新規部活申請書に二重線が引かれて、旧部活復活申請書とした紙を楓先生に出す。部活名は「音楽たのしもう同好会」部長の欄は僕。部員は藤次くん、茶津目くん。顧問の欄はもちろん楓先生の名前が書かれている。
「おや」
楓先生が不思議そうに言うと、僕の隣にいる夕陽くんに目を向けた。何かを察したように、少し考える素振りを見せると溜息をつく。
「日色、あれほど素直になりなさいと……」
「うるせぇ」
「夕陽くん、先生には敬語を使わないと」
「う、る、せ、え!」
後ろで、藤次くんは呆れたようにして、茶津目くんは笑っていた。そして、その更に後ろで、ユウちゃんは「もう」と言いながら怒っていた。
「まあ、これで無事に、音楽たのしもう同好会が設立されたな。すぐにテスト期間に入って、すぐに夏休みだ。本格的な活動は夏休み後だな」
「はい」
僕らは気合を入れて返事をして、職員室を後にした。
「じゃあ、テスト期間が終わったら、さっそく部の最初の活動ってことで、花火でもしようよ」
茶津目くんが、ニコニコと笑いながら言う。
「花火?」
「そうそう、海とか行って花火をたのしもうよ」
「音楽関係ねぇじゃん」
「いいな、楽しそうだ」
僕はコッソリとユウちゃんの方を見る。花火、という事は必然的に日が落ちる時間帯になる訳で、僕として危険な状況になるのだ。ユウちゃんが僕の視線に気付くと、耳元まで口を近付けて言う。
「なんか、今ならだいじょーぶみたい」
「……なんで?」
「あの人、言ってたんでしょ」
神社のおじさんが言っていた言葉を思い出す。
――束の間の平和のなかで最期のひとときを過ごすと良い
「ユウちゃん、神社のおじさんは何者なの、束の間の平和ってどういうこと」
「悪霊が紬凪を襲って来ないってこと」
そんな都合のいい話があるんだろうか。そもそも、悪霊は常にいるものだし、来なくなるって事なんてあるんだろう。
「オレもよく分からなけど、あのおじさんが言うならそうなんだよ」
やっぱり腑に落ちない。
「紬凪?どうした」
「ううん、花火たのしみだね。みんなで楽しもう」
夕陽くんが僕を後ろから抱きしめて、みんなを威嚇するように睨みつけて言った。
「俺も行くからな」
「部員じゃないくせに?」「部員でもないのにか?」
彼は眉間の皺をますます深くして「うるせぇー!」と叫んだ。
*
それから、あっという間にテスト期間も終わり、無事に一学期の終業式を迎えることになった。一学期最後のHR「夏休みだからと言って羽目を外さないように」と先生が締めくくると「起立、気を付け、礼」と号令がかかる。先生が教室からいなくなると、皆がワッと湧き立った。早速、羽目を外している。去年はこの雰囲気の中で、僕はユウちゃんと二人で帰った。でも今日は……。
「紬凪くん、行こうか」
「うん」
茶津目くんが僕の机まで来てくれた。教室のドアの方を見ると、手をあげている藤次くんと、不機嫌そうにドアに寄りかかっている夕陽くんがいた。今日は皆んなで花火だ。ユウちゃんを見ると彼も楽しみなようで、くるっと空中で一回転してみせた。
僕たちは、とりあえずお昼ごはんを食べるため、高校の近くにあるファーストフード店にやって来た。藤次くんはたくさん食べるようで、ハンバーガーのセットを二つ頼んでいた。さすがの茶津目くんは、野菜中心のハンバーガーにサイドもサラダを頼んでいて「俺、ニキビできやすいんだよね」と肌を気にしていた。僕はというと、実はこういうところに来たのは初めて、何を頼めば良いのかかなり戸惑っている。
「こういうとこ来るの初めてなのかよ」
