本当にスキな人とはスキ合えないみたい。


 あなたにはこの季節になると必ず思い出してしまうという人はいますか?
 私には、毎年桜の季節になるとどうしても思い出してしまう人がいます。
 桜が咲いたら、ああそろそろ彼と離れ離れになってしまったあの季節が来てしまったんだなと思います。
 桜が散り始めると、ああそろそろ彼のことを忘れて前に進まなければならないのかなと思ったりします。しかし、私は10年以上経った今も、未練たらたらに彼のことを想い続け、夢にも見てしまうのです。
 なので、私は、彼に恋した日々、彼への想いを忘れる一歩を踏み出すために、この小説を書き始めました。
 あなたの心のどこかにいる忘れられない誰かを思い出しながら読んでいただけたら幸いに思います。




 昔からゆっくり行動するが好きだった。私には時が過ぎるのはいつもゆっくりに見えていて、何かに急ぐ理由が私にはなかった。電車の各駅停車、閉店間際のお店、列の1番後ろがなんだか安心する。もらうのも選ぶのも最後。それが私だった。
 でも、私の親友は違った。

「もう!咲樹(さき)ちゃん!!遅いよ、遅刻しちゃうよ!」

「ごめんごめんて。別に少し遅刻しちゃうぐらいいいじゃん。今の担任ならそんな怒られるわけじゃないし。」

「私皆勤賞狙ってるの!!無遅刻無欠席!!」

 私は桜丘咲樹(さくらおかさき)
 よくみんなには元気でいることを褒められる。ついでにおっちょこちょいだから、クラスメイトにいじられることも多い。

「もうー!もし遅刻したら咲樹ちゃんのせいだからね!」

「はいはい。」

 さっきからせかせかしてプンプン怒っているのは、親友の木ノ下早矢(さや)。私と真逆でせっかち。でも時間のこと以外では優しいし、この子以上に優しい子にまだ出会ったことがないぐらいだ。

「あっ!ちょうど急行来た!乗るよ!」

「うん。ギリギリ間に合いそうじゃん。」

 急行の電車は苦手だ。朝のこの時間は絶対満員電車で窮屈だし、足踏まれたり嫌な思いをしたりする。ただ早く駅に着く以外にいいところなんてない。
 それなら、私はたとえ遅刻したとしても各駅停車でゆっくり座っていきたい。
 きっと私はこれからもゆっくりマイペースに生きていくんだろう。
 
「あれっ?咲樹ちゃん。あの人・・最近咲樹ちゃんが気になっているって言っていた人じゃない?」

 早矢がひそひそ声で私に耳打ちする。
 早矢の指差す方向を見ると、たしかに私の最近好きになったばかりのあの人の後ろ姿が見えた。三連休で染め直したのか、きれいに染まった茶髪の寝癖が風に揺れている。

 彼は谷口央芽(おうが)。今年度初めて同じクラスで前後の席で関わるようになった、クラスメイトの男子だ。初めはただの“クラスメイトの1人”に過ぎなかったが、フレンドリーな人柄の彼は一方的に私に話しかけてきた。
 好きな授業、口うるさい先生の愚痴、部活や委員会の話、好きなアイドル、最近お気に入りの歌、趣味の話、友達と何して遊ぶか。毎日毎日鬱陶しいなと思っていた。第一印象で、チャラいだけの何の魅力もない男子だと思っていたから。
 
 でも、毎日話しかけられているうちに、私は央芽を目で追うようになっていた。初めは無自覚だった。
 だけど、ある日、私は美容院で縮毛矯正をしてもらった。元々チリチリしたひどい癖毛の私が縮毛矯正をしてもらって、サラサラのストレートヘアになったことに親友早矢を初めとしてクラスメイトがみんな驚いた。
 その中でも谷口が特別驚いていた。私の髪なんて後ろからでも充分見えるのに、真正面から顔を覗き込んできて、「可愛いじゃん!良きだぜ!!」と言ってきた。
 その瞬間、顔だけでなく、体までも熱くほてるのを感じた。誰の褒め言葉より、谷口の褒め言葉が照れくさくて嬉しくて恥ずかしくて大切で何よりも大きかった。谷口がクラスメイトに呼ばれその場を去った後、早矢が言った。

「その反応・・・ふふっ好きなんだね、咲樹ちゃん。谷口君のこと。」

 ああ、私、谷口のこと好きなんだ。
 好きになっちゃったんだ。そう思った。

「おはようとか言ってくれば?」

「へっ?」

 考え事をしていたら早矢が私の顔を覗き込んで聞いてきた。唐突な提案に間抜けな声が出てしまう。

「好きな人には挨拶ぐらい自分から普通にできないと!進展できないよー。ほら、行ってらっしゃい!私隣のドアから乗ってるからー。」

 そう言い、早矢は走っていき、谷口が乗ろうとしているドアの隣のドアから乗っていった。

 取り残された私は、発車ベルに急かされた。
 ゆっくりが好きな私なのに発車ベルに急かされ、考える間もなく、私も走り出した。

「お、はよう!谷口!」

「・・・おおう、おはよう。」

 戸惑ったような驚いたような表情だった。
 谷口の顔を真正面から見れたのはたった一瞬ほどで、すぐに顔を背けて隣のドアから電車に乗った。

「どうだった?」

 ドアの左側を確保していた早矢がこっそり聞いてくる。

「うん、挨拶できたよ。」

「良かったじゃんー!この調子で毎日挨拶していこうよ!!やっぱり挨拶大事だし!!」

「う、うん!」

 返事をしながら電車の中で央芽の姿を探す。
 谷口の姿を見つけた時、視線を感じたのか、央芽もこちらを見る。視線が合い、恥ずかしさでいっぱいいっぱいになり、つい視線を逸らしてしまう。こういう時、微笑んだりできる子が可愛いんだろうなあ。

 駅に着き電車から降りると、また早矢が耳打ちしてきた。

「ねえ、この流れで学校まで2人で行けば?」

「ええっ!?無理だよ、無理無理!」

 そんなことしたら心臓がもたない。
 谷口から話しかけてくることはあっても、私から話しかけることなんてほとんどない。教科書忘れた時とか必要な時以外は一切話しかけない。

「でも・・・このまま陰で密かに片想い、ってわけにもいかないでしょー?」

「うっ・・でっでも、今すぐどうにかなりたいとか思っていないから。」

「そんなこと言っているとー!あっという間に他の女子にとられちゃうよー??谷口君人気みたいだし。」

「でもさあ・・・」

 たしかに谷口央芽は女子からも人気がある。いつも大勢の男子や女子に囲まれて、大きい声で笑ったり話している。茶髪でチャラいけれど、フレンドリーな性格の谷口は、たとえ距離を置かれていても自分の渦の中に人を巻き込んでいくのがとても上手い。
 私も、距離を置いていたのに谷口の渦の中に巻き込まれて好きになってしまったのだから。
 他にも、谷口のことが好きな子がいても別におかしくはない。
 もしくは___。