「おはよう、咲樹。」
「おはよう、央芽。」
あれから、私達はお互いを下の名前で呼び合うようになり、同じ委員会に所属になったこともあり、以前より話す機会が増え、距離が縮まった気がする。
でも、それは恋心をもたれているというわけではなくて、“友達”として進展した、という感じだ。
「今日の小テスト勉強した?」
「したした。居残りやだし。」
「それな!でも俺今回勉強するの忘れちまってさ。」
「えー!やばいじゃん!居残り確定??」
「ま、余裕でサボるけどな!ハハッ」
こうやって央芽と2人で笑い合う時間が私には欠かせない大切な時間だ。でも、それも約1年半で終わってしまう。
そう思うと寂しくてたまらない。今すぐ「すき」って言って抱きつきたい気持ちになる。もし、そんなことしたら央芽がどんな反応を見せるのかな・・・。
「ねえ、央芽・・・」
「ん?」
「あのさ・・・」
私の気持ちを今、央芽に伝えたらどうなる?
央芽の心の中に少しは、私いるかな?
それとも、別の誰かがいる?
ねえ教えて___
「央芽ー!」
聞いたことのある声だった。
海瀬依音、同じ学年で隣のクラスの女子。明るくて人懐っこく声が大きい子。
「おう!海瀬!今日の小テストの点数は負けないからな!」
「それはこっちのセリフだしい!」
なんだか仲良さそう。央芽は海瀬さんのこと下の名前では呼んでいないけれど、2人の会話の雰囲気がなんだかいい感じだ。胸がキュッと縮まる感覚がする。
「あっこんにちは。えーと・・・」
誰?という困ったように海瀬依音が言う。
「桜丘!桜丘咲樹です。」
「じゃあ咲樹。咲樹って呼んでもいい?私のことも、依音って呼んでよ。」
「あっうん。」
本当に人懐っこい人だな・・・。初対面の私に、いきなり下の名前で呼んでくるなんて。
依音は、隣のクラスで一軍に属している女子だ。カバンにぬいぐるみのような大きさのキーホルダーをぶら下げ派手に着飾っている、いわゆるイケイケ系女子だ。それに比べて私は影の薄い女子グループに所属しているから、一軍の女子とは無縁だ。話したことはほとんどない。
一軍の女子に何か用ができて話しかけることになると、少しだけビビってしまい小声になって必ず聞き返される。
だから、初めは依音にもそんな感じで接していたのだが、依音はかまわず、毎日顔を合わせたら挨拶がてら話しかけてくるようになった。
部活の話、趣味の話、友達の話、怖い生活指導の先生の話、そして・・・好きな人がいるか。
依音は私が思っているよりいい子そうだった。影の薄い女子グループにいる私にも、他の子にも分け隔てなく人懐っこかった。声が大きいことは他の子も嫌がっていたけれど、頻繁に話しかけられていく中で「この子いい子かも。」って思うようになった。そして、特に理由はないけれど信頼できそうって思った。ただそれだけだった。それだけで、私は、依音に何よりも大事なことを打ち明けた___。
「ねえね、咲樹って好きな人とかいないのー?」
依音は休み時間に突然私の席に来て尋ねた。
「えっ?むぐっ」
飲んでいた水筒のお茶をむせそうになった。
依音と話すようになって2週間程経った。
そろそろ、そういった踏み込んだ話もあるだろうと思った。
“好きな人”___
女子は恋バナが大好きだ。私だって、他人の恋バナを聞くのは大好きだ。でも、自分の恋バナは、親友の早矢にしか話していない。
「あー!!その反応いるんでしょー?」
「しー!声が大きい・・・」
「あっごめんごめん。依音はいつもつい大きな声出しちゃうんだよねえ。だから男子からも女子からも、鬱陶しがられがちで・・・」
「依音・・・」
依音、気にしいなところあるんだ・・・。
いつも堂々としていて憧れる部分もあって、コンプレックスなんて何もない子だと思っていたのに、依音でもコンプレックスあるんだ。そんな一面を知ったら可愛いって余計に思えてくる。
「だから咲樹が私のこと鬱陶しがらないで、まだ仲良くしてくれているのとても嬉しいの!」
「私も・・・依音がこんな私と仲良くしてくれるなんて思わなかったから嬉しいよ。」
「咲樹ー!大好きっ!あっ・・・」
また大きな声で大好きと言いながら私に抱きついて慌てて口を手で抑える依音。
「ふふっ」
そんな依音に思わず笑みがこぼれる。
「でっ?!なんて名前なの?」
「はっ、誰が。」
「もうー、咲樹の好きな人だよー。いるんでしょ??好きな人。」
忘れていなかったみたいだ・・・。
てっきり恋バナからは完全に話が逸れたと思ったのに。でも、依音みたいな子になら打ち明けてもいいかな・・・。
「うん、まあ・・・。」
「だれだれっ?私まじで口堅いから!」
「じゃあ・・絶対秘密にしてよ?・・・同じクラスの、谷口央芽。」
「へっ?!まじで?央芽とうち仲良いよ?協力できんじゃん!」
そうなんだ・・・。央芽と依音が話している様子から仲良さそうとは思っていたけれど本当に仲良いんだ。
協力してくれると言ってくれた嬉しさと、央芽と依音が仲良いことの複雑さで、顔がこわばって何も言葉が出ない。
「とりあえずまずは告白だよねー。シチュエーションとか・・」
「・・へっ?!告白??ま、待って、私告白なんてするつもりは・・・」
「恋が動くのは告白してからなんだよ?告白されたらー、やっぱりどんな相手でも意識するもんだしい、告白は早いうちにした方がいいよ!央芽、わりとモテるっぽいし、ライバルと差をつけるチャンス!」
恋が動くのは告白してから___
ライバルと差をつけるチャンス___
依音が言ったフレーズが頭の中をぐるぐると回り、私の脳内を混乱の渦に巻き込んでいく。
本当にそうだろうか。告白せずに、恋を動かして、ライバルと差をつけることはできないんだろうか。
「さあどうする?!告白するなら、私は全力でサポートするよ?」
どうするのが正解かは分からない。でも、少しでも勝算があるなら、私はそれに賭けたい___。
「私、頑張る!」
どんな結果になるか分からない。でも、私はこの恋に全力を出すとこの時決めたんだ。
「さすが咲樹!全力でサポートするから!」
そう言った“いつもの依音”の顔が、ほんの一瞬、 変わった気がしたのは気のせいだろうか___。