夕陽くんが僕に聞く。頷くと「今の気分は?肉?魚?」「……肉」「ガッツリ?控えめ?」「控えめ」とまるで、イエスノーチャートのように聞いてくれて、僕のハンバーガーを選んでくれたのだ。
「ユウちゃんは?」
僕はコッソリ、ユウちゃんに声をかけた。「チキンのやつがいい」と言っていたので、僕はパネルを操作して注文をしようとする。「それ、ユウちゃんの?じゃサイドは野菜にして」「やだ!」ユウちゃんが横から大きな声で言うが、ユウちゃんの声はもちろん届かない。「ポテト全部食べたらお腹痛くなるから、紬凪の分をちょっとあげて」そう言うと、ポチポチと注文パネルを操作していく。「あっ、やば、飲み物ついオレンジジュース入れちゃった。ユウちゃんに何が良いか聞いてくんない」ユウちゃんを見ると、ムッとした表情と小さな声で「オレンジジュース」と答えた。「大丈夫みたい」って答えると、夕陽くんはそのまま会計まで終わらせた。夕陽くんはユウちゃんの分を食べるらしく、自分の分は頼まなかった。
さすが、お兄ちゃん。ユウちゃん――陽太くんのことをよく分かっている。
皆んなで話をしながら盛り上がっているなか、チラリとユウちゃんを見ると不満気にハンバーガーをかじっていた。
*
ごはんを食べ終わると、今度は僕らはディスカウントショップに来た。店内にはキャッチーな音楽がずっと流れている。僕たちは花火コーナーではなく、なぜかコスプレ服コーナーに来ていた。
「次はメイド服なんてどうかな」
茶津目くんがメイド服を取ると、僕に合わせてくる。
「ふざけんな、こんな服、お前らの前で着せる訳ねぇーだろ!大体こんな服イメ「わあーーーー!こら、夕陽くん、ダメでしょ」
「不埒な!発言を慎め!」
僕と藤次くんで夕陽くんの発言を注意すると、茶津目くんは今度はナース服を取り出して僕に合わせてくる。
「俺はナース服の方が好みかな〜」
「不埒だそ!良い加減にしないか!」
「まあ、確かに良いよな」
「夕陽くん!?」
あははと笑いながら茶津目くんが、服を戻す。その横から藤次くんが一着の服を取り出して皆んなに見せた。
「俺はこういう小悪魔系のやつだ好みだ」
「お前が一番不埒なやつ選んでじゃねぇーか!」
「あはは、その見せ方だと、自分に合わせているみたいになってるよ気持ち悪い」
ユウちゃんもケラケラとお腹を抱えて笑っていた。
僕たちは次にお菓子コーナーへ移動して、カゴいっぱいの大量のお菓子を選んで、最後に花火コーナーへ行く。僕たちは色々な種類の物をたくさん買っていった。ユウちゃんがやりたがっていた七色に光る花火も、僕はカゴにいれた。とんでもない額になったけれど、僕たちは四人で荷物を分けて、日が暮れるまで海で遊びながら待つことにした。
僕たちはレジャーシートに四人、正しくは五人で横になっている。
「なんかこうしていると、青春って感じがするねー」
「あぁ、俺がこんな風に海辺で横になるなんて、思いもしなかったな」
「……僕も。友達と海に来るなんて思いもしなかった」
空を眺めながら、僕たちは会話をしていく。
「……てかさ、くっつき過ぎじゃない!?」
「いつもくっついているから、これが普通かと思っていたが、そうじゃなかったのか」
「君がもっと早く注意していたら、二人は道を間違えなかったのにね」
棘がある言い方を茶津目くんが言うと、藤次くんは落ち込んでいた。
「いやいや、ただくっついて寝てるだけだから平気だよ」
「はあああ?」
なぜか僕は怒られて、ユウちゃんはそんな夕陽くんを怒るように、砂をいっぱいかけていた。
「おい、ユウちゃん、やめろって!」
「まだ憑りつかれてるの」
「ユウちゃんの恨みは深いらしい」
ユウちゃんは途中からケラケラと笑いながら、楽しそうに夕陽くんに砂をかけていた。僕から見えている二人は、仲の良い兄弟が戯れ合っているようにしか見えないのに、夕陽くんにはユウちゃんの姿が見えていないのが、なんだかもどかしい。
ユウちゃんは、夕陽くんにずっと弟だと、陽太くんだと言わないつもりだろうか。
そうこうしているうちに、あっという間に日が落ちて夜が来た。みんなで花火に火を着けると、星の光に混じって、パチパチと派手な色が夜を照らされていく。皆んなではしゃいで、楽しい時間を過ごした。ユウちゃんも花火を持ってクルクル回って楽しそうにしている。
「ユウちゃん、楽しいね」
「うん!」
「ユウちゃんと二人きりの時も楽しかったけれど、皆んなで遊ぶのも楽しいよ」
「うん、オレも、皆んなと遊ぶの大好き!」
ジュッと音を立てて、ユウちゃんが持っていた花火が消えていった。僕の花火を渡すとユウちゃんは嬉しそうにまた花火の光を眺めていた
「僕がこんなに楽しい毎日を送れているのは、ユウちゃんのおかげだよ。あの日会えたから、今の僕がある」
ユウちゃんは花火から僕に目を移す。
「ユウちゃん、ありがとう。これからも、よろしくね。もっと皆んなで、色んなことをしていこうよ」
僕の渡した花火はすぐに消えてしまって、ユウちゃんを照らしていた光も消えてしまった。
「ユウちゃんは、何がしたい?」
「オレ、は……」
ちょうどその時、言葉をかき消すように藤次くんの「おーい、そろそろ線香花火やるぞー」という声が聞こえた。
「ユウちゃん?」
「紬凪、線香花火だって。知ってる?最後まで落っこちなければ、願い事が叶うんだよ、行こ」
ユウちゃんは、みんながいる方へ飛んで行った。どうしたんだろう。
僕たちは最後に一人一本ずつ、線香花火を持つ。パチパチと火花が弾けていく様子を見ると、さっきまで騒いでいたのが嘘みたいにしんみりとした雰囲気になった。さっきまでは気付かなかった磯の香りも感じる。
「ねぇ、線香花火って最後まで落とさないと、願い事が叶うらしいよ」
僕はさっきユウちゃんに聞いたことをみんな言う。
「そうなんだ、じゃあ俺は、好きなことが思う存分できますようにってお願いしようかな」
「俺はもっと絵が上手くなりますように」
「僕は、」
目をつぶって、自分の気持ちを確認してからもう一度開けてゆっくりと言う。
「ここにいる皆んなで、これからもっと色んな事ができますように、かな。夕陽くんは?」
「俺は、弟の願いが叶いますように」
夕陽くんは悩む素振りもなく、それが当たり前かのように言った。ユウちゃんはそれを聞くと、また夕陽くんに砂をかけた。
「ちょ、わっ、ユウちゃん!」
急に砂をかけられて、驚いた夕陽くんの線香花火が途中で落ちた。また二人は戯れ合うよに、お互いに砂を掛け合っている。そんな二人を眺めて、自分の手元に視線を戻したとさら、僕の線香花火も最後までいく前に、地面に落ちていた。
***
藤次と茶津目は家が逆方向らしく、俺と紬凪、そしてユウちゃんと三人になった。アイツらがいると、うるさくて仕方ない。でも、悪くないと思ってしまうのはだいぶ自分も毒されているのだろうか。
幽霊になって恩返しに来たという割には、紬凪は何もしてくれない。というか、心配を掛け、悪霊に襲われたり、攫われたりと、こっちは気が気じゃないのに、本人はあっけらかんとしている。俺のこと好きだ、好きだと言って、嫉妬もしてくるくせに、自分の方が男にモテ始めていることも気に食わない。
心が掻き乱されてばかりだ。
俺は要領よく適当に愛想よく笑って、女を抱いて、何も感じなくても適当に生きられればそれで良かったのに、気付けば感情的になって喋っている。
「夕陽くん、花火たのしかったね」
長い前髪から、くりっとした目を輝かせて言う。その目は、さっき見ていた花火の光よりも綺麗だった。
「あぁ」
「僕、本当に毎日たのしいんだ。ユウちゃんに会って、夕陽くんを好きなって、毎日楽しい。ありがとう、二人とも」
それは、俺だってそうだ。心が乱されてばっかりだけれど、紬凪と姿は見えないオバケと過ごす毎日は悪くないと思っている。
「夕陽くん、大好きだよ」
そう笑って俺を真っ直ぐ見る姿に、自分の鼓動が早くなっていくのが分かった。ずっと認められなかったけれど、なぜか何回も聞いたはずの言葉が今ストンと自分の中に落ちてきて、一つの気持ちが自然と出てきた。
――俺も、紬凪のことが好きだ。
誰かと付き合うなんて、面倒だと思っていた。でも今はコイツのことを独り占めしたくて、同じくらい、俺のことを想って欲しいと思っている。この気持ちを認めてしまえば、簡単に受け入れる事ができた。
そうか、恋人か。恋人同士になるのか。俺は紬凪の背中に手を回して抱き引き寄せると、もう片方の手を顎に添えると上を向かせた。ゆっくりとその唇に自分のものを近付けていく……
――ペチン!
頬を軽く叩かれた。弱々しくて全く痛くないが……はあ?
「つ、付き合ってもないのに、こ、こ、こういうことはダメです!」
はああ!?
後ろから、バシッと何かで叩かれる。振り向くとさっきのお菓子のゴミで、あの幽霊が叩いているのだろう、何度もバシ、バシと叩かれた。
はああああ!?
いやいや、分かんだろ。両思いだぞ俺たち。コイツ、俺のこと好きだっていうくせに、何で俺の気持ちがわかんねぇーんだよ!告白しないといけないのか!?俺も!?なんて言えばいいんだよ。てことはなに、俺が告白しない限り恋人じゃない訳で、コイツは横から掻っ攫われる可能性があるってことか。頭の中で、あのふざけた茶津目が紬凪の腰を抱いて手を振って去って行く姿が思い浮かぶ。ふざけんなよ。
それから、俺は二人と別れた後モヤモヤした気持ちを抱えたままコンビニに寄り、何を血迷ったのかじゃあ結婚してしまえばいいんじゃないのか、とか思って婚姻届がオマケについてる雑誌を買って帰った。この俺がだ。
帰ってその雑誌を机の上に置いたら、恥ずかしさのあまり思わず叫んでしまった。
****
夜中。悪霊がいないはずの夜。スヤスヤと寝息を立てて眠る紬凪に、ドロっとした手が首元へ伸びてくる。寸前のところで、その手は止まると、ソレは窓の外へ勢いよく飛び出して行った。その塊は、どんどん溶けていき、ついには悪霊へと変わって行った。ソレは神社の鳥居と同じくらいの大きさに変わって、鳥居の前に立ち止まる。
「おや、貴方でしたか。そうなる前に、天へ登っていけば良かったものの、しかもタイミングも悪い。彼の謹慎が解けましたよ、今日」
神社から出てきた男は、この悪霊に手をかざすが、すぐに下ろした。
「これでも責任を感じているのです。彼をアイツの元へやったのは私。まさかこんなに執着するとは思いもしませんでした。アイツを邪魔した君は、天に昇らなければアイツの手で消されてもう二度と、生をめぐる事は出来ないでしょう」
男は目を細めて笑う。
「我々は邪悪なモノを下へ送る事は出来ても、天に昇らずことは出来ない。しかし、人間の彼なら違う。最後に彼に掛けてみましょう。何人もの霊を天に昇らせた彼の力を……さあ、お行きなさい!最期の未練へと向き合うのです!」
大きな悪霊は空を飛び上がり、あのプラネタリウムがある山まで消えて行った。
「気を付けなさい、彼の君への恨みは強い。どんな手を使ってでも、君を消そうとするでしょう。さて、あの青年は、彼を天に送るのことはできるのか」
