本当にスキな人とはスキ合えないみたい。


 その日から、依音による私のための“告白大作戦”が始まった。その時の私は、自分が告白をしに行くという自発性はほとんどなく、依音のペースに乗せられ自分よりも依音の方がこの作戦に積極的だった。
 でも、依音に、央芽への告白を提案されて、たった1つ気づいたことがあった。
 私は、央芽の彼女になりたいということ___。

「じゃあ、まずは、見た目だよ見た目!やっぱり告白するなら少しは努力した感出した方が、男子はキュンってするもんだよ!」

「そうなの・・・?」

「そうだよー!『俺のために頑張ってくれたんだ!』的な?」
 そう言って、依音は、自分のメイクポーチからアイプチを出して見せた。

「これ知っている!目を二重にするんだよね?」
 
 依音が渡してくれたアイプチは、寝る前につけて寝ると二重の癖がつく、ちょっと高めのものだった。
 前に買おうとしたことがあったが、うまく使いこなせそうになくてその時は諦めていた。
 私の目は一重寄りの奥二重で、ずっと自分の目の小ささがコンプレックスだった。

「そうそう!最初はうまくできないと思うから、家とかで練習してみて!これあげるから。」

「ええっ?!いいの?本当に?」

「いいよ、私今はこの通り両目二重になれたし。」
 依音はそう言って、私にアイプチをパッケージごとくれた。

「あ、あとリップした方がいいよ。咲樹の唇、血色悪いしカサカサだから。」

「だよねー・・・リップは何かおすすめある?」

 依音の顔をよく見ると、綺麗な幅の両目二重、ツヤがあってニキビ1つない肌、顔の大きさだって、私と全然違って小顔だ。
 コンプレックスだらけの私とは差が大きすぎる。
 央芽に告白する日までに、依音みたいな可愛い子になりたい___!

 その日から毎日アイプチの練習をするようになった。何度もアイプチを剥がしてはつけた痕で少し腫れた瞼。練習の成果で1週間経つと多少うまく貼り付けられるようにはなったが、まだまだ歪な形の二重瞼。
 でも、きっと前日までの私より絶対可愛い。
 自分を好きだと今までは思っていなかったが、可愛くなるために努力している自分は少し好きになれた。
 そう思えるのは協力すると言ってくれた依音のおかげだ。

「まだちょっぴり下手だけどお、上手くなったじゃん!アイプチ。」

「ありがとう。まだまだ下手だから、今日も帰ったら練習するよ。」

「えらい!えらいよお!央芽のためにこんなに頑張る咲樹可愛い!」

「本当にありがとう。でね、いつ告白するのがいいと思う?」

「うーん、何かの行事の日がいい気がするんだけど・・・」
 
 放課後、誰もいない教室で、央芽に告白をする日をいつにするかについて依音に相談していると、ふいに廊下からガヤガヤした男子達の声が聞こえてきた。

「しかし、央芽もついに彼女もちになるとはなあ!」

「うるせえ!まだOKもらってねえよ。」

「だっていい感じなんだろ?毎晩長電話したり。」

「まあ・・・俺は少なくともそう思っているけど。」

「うわー!でも央芽のこと好きな女子もいるんだぜ?何人の女子が泣くことか!」

「でも、好きじゃない女子と付き合う気にはなれねえよ。」

 少しも覚悟していなかったわけではない。告白を決意しても、央芽と両想いであるという自信は少しもなかった。ただ、可愛くなる努力をして、告白をすることによってダメだったとしても、少しは進展できるかもって思っていたのだ。
 ダメだった場合に、もしかしたら好きな人か彼女がいる可能性も考えた瞬間もあった。
 
「咲樹・・・」
 せっかく依音が協力してくれたのに。
 依音が悲しそうな表情で私の顔を覗き込む。
 
「・・・しょうがないよ!実は少し思っていたんだ、央芽にはもしかして好きな人がいるかもって。でも、一縷の望みにかけようって・・思ってさ。依音には、協力してもらって申し訳ないけどさ。」

