✻ ✻ ✻
亜奈が推している〈Fox:y〉とは、四人組の男性アイドルグループだ。
ワイルド&セクシー担当のケン。
王子&セクシー担当のルカ。
キュート&セクシー担当のタヒコ。
クール&セクシー担当でリーダーのサクヤ。
Fox:y のすばらしさを布教する亜奈の解説を聞かされて、麻美子は普通にツッコんだ。
「全員セクシーってこと?」
「せくしーとは、です……」
たぬきは香箱座りして首をかしげた。この姿はたぶん、セクシーではない。
ぽってり柔らかい腹。もっふりした肩と背中。ぶにぷにの肉球。ある意味ではマニア垂涎のボディといえるが。
「だって超セクシーなんだよ! あーもちろん下品なエロとかじゃないんだけど! もれ出す色気っていうの?」
亜奈は床をバンバン叩いた。
ここはぽんぽこ神社の社務所。亜奈最大の未練なのかもしれない推しアイドル、Fox:y について熱弁をふるっているところだった。
「ああぁ、見ればわかるんだよぉぉ! 動く Fox:y を麻美たんにも見せたい! ていうかあたしが拝んで落ち着きたい! ねえなんでスマホ使えないのー? やだやだやだぁ!」
「駄々っ子」
推しの禁断症状に苦しみだした亜奈に、麻美子は冷静な目を向けた。そもそも「推し」という概念がよくわからない。
だけど亜奈にしてみれば、この世に推しを遺して消えてしまうなど断腸の思い。せっかくライブだって当選していたのに!
「ぐうぅ……ドーム公演……いぎだがっだよおぉぉっ!!」
「ドーム?」
「全国ツアーのひとつ! あたしがなんのためにお年玉ためてたと思う!? Fox:y のために決まってんじゃん!」
「はあ」
「あ、でもチケット決済はしてあるわ。公式にお布施はできてた! いや、てことは空席を作ってしまったんじゃないか、あたし!? うっわなんたる罪!」
「つみ……」
「ああどうしようステージに現れた Fox:y のメンバーが恋人たちを見渡して満席であるべきそこにポツンと暗い空間を見つけてしまったら。自分たちの力不足だと自責の念に駆られて万全のパフォーマンスができなくなってファンをがっかりさせるなんて結果につながったら痛恨の極み死んでも死にきれない!!」
ここまでひと息。
たぬきは軽くおびえながら麻美子にささやいた。
「この熱量……達彦さんのことを語っていた時とは段違いなのですー。きっと亜奈さんの未練は、ふぉくしーさんなのですー」
「うん……その、ライブってやつがあるんだよね。行けば?」
「――え、あたし行けるの? ムリっしょ?」
亜奈はガバッと麻美子の膝にすがりついた。
「だってスマホ使えないんだよ? チケット提示できないよー、終わってるよー」
亜奈が膝の上で涙目になる。うんざりして麻美子は思い出させた。
「だって亜奈ちゃんは今、人から見えないし」
「……はうっ! そっか! じゃあ入れるんだ!」
「大丈夫だと思う。モギリの人に霊感があっても、幽霊から入場料を取ろうとしないよね」
「えっと……モギリってなに?」
それは入場チェックスタッフのこと。紙のチケットが一般的だった時代には、半券をもぎ取る係がいた。
「へー、さすがひいおばあちゃん、物知り!」
「私にひ孫はいないって言ってるでしょ!」
ズモモ、と顔を近づけて巫女は言い返した。
亜奈は達彦のこともそんなに本気ではなかったようだし、いいかげん曾孫の嫁ヅラするのはやめてほしい。だいたい達彦は麻美子の弟の曾孫だ。つまり麻美子と亜奈は無関係。
「亜奈ちゃんの本命はフォクシーなのよね? おとなしくそっちのお嫁さんしてなさい」
「っはあ!? 嫁だなんて! なんて不遜なことを言うんですか麻実たん! 我々ファンは一ヲタクとしての本分を守り決して出しゃばることなく陰から光を拝ませていただくのみ! それを忘れてはいけないのですよ! 控えおろう!」
滔々と叱りつけられて麻美子は口をへの字にした。
さっきから亜奈が饒舌で、語彙も豊富になっている気がする。このあいだみたいに丁寧語も使いこなしているし。なるほど、国語の学力はそれなりにあるのか。それにしても「光を拝む」とは。
「……ふぉくしーさん、やっぱり神さまなのです?」
たぬきが疑問を抱くのも、もっともなことだった。
亜奈が推している〈Fox:y〉とは、四人組の男性アイドルグループだ。
ワイルド&セクシー担当のケン。
王子&セクシー担当のルカ。
キュート&セクシー担当のタヒコ。
クール&セクシー担当でリーダーのサクヤ。
Fox:y のすばらしさを布教する亜奈の解説を聞かされて、麻美子は普通にツッコんだ。
「全員セクシーってこと?」
「せくしーとは、です……」
たぬきは香箱座りして首をかしげた。この姿はたぶん、セクシーではない。
ぽってり柔らかい腹。もっふりした肩と背中。ぶにぷにの肉球。ある意味ではマニア垂涎のボディといえるが。
「だって超セクシーなんだよ! あーもちろん下品なエロとかじゃないんだけど! もれ出す色気っていうの?」
亜奈は床をバンバン叩いた。
ここはぽんぽこ神社の社務所。亜奈最大の未練なのかもしれない推しアイドル、Fox:y について熱弁をふるっているところだった。
「ああぁ、見ればわかるんだよぉぉ! 動く Fox:y を麻美たんにも見せたい! ていうかあたしが拝んで落ち着きたい! ねえなんでスマホ使えないのー? やだやだやだぁ!」
「駄々っ子」
推しの禁断症状に苦しみだした亜奈に、麻美子は冷静な目を向けた。そもそも「推し」という概念がよくわからない。
だけど亜奈にしてみれば、この世に推しを遺して消えてしまうなど断腸の思い。せっかくライブだって当選していたのに!
「ぐうぅ……ドーム公演……いぎだがっだよおぉぉっ!!」
「ドーム?」
「全国ツアーのひとつ! あたしがなんのためにお年玉ためてたと思う!? Fox:y のために決まってんじゃん!」
「はあ」
「あ、でもチケット決済はしてあるわ。公式にお布施はできてた! いや、てことは空席を作ってしまったんじゃないか、あたし!? うっわなんたる罪!」
「つみ……」
「ああどうしようステージに現れた Fox:y のメンバーが恋人たちを見渡して満席であるべきそこにポツンと暗い空間を見つけてしまったら。自分たちの力不足だと自責の念に駆られて万全のパフォーマンスができなくなってファンをがっかりさせるなんて結果につながったら痛恨の極み死んでも死にきれない!!」
ここまでひと息。
たぬきは軽くおびえながら麻美子にささやいた。
「この熱量……達彦さんのことを語っていた時とは段違いなのですー。きっと亜奈さんの未練は、ふぉくしーさんなのですー」
「うん……その、ライブってやつがあるんだよね。行けば?」
「――え、あたし行けるの? ムリっしょ?」
亜奈はガバッと麻美子の膝にすがりついた。
「だってスマホ使えないんだよ? チケット提示できないよー、終わってるよー」
亜奈が膝の上で涙目になる。うんざりして麻美子は思い出させた。
「だって亜奈ちゃんは今、人から見えないし」
「……はうっ! そっか! じゃあ入れるんだ!」
「大丈夫だと思う。モギリの人に霊感があっても、幽霊から入場料を取ろうとしないよね」
「えっと……モギリってなに?」
それは入場チェックスタッフのこと。紙のチケットが一般的だった時代には、半券をもぎ取る係がいた。
「へー、さすがひいおばあちゃん、物知り!」
「私にひ孫はいないって言ってるでしょ!」
ズモモ、と顔を近づけて巫女は言い返した。
亜奈は達彦のこともそんなに本気ではなかったようだし、いいかげん曾孫の嫁ヅラするのはやめてほしい。だいたい達彦は麻美子の弟の曾孫だ。つまり麻美子と亜奈は無関係。
「亜奈ちゃんの