「おや」
楓先生が不思議そうに言うと、僕の隣にいる夕陽くんに目を向けた。何かを察したように、少し考える素振りを見せると溜息をつく。
「日色、あれほど素直になりなさいと……」
「うるせぇ」
「夕陽くん、先生には敬語を使わないと」
「う、る、せ、え!」
後ろで、藤次くんは呆れたようにして、茶津目くんは笑っていた。そして、その更に後ろで、ユウちゃんは「もう」と言いながら怒っていた。
「まあ、これで無事に、音楽たのしもう同好会が設立されたな。すぐにテスト期間に入って、すぐに夏休みだ。本格的な活動は夏休み後だな」
「はい」
僕らは気合を入れて返事をして、職員室を後にした。
「じゃあ、テスト期間が終わったら、さっそく部の最初の活動ってことで、花火でもしようよ」
茶津目くんが、ニコニコと笑いながら言う。
「花火?」
「そうそう、海とか行って花火をたのしもうよ」
「音楽関係ねぇじゃん」
「いいな、楽しそうだ」
僕はコッソリとユウちゃんの方を見る。花火、という事は必然的に日が落ちる時間帯になる訳で、僕として危険な状況になるのだ。ユウちゃんが僕の視線に気付くと、耳元まで口を近付けて言う。
「なんか、今ならだいじょーぶみたい」
「……なんで?」
「あの人、言ってたんでしょ」
神社のおじさんが言っていた言葉を思い出す。
――束の間の平和のなかで最期のひとときを過ごすと良い
「ユウちゃん、神社のおじさんは何者なの、束の間の平和ってどういうこと」
「悪霊が紬凪を襲って来ないってこと」
そんな都合のいい話があるんだろうか。そもそも、悪霊は常にいるものだし、来なくなるって事なんてあるんだろう。
「オレもよく分からなけど、あのおじさんが言うならそうなんだよ」
やっぱり腑に落ちない。
「紬凪?どうした」
「ううん、花火たのしみだね。みんなで楽しもう」
夕陽くんが僕を後ろから抱きしめて、みんなを威嚇するように睨みつけて言った。
「俺も行くからな」
「部員じゃないくせに?」「部員でもないのにか?」
彼は眉間の皺をますます深くして「うるせぇー!」と叫んだ。
*
それから、あっという間にテスト期間も終わり、無事に一学期の終業式を迎えることになった。一学期最後のHR「夏休みだからと言って羽目を外さないように」と先生が締めくくると「起立、気を付け、礼」と号令がかかる。先生が教室からいなくなると、皆がワッと湧き立った。早速、羽目を外している。去年はこの雰囲気の中で、僕はユウちゃんと二人で帰った。でも今日は……。
「紬凪くん、行こうか」
「うん」
茶津目くんが僕の机まで来てくれた。教室のドアの方を見ると、手をあげている藤次くんと、不機嫌そうにドアに寄りかかっている夕陽くんがいた。今日は皆んなで花火だ。ユウちゃんを見ると彼も楽しみなようで、くるっと空中で一回転してみせた。
僕たちは、とりあえずお昼ごはんを食べるため、高校の近くにあるファーストフード店にやって来た。藤次くんはたくさん食べるようで、ハンバーガーのセットを二つ頼んでいた。さすがの茶津目くんは、野菜中心のハンバーガーにサイドもサラダを頼んでいて「俺、ニキビできやすいんだよね」と肌を気にしていた。僕はというと、実はこういうところに来たのは初めて、何を頼めば良いのかかなり戸惑っている。
「こういうとこ来るの初めてなのかよ」
夕陽くんが僕に聞く。頷くと「今の気分は?肉?魚?」「……肉」「ガッツリ?控えめ?」「控えめ」とまるで、イエスノーチャートのように聞いてくれて、僕のハンバーガーを選んでくれたのだ。
「ユウちゃんは?」
僕はコッソリ、ユウちゃんに声をかけた。「チキンのやつがいい」と言っていたので、僕はパネルを操作して注文をしようとする。「それ、ユウちゃんの?じゃサイドは野菜にして」「やだ!」ユウちゃんが横から大きな声で言うが、ユウちゃんの声はもちろん届かない。「ポテト全部食べたらお腹痛くなるから、紬凪の分をちょっとあげて」そう言うと、ポチポチと注文パネルを操作していく。「あっ、やば、飲み物ついオレンジジュース入れちゃった。ユウちゃんに何が良いか聞いてくんない」ユウちゃんを見ると、ムッとした表情と小さな声で「オレンジジュース」と答えた。「大丈夫みたい」って答えると、夕陽くんはそのまま会計まで終わらせた。夕陽くんはユウちゃんの分を食べるらしく、自分の分は頼まなかった。
さすが、お兄ちゃん。ユウちゃん――陽太くんのことをよく分かっている。
皆んなで話をしながら盛り上がっているなか、チラリとユウちゃんを見ると不満気にハンバーガーをかじっていた。
*
ごはんを食べ終わると、今度は僕らはディスカウントショップに来た。店内にはキャッチーな音楽がずっと流れている。僕たちは花火コーナーではなく、なぜかコスプレ服コーナーに来ていた。
「次はメイド服なんてどうかな」
茶津目くんがメイド服を取ると、僕に合わせてくる。
「ふざけんな、こんな服、お前らの前で着せる訳ねぇーだろ!大体こんな服イメ「わあーーーー!こら、夕陽くん、ダメでしょ」
「不埒な!発言を慎め!」
僕と藤次くんで夕陽くんの発言を注意すると、茶津目くんは今度はナース服を取り出して僕に合わせてくる。
「俺はナース服の方が好みかな〜」
「不埒だそ!良い加減にしないか!」
「まあ、確かに良いよな」
「夕陽くん!?」
あははと笑いながら茶津目くんが、服を戻す。その横から藤次くんが一着の服を取り出して皆んなに見せた。
「俺はこういう小悪魔系のやつだ好みだ」
「お前が一番不埒なやつ選んでじゃねぇーか!」
「あはは、その見せ方だと、自分に合わせているみたいになってるよ気持ち悪い」
ユウちゃんもケラケラとお腹を抱えて笑っていた。
僕たちは次にお菓子コーナーへ移動して、カゴいっぱいの大量のお菓子を選んで、最後に花火コーナーへ行く。僕たちは色々な種類の物をたくさん買っていった。ユウちゃんがやりたがっていた七色に光る花火も、僕はカゴにいれた。とんでもない額になったけれど、僕たちは四人で荷物を分けて、日が暮れるまで海で遊びながら待つことにした。
僕たちはレジャーシートに四人、正しくは五人で横になっている。
「なんかこうしていると、青春って感じがするねー」
「あぁ、俺がこんな風に海辺で横になるなんて、思いもしなかったな」
「……僕も。友達と海に来るなんて思いもしなかった」
空を眺めながら、僕たちは会話をしていく。
「……てかさ、くっつき過ぎじゃない!?」
「いつもくっついているから、これが普通かと思っていたが、そうじゃなかったのか」
「君がもっと早く注意していたら、二人は道を間違えなかったのにね」
棘がある言い方を茶津目くんが言うと、藤次くんは落ち込んでいた。
「いやいや、ただくっついて寝てるだけだから平気だよ」
「はあああ?」
なぜか僕は怒られて、ユウちゃんはそんな夕陽くんを怒るように、砂をいっぱいかけていた。
「おい、ユウちゃん、やめろって!」
「まだ憑りつかれてるの」
「ユウちゃんの恨みは深いらしい」
ユウちゃんは途中からケラケラと笑いながら、楽しそうに夕陽くんに砂をかけていた。僕から見えている二人は、仲の良い兄弟が戯れ合っているようにしか見えないのに、夕陽くんにはユウちゃんの姿が見えていないのが、なんだかもどかしい。
ユウちゃんは、夕陽くんにずっと弟だと、陽太くんだと言わないつもりだろうか。
そうこうしているうちに、あっという間に日が落ちて夜が来た。みんなで花火に火を着けると、星の光に混じって、パチパチと派手な色が夜を照らされていく。皆んなではしゃいで、楽しい時間を過ごした。ユウちゃんも花火を持ってクルクル回って楽しそうにしている。
「ユウちゃん、楽しいね」
「うん!」
「ユウちゃんと二人きりの時も楽しかったけれど、皆んなで遊ぶのも楽しいよ」
「うん、オレも、皆んなと遊ぶの大好き!」
ジュッと音を立てて、ユウちゃんが持っていた花火が消えていった。僕の花火を渡すとユウちゃんは嬉しそうにまた花火の光を眺めていた
「僕がこんなに楽しい毎日を送れているのは、ユウちゃんのおかげだよ。あの日会えたから、今の僕がある」
ユウちゃんは花火から僕に目を移す。
「ユウちゃん、ありがとう。これからも、よろしくね。もっと皆んなで、色んなことをしていこうよ」
僕の渡した花火はすぐに消えてしまって、ユウちゃんを照らしていた光も消えてしまった。
「ユウちゃんは、何がしたい?」
「オレ、は……」
ちょうどその時、言葉をかき消すように藤次くんの「おーい、そろそろ線香花火やるぞー」という声が聞こえた。
「ユウちゃん?」
「紬凪、線香花火だって。知ってる?最後まで落っこちなければ、願い事が叶うんだよ、行こ」
ユウちゃんは、みんながいる方へ飛んで行った。どうしたんだろう。
僕たちは最後に一人一本ずつ、線香花火を持つ。パチパチと火花が弾けていく様子を見ると、さっきまで騒いでいたのが嘘みたいにしんみりとした雰囲気になった。さっきまでは気付かなかった磯の香りも感じる。
「ねぇ、線香花火って最後まで落とさないと、願い事が叶うらしいよ」
僕はさっきユウちゃんに聞いたことをみんな言う。
「そうなんだ、じゃあ俺は、好きなことが思う存分できますようにってお願いしようかな」
「俺はもっと絵が上手くなりますように」
「僕は、」
目をつぶって、自分の気持ちを確認してからもう一度開けてゆっくりと言う。
「ここにいる皆んなで、これからもっと色んな事ができますように、かな。夕陽くんは?」
「俺は、弟の願いが叶いますように」
夕陽くんは悩む素振りもなく、それが当たり前かのように言った。ユウちゃんはそれを聞くと、また夕陽くんに砂をかけた。
「ちょ、わっ、ユウちゃん!」
急に砂をかけられて、驚いた夕陽くんの線香花火が途中で落ちた。また二人は戯れ合うよに、お互いに砂を掛け合っている。そんな二人を眺めて、自分の手元に視線を戻したとさら、僕の線香花火も最後までいく前に、地面に落ちていた。
***
藤次と茶津目は家が逆方向らしく、俺と紬凪、そしてユウちゃんと三人になった。アイツらがいると、うるさくて仕方ない。でも、悪くないと思ってしまうのはだいぶ自分も毒されているのだろうか。
幽霊になって恩返しに来たという割には、紬凪は何もしてくれない。というか、心配を掛け、悪霊に襲われたり、攫われたりと、こっちは気が気じゃないのに、本人はあっけらかんとしている。俺のこと好きだ、好きだと言って、嫉妬もしてくるくせに、自分の方が男にモテ始めていることも気に食わない。
心が掻き乱されてばかりだ。
俺は要領よく適当に愛想よく笑って、女を抱いて、何も感じなくても適当に生きられればそれで良かったのに、気付けば感情的になって喋っている。
「夕陽くん、花火たのしかったね」
長い前髪から、くりっとした目を輝かせて言う。その目は、さっき見ていた花火の光よりも綺麗だった。
「あぁ」
「僕、本当に毎日たのしいんだ。ユウちゃんに会って、夕陽くんを好きなって、毎日楽しい。ありがとう、二人とも」
それは、俺だってそうだ。心が乱されてばっかりだけれど、紬凪と姿は見えないオバケと過ごす毎日は悪くないと思っている。
「夕陽くん、大好きだよ」
そう笑って俺を真っ直ぐ見る姿に、自分の鼓動が早くなっていくのが分かった。ずっと認められなかったけれど、なぜか何回も聞いたはずの言葉が今ストンと自分の中に落ちてきて、一つの気持ちが自然と出てきた。
――俺も、紬凪のことが好きだ。
誰かと付き合うなんて、面倒だと思っていた。でも今はコイツのことを独り占めしたくて、同じくらい、俺のことを想って欲しいと思っている。この気持ちを認めてしまえば、簡単に受け入れる事ができた。
そうか、恋人か。恋人同士になるのか。俺は紬凪の背中に手を回して抱き引き寄せると、もう片方の手を顎に添えると上を向かせた。ゆっくりとその唇に自分のものを近付けていく……
――ペチン!
頬を軽く叩かれた。弱々しくて全く痛くないが……はあ?
「つ、付き合ってもないのに、こ、こ、こういうことはダメです!」
はああ!?
後ろから、バシッと何かで叩かれる。振り向くとさっきのお菓子のゴミで、あの幽霊が叩いているのだろう、何度もバシ、バシと叩かれた。
はああああ!?
いやいや、分かんだろ。両思いだぞ俺たち。コイツ、俺のこと好きだっていうくせに、何で俺の気持ちがわかんねぇーんだよ!告白しないといけないのか!?俺も!?なんて言えばいいんだよ。てことはなに、俺が告白しない限り恋人じゃない訳で、コイツは横から掻っ攫われる可能性があるってことか。頭の中で、あのふざけた茶津目が紬凪の腰を抱いて手を振って去って行く姿が思い浮かぶ。ふざけんなよ。
それから、俺は二人と別れた後モヤモヤした気持ちを抱えたままコンビニに寄り、何を血迷ったのかじゃあ結婚してしまえばいいんじゃないのか、とか思って婚姻届がオマケについてる雑誌を買って帰った。この俺がだ。
帰ってその雑誌を机の上に置いたら、恥ずかしさのあまり思わず叫んでしまった。
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夜中。悪霊がいないはずの夜。スヤスヤと寝息を立てて眠る紬凪に、ドロっとした手が首元へ伸びてくる。寸前のところで、その手は止まると、ソレは窓の外へ勢いよく飛び出して行った。その塊は、どんどん溶けていき、ついには悪霊へと変わって行った。ソレは神社の鳥居と同じくらいの大きさに変わって、鳥居の前に立ち止まる。
「おや、貴方でしたか。そうなる前に、天へ登っていけば良かったものの、しかもタイミングも悪い。彼の謹慎が解けましたよ、今日」
神社から出てきた男は、この悪霊に手をかざすが、すぐに下ろした。
「これでも責任を感じているのです。彼をアイツの元へやったのは私。まさかこんなに執着するとは思いもしませんでした。アイツを邪魔した君は、天に昇らなければアイツの手で消されてもう二度と、生をめぐる事は出来ないでしょう」
男は目を細めて笑う。
「我々は邪悪なモノを下へ送る事は出来ても、天に昇らずことは出来ない。しかし、人間の彼なら違う。最後に彼に掛けてみましょう。何人もの霊を天に昇らせた彼の力を……さあ、お行きなさい!最期の未練へと向き合うのです!」
大きな悪霊は空を飛び上がり、あのプラネタリウムがある山まで消えて行った。
「気を付けなさい、彼の君への恨みは強い。どんな手を使ってでも、君を消そうとするでしょう。さて、あの青年は、彼を天に送るのことはできるのか」
