒がしさが増していた。

 リーゼル、コノメ、セレス。
 平穏な学園生活を送るはずが、気づけば三人から執着されている。
 結果、温存していた昼寝スポットを、また一つ開放せざるを得なくなっていた。

 ──と、くだらない事に頭を悩ませる隣で、レーニャは真面目な顔つきをしていた。
 そのままアスラへ切り出す。

「ところでご主人様。例の件なのですが」
「!」

 その一言には、アスラも少し気を引き締める。

「やはり何者かが意図して起こしたと考えるのが自然です」
「……そうか」

 例の件とは、校外学習でセレスが巻き込まれた事故のこと。
 あの時、アスラはレーニャへ現場確認を命じていた。

 アスラは木漏(こも)れ日を見上げながら、思考を巡らせる。

(あれは原作になかったイベントだ)

 原作の校外学習では、ルートヒロインの内一人を選択し、同じ班になる。
 どのルートを選んでも、主人公は普通に成長し、ヒロインと距離が縮まるだけのはず。
 何がどう変わっても、事故が起きるような展開は存在しない。

 考え込むアスラに、レーニャは言葉を付け加える。

「その際に使用された魔法は、特定できませんでした」
「セレスに聞いても分からないって言ってたしな……」

 謎の残る事故だ。
 ただし、これらの事柄から導かれることはある。

 ダンジョンの壁を破壊できるほどの威力。
 セレスでも分からない複雑さ。
 魔法を仕掛けた人物は、かなり上級の魔法使いだろう。

 レーニャは話を続けようとする。

「では次に──」
「しー」

 だが、アスラは人差し指を立てた。
 少し離れた場所から近づいてくる気配がしたのだ。
 いつものヒロインズ──ではない。

 やがて一人の少年が、アスラの前で立ち止まった。

「やっと見つけました!」
「……!」

 爽やかな声の少年だ。
 しかし、彼の姿を見たアスラの目は、わずかに見開かれる。

(こいつ──!)

 すると、少年は自己紹介を始めた。

「はじめまして、同じクラスのノアルです!」

 平均的な身長に、邪気の無い表情。
 黒髪はいじっていないのか、少々ボサついてる。
 良く言えば純真、悪く言えば見た目に特別感がない。

 だが、アスラにとっては別だった。

原作主人公(・・・・・)……!)

 ノアルは、『エストレア・アカデミー』の主人公だ。
 本来なら剣聖、賢者、武神のいずれかの役職を手にする。
 つまり、アスラの敵であり、破滅の最も大きな原因になり得る存在だ。

(何しに来やがった……)

 アスラは警戒心を引き上げる。
 いざという時は100%勝てるが、何をきっかけにイベントが転がるか分からない。
 だからといって、警戒を悟られるわけにもいかない。

 そう考えた結果──。

「あん? てめえ、どこ中だコラ」

 田舎のヤンキーみたいになった。
 立ち上がり、ノアルにガンを飛ばしている。
 隣のレーニャも「アホだ……」と呆れていた。

 対して、ノアルは変に引かず、むしろ真っ直ぐ頭を下げた。

「す、すみません! でも、一つお願いがあって!」
「……言ってみろ」
「剣を習いたいんです!」
「…………」
 
 しかし、アスラは目を細めたまま返事しない。

(なるほど、こいつは向上心の(かたまり)だからな。色んな奴に声をかけて回ってるのか)

 主人公は様々な人物と関わり、学び、成長していく。
 基本、“陽キャ”になるわけだ。
 積極的で物怖じせず、すぐに頭を下げる真っ直ぐさもある。

 主人公としては素晴らしい性格と言えた。
 だが、アスラにとっては──。

(合わねえな。あと普通に面倒)

 おそらく、単純に声をかけられる番が回ってきただけだろう。
 そんな邪推(じゃすい)をしたアスラは、ノアルに背を向けて吐き捨てる。

「やだね。他を当たりな」
「そんな、待ってください! アスラ師匠(・・)!」
「!」

 だが、その呼びかけにはぴたっと足を止める。

「今なんと?」
「師匠です! 僕はアスラ師匠に習いたいんです!」
「……それで?」

 アスラはじろっと振り返ると、ノアルは嬉しそうに続けた。

「正直、良くない噂はいっぱい聞きました。でも、そんなの関係ありません!」
「ほう」
「授業を見てて思いました! きっと、すごい力を隠し持ってますよね!」
「ふむ」
「それで、どうして隠してるのか僕なりに考えたんです!」

 ノアルは目を輝かせて伝えた。

「多分、優しさだと思いました!」
「!!」
「本気を出せば皆さんの成績が落ちると考えて、わざと目立たないようにしてるんですよね! すごくカッコイイ(・・・・・)です!」
「……フッ」

 すると、アスラはノアルへ歩み寄り、肩にぽんと手を乗せた。

「なんだ。話を聞けば良い奴じゃないか」
「師匠……!」

 アスラに“舎弟(しゃてい)”ができた。

 とはいえ、ノアルも中々の観察眼だ。
 深く関われば、正体バレの危険性はある。
 だが、それすら一瞬で吹き飛ぶほど、アスラには“師匠”呼びがぶっ刺さった。

 後方のレーニャは息を吐いている。
 
(ちょっろ……)

 しかし、アスラは意気揚々と伝える。
 すでに師匠(づら)で。

「だが悲しいかな。俺はとある事情で力を見せられない」
「そ、そうなんですか!?」
「うむ。これも大いなる者の宿命なのだ」
「シビれます……!」
「フッ。よしたまえ、我が舎弟よ」

 完全に調子に乗っているが、線引きはしっかりしている。
 これ以上の正体バレは防ぐべく、無暗やたらに力は見せない。
 ただ、師匠としての役目は果たすようだ。

「しかし、指導してやることはできる」
「本当ですか!?」
「任せたまえ。あとはちょうどいい相手がいればよいのだが……」

 アスラが周囲をきょろきょろと見渡す。
 その時、所々から気配を察知した。
 彼女達(・・・)は、すぐにその姿を現す。

 上からセレス。

「あー、こんなところにいたわね!」

 右からリーゼル。

「また昼寝スポット変えてる」

 そして、背後からコノメ。

「ふふっ、探しましたよ」

 ものすごい執着具合だ。
 今日初めて開放したスポットも、もう見つかってしまった。

「君達怖いよ……」

 恐怖を覚えるアスラだが、今だけは都合が良い。
 アスラは、ノアルを含めて順に見渡した。

「ふむふむ」

 リーゼルとノアルは、剣。
 セレスとコノメは、魔法。
 それぞれ持つ武器が、ちょうどよく分かれていた。

 アスラはぴんと思いつくと、両手でかき分けるように示す。

「そこの二チーム、試合決定で」

 突如、メインキャラ達の二対二の対決が決まった──。