 なんか・・・バカみたい。今日まで、頑張れば央芽の彼女になれるかもって思って、ウキウキして。
 アイプチの練習したり、溜まっていたお小遣いでいい値段のするリップ買ったり、ダイエットの動画見ながら運動したり、それらの努力は全部、央芽のたった一言で否定されてしまった。

『好きじゃない女子と付き合う気にはなれねえよ。』

 どう努力したら、私は央芽の好きな人になれたの?
 私なりに今日まで努力してきたつもりだったよ。
 でも、足りなかった。伝わらなかった。
 無駄になっちゃった。

「あれ、咲樹じゃん!それに、依音?!なんか、珍しい組み合わせだな。」
 今にも涙が溢れそうになった時、央芽とその取り巻きの男子達が教室に入ってきた。
 そして、央芽は、私と依音が机を向かい合わせて話している様子を見て目を丸くし驚いた表情を見せた。

「珍しくないよお。最近うちら仲良いんだよ?」
 依音がヘラッとした笑みで央芽に答える。

「まじかよ、咲樹?こいつ友達少ないから、よろしく頼むぜ!」
 そう言って央芽は依音の肩に手を置いた。
 でも、その手は少し震えたように見えたのは気のせいだろうか。

「ちょっとお!友達少ないとか失礼じゃない?」

「だって事実だろーが。」

「むかつくー!もう!咲樹ー、そんなことないよね?何か言ってやってよー。」

 お互い言い合っているその姿は、一見、喧嘩しているようにも見えて、すごく親密にも見えた。
 央芽は好きな人にはこんなふうになるんだ、そう思った。なかなか素直になれず、生意気なことを言ってしまう、そんな可愛いところ、私に見せてほしかったな・・・。
 央芽が依音を見つめる目線は、私に対してとは違い、優しく愛しさを兼ねたものだった。
 耐えられず、2人から思わず目を逸らし、カバンを手に持った。

「私そろそろ帰るわ!親心配するし。」

「ええー!帰っちゃうのー?じゃあ私も帰ろっかな。じゃあね、央芽!」

「お、おう!じゃあな!」

 好きな人の好きな人になる。その確率は一体どのくらいなんだろう?そして、その確率を覆すにはどう行動したらいいんだろう?
 やっぱり可愛くなる努力は必要だとして、神頼み?おまじない?できることを全てやっても、それでも好きな人の好きな人になれなかったら、この想いの行き場はどうなるんだろう?
 私の恋は行き場を失ってしまった___。

 私が、この恋の行き場を失ってから、約1年半が過ぎた。央芽は高校受験に無事成功した。これで本当に私と央芽は別々の高校に通うことになる。
 今日は中学の卒業式だ。卒業式はまだ始まっていないのに廊下のあちこちから啜り泣きが聞こえてくる。
 いわゆる女の勘で央芽が依音に気があると気づいてから、依音に対して距離を置いたり、話している時に上手に笑えなくなっており、依音への嫉妬心を隠しきれないでいた。
 まだ付き合っているわけではない。まだチャンスはある。そう言い聞かせては、何度も、央芽の依音に対する優しく愛しさを兼ねた瞳が脳裏に蘇ってきてしまう。
 

「あー!咲樹ー、こんなところにいたー。」

「あ、依音・・・」

「んもう!探したよお!何してんの?もうすぐ整列始まるよお?」

 前に央芽が図書室で見ていた、アイドルのアルバムの歌詞カードを慌ててケースに差し込み、依音のもとに駆け寄る。

「ねえね、今日卒業式じゃん?今日こそ伝えないとね。」

「私は・・・」
 
「今日伝えなかったら一生後悔するよ?!央芽、咲樹には心開いてるっぽいし、きっとOKもらえるよ!」

「ねえ、依音・・・」

「ん?なあに?」
 
 依音は央芽のことどう想っているんだろう。
 そんなこと聞く勇気はなくて、首を振り足早に歩く。聞いてどうする。もし「私も好きだよ。」なんて言われたら、きっと依音のことをお友達としてはもう見れなくなる。
 このまま依音とは普通のお友達でいたい。

「さあ、行こう!」
 
 もうすぐ、別れへの扉が開き、私達は別れへの扉の外に押し出されていく___。

 卒業って、前向きなんだろうか、それとも悲しいものなんだろうか。
 先生達や親は、揃って「卒業おめでとう!」と言い、前向きに捉えている。
 でも、私は___央芽と離れることで頭がいっぱいで、高校生になったら、近くに央芽がいないことが、悲しくて悲しくてたまらないんだ。
 恋が、こんなにも耐えられないほどの悲しさで胸を押しつぶしてくる日がくるなんて思いもしなかった。
 やっぱりやだよ。央芽ともうバカみたいな話して笑い合ったり、「央芽!」って呼んだら当たり前のようにあの眩しい笑顔で振り返る姿が見れなくなるなんて、やっぱり耐えられない___!
 伝えよう。もうどの道離れ離れになってしまうんだから、後悔しないように思いっきり大きな声で伝えるんだ。
 前の方の席に座る央芽の後ろ姿を目に焼き付けるように見ながら、私は今までの人生で1番の決意をした。

「やっぱり伝えることにしたんだ?咲樹ちゃん。」
 卒業式が終わってすぐ、私は早矢に、この後、央芽に告白することを知らせた。

「うん。振られちゃうかもだけど。」

「自信もちなってー!谷口君のこと下の名前で呼んでいる女子少ないんだから。それに、依音ちゃんのことだって単に気にしすぎな、ただの勘違いかもしれないじゃん。」

「うん・・・」

「あ!谷口君いるじゃん!ほら、行ってきな!」
 早矢と螺旋階段を上っていると、水飲み場のところに央芽がいるのが見えた。壁で隠れて見えないけど、誰かと話しているようだ。

「うん!行ってくるね!」
 早矢に手を振り、真っ先に央芽の元に駆け寄る。

「央・・・」

「ええー?第2ボタンなんて咲樹にあげた方が喜ぶと思うよー?」
 壁に隠れて見えていなかった、央芽と話していたのは、依音だった。

「いや、咲樹は友達だし!おまえは・・・違うじゃん。」
 照れくさそうに頭をかいて答える央芽。

 どういうこと・・・
 いや、頭のどこかでは分かっていた。央芽の好きな人が私ではなくて、私の近くにいる子だということ。
『咲樹は友達だし』、友達だし、友達だし・・・。
 央芽が悪気なく発したフレーズが、私の胸に突き刺さる。

「あ!咲樹だ!咲樹ー!」
 さっきの会話を聞かれているとも気づかずに、無邪気に手を振る依音。

「あ・・・私行かなきゃ・・・」
 行かなきゃ。この2人から離れなきゃ。
 高校を卒業した後も央芽のそばにいるのは私じゃなくて、依音だ___。

「え、どこ行くんだよ咲樹?」

「えー?咲樹どうしちゃったのー?」

 央芽は好きな人に渡す第2ボタンを依音に渡そうとしていた。分かっていた。分かっていたけど、こんなにはっきり現実を突きつけられると、耐えられない。
 ただ耐えられなくて、その場にいたくなくて、独りになりたくて、無我夢中で走り続けた。
 そして、私は学校1大きな桜の木の前に辿り着いた。
 桜の木に語りかける。

「ねえ・・・なんで?私、どうしたら良かったの。どうしたら好きな人の好きな人になれたの?私の恋・・終わっちゃったよ。好きな人の隣にいられないの。どうしたら・・・良かったの。」

 スキな人とスキ合えなかった中3の春。