✻ ✻ ✻
亜奈が提案したテレビ局潜入。検討の末、やってみることにした。
どうやらその日、Fox:y は朝のニュース番組・昼の情報バラエティ・午後のワイドショー・夕方のニュース番組と出ずっぱりになるらしい。
「だから絶対、局にいるんだよ!」
亜奈は期待に胸をふくらませ、ぽんぽこ神社を出た。たぬきも麻美子も一緒だ。
鳥居の外は――もう最新の大都会。見上げる高層ビルの間を吹き抜ける強い風にあおられて麻美子はちょっとビクついている。今回ばかりは付き添うというより連れていってもらう感が否めなかった。
「これこれ! 来たことないけど映像では知ってる」
亜奈が指さしたのはテレビ局のビルだ。
まあ、たぬきが中をウロウロしたところで働く人々の邪魔にはならないと思う。霊感のある人間はいるかもしれないけど、大抵の人の目にはとまらないはずだ。
それにそういう場所には幽霊話がつきもの。ということは幽霊もたびたび目撃されているのだろう。亜奈のように未練を抱えた幽霊が他にも来るということか。
「ていうか住んでたりしてね!」
亜奈はワクワクと軽口を叩く。なんとなく肝試し的感覚だ。
もちろん生の Fox:y に会う以上に興奮することはないのだが、よく聞くじゃないか。売れないまま死んだ女優の霊がさまよっているとか、撮影中の事故で犠牲になったスタッフがずっとスタジオにいるとか。
「そんなにホイホイ幽霊がいるわけないでしょ。普通はすぐ消えるんだし」
「麻実たん、自分も幽霊なのに」
「未練なんて、どんどん薄れるものよ?」
「八十年以上幽霊やってる人がなんか言ってる」
そう言う亜奈だって幽霊だが、まだ成りたてホヤホヤのピチピチだ。
二人と一匹は元気に守衛の前を通り過ぎ、受付を横目に奥へ入り込んだ。誰にも見とがめられない。立ちどまった亜奈はエレベーターホールで局内の概略を調べた。
「ドラマ制作じゃなくて報道フロアの控え室にいるんだよね、きっと」
「そのへんは亜奈ちゃんに任せる。私たちにはわからないから」
「ですですー」
たぬきがテレビ局内に詳しいわけはない。なのでポテポテと亜奈についていった。広い建物だが基本的にエレベーター移動なので助かる。
報道関係の階に移動してみて亜奈は喜びの悲鳴をあげた。新ドラマのポスターが並ぶエレベーター前の廊下に、Fox:y の新曲も混ざっていたのだ。リーダー・サクヤが出演するドラマの主題歌、というやつ。
「っきゃあぁ! ビジュよすぎ……ああ生き返る、ありがとうございます!」
「だから生き返らないって……なんでいちいち大げさなの?」
生きるの死ぬのと亜奈がすぐに言うものだから、麻美子はあきれ顔。でも今のヲタクとはそういうものだし仕方ない。
「ふぉくしーさんたちは、どうしてきつねの影絵の手つきをしているのです?」
ポスター写真の中でメンバー四人はそれぞれにポーズを決めていた。
真っ直ぐ挑みかかるような瞳のケン。
優しく微笑むルカ。
イタズラに跳びはねるタヒコ。
静かな流し目のサクヤ。
イメージカラーの赤・緑・黄・青をあしらった衣装は、胸もとからチラリと胸筋がのぞいていた。そこはセクシーだが、四人とも片手でさりげなく狐ポーズを作っているのが可愛いくも思える。
「え、だって Fox:y だからじゃん」
亜奈はきょとんとした。そんな当たり前のことを訊かれるとは思わなかった。
「ふぉくしー、とはなんなのです?」
「フォックスだよ。狐」
「きつねです!?」
たぬきは仰天した。英語など知らない。
「フォクシーってなると、狐のような、て意味。あとは綺麗で色っぽいことのスラングなんだって。グループ名の由来だもんね、そこはファンとして知っておくべきでしょ?」
得意げな亜奈の足もとで、たぬきは難しい顔だった。
狐といえば何かと化かし合う、たぬきにとっては因縁の種族。そんな名を背負うアイドルグループなどに会いに来てしまったのか――。
「――気に入らないですー」
「え、何が」
「きつねが、ですー」
「ひっど!」
憤慨する亜奈の肩に手を置き、麻美子がなだめる。
「ほら、たぬきはたぬき族だから。仕方ないの」
「んー、まあわかるけど。嫌がるのは動物の狐だけにしてよ? Fox:y は最高なんだから!」
「あれ、ドラマ班の方ですか?」
最後の質問は、廊下の先から飛んできたものだ。
麻美子と亜奈が振り向くと、動きやすいパンツ姿の若い女性が歩いてくる。腕に紙の束とタブレットを抱えているのでディレクターか何かだろうか。
「こちら報道フロアなんですけど。撮影スタジオは下ですね。迷ったりしてますか? 案内が必要ですか?」
どうやらドラマの出演者だと思われたらしい。きっと麻美子が着ている装束のせいだ。
……というか、はっきり視認されているのか。麻美子はため息をかみ殺す。現実の人間と勘違いするほどとは、霊感が強いのも大変そうだ。
亜奈が提案したテレビ局潜入。検討の末、やってみることにした。
どうやらその日、Fox:y は朝のニュース番組・昼の情報バラエティ・午後のワイドショー・夕方のニュース番組と出ずっぱりになるらしい。
「だから絶対、局にいるんだよ!」
亜奈は期待に胸をふくらませ、ぽんぽこ神社を出た。たぬきも麻美子も一緒だ。
鳥居の外は――もう最新の大都会。見上げる高層ビルの間を吹き抜ける強い風にあおられて麻美子はちょっとビクついている。今回ばかりは付き添うというより連れていってもらう感が否めなかった。
「これこれ! 来たことないけど映像では知ってる」
亜奈が指さしたのはテレビ局のビルだ。
まあ、たぬきが中をウロウロしたところで働く人々の邪魔にはならないと思う。霊感のある人間はいるかもしれないけど、大抵の人の目にはとまらないはずだ。
それにそういう場所には幽霊話がつきもの。ということは幽霊もたびたび目撃されているのだろう。亜奈のように未練を抱えた幽霊が他にも来るということか。
「ていうか住んでたりしてね!」
亜奈はワクワクと軽口を叩く。なんとなく肝試し的感覚だ。
もちろん生の Fox:y に会う以上に興奮することはないのだが、よく聞くじゃないか。売れないまま死んだ女優の霊がさまよっているとか、撮影中の事故で犠牲になったスタッフがずっとスタジオにいるとか。
「そんなにホイホイ幽霊がいるわけないでしょ。普通はすぐ消えるんだし」
「麻実たん、自分も幽霊なのに」
「未練なんて、どんどん薄れるものよ?」
「八十年以上幽霊やってる人がなんか言ってる」
そう言う亜奈だって幽霊だが、まだ成りたてホヤホヤのピチピチだ。
二人と一匹は元気に守衛の前を通り過ぎ、受付を横目に奥へ入り込んだ。誰にも見とがめられない。立ちどまった亜奈はエレベーターホールで局内の概略を調べた。
「ドラマ制作じゃなくて報道フロアの控え室にいるんだよね、きっと」
「そのへんは亜奈ちゃんに任せる。私たちにはわからないから」
「ですですー」
たぬきがテレビ局内に詳しいわけはない。なのでポテポテと亜奈についていった。広い建物だが基本的にエレベーター移動なので助かる。
報道関係の階に移動してみて亜奈は喜びの悲鳴をあげた。新ドラマのポスターが並ぶエレベーター前の廊下に、Fox:y の新曲も混ざっていたのだ。リーダー・サクヤが出演するドラマの主題歌、というやつ。
「っきゃあぁ! ビジュよすぎ……ああ生き返る、ありがとうございます!」
「だから生き返らないって……なんでいちいち大げさなの?」
生きるの死ぬのと亜奈がすぐに言うものだから、麻美子はあきれ顔。でも今のヲタクとはそういうものだし仕方ない。
「ふぉくしーさんたちは、どうしてきつねの影絵の手つきをしているのです?」
ポスター写真の中でメンバー四人はそれぞれにポーズを決めていた。
真っ直ぐ挑みかかるような瞳のケン。
優しく微笑むルカ。
イタズラに跳びはねるタヒコ。
静かな流し目のサクヤ。
イメージカラーの赤・緑・黄・青をあしらった衣装は、胸もとからチラリと胸筋がのぞいていた。そこはセクシーだが、四人とも片手でさりげなく狐ポーズを作っているのが可愛いくも思える。
「え、だって Fox:y だからじゃん」
亜奈はきょとんとした。そんな当たり前のことを訊かれるとは思わなかった。
「ふぉくしー、とはなんなのです?」
「フォックスだよ。狐」
「きつねです!?」
たぬきは仰天した。英語など知らない。
「フォクシーってなると、狐のような、て意味。あとは綺麗で色っぽいことのスラングなんだって。グループ名の由来だもんね、そこはファンとして知っておくべきでしょ?」
得意げな亜奈の足もとで、たぬきは難しい顔だった。
狐といえば何かと化かし合う、たぬきにとっては因縁の種族。そんな名を背負うアイドルグループなどに会いに来てしまったのか――。
「――気に入らないですー」
「え、何が」
「きつねが、ですー」
「ひっど!」
憤慨する亜奈の肩に手を置き、麻美子がなだめる。
「ほら、たぬきはたぬき族だから。仕方ないの」
「んー、まあわかるけど。嫌がるのは動物の狐だけにしてよ? Fox:y は最高なんだから!」
「あれ、ドラマ班の方ですか?」
最後の質問は、廊下の先から飛んできたものだ。
麻美子と亜奈が振り向くと、動きやすいパンツ姿の若い女性が歩いてくる。腕に紙の束とタブレットを抱えているのでディレクターか何かだろうか。
「こちら報道フロアなんですけど。撮影スタジオは下ですね。迷ったりしてますか? 案内が必要ですか?」
どうやらドラマの出演者だと思われたらしい。きっと麻美子が着ている装束のせいだ。
……というか、はっきり視認されているのか。麻美子はため息をかみ殺す。現実の人間と勘違いするほどとは、霊感が強いのも大変そうだ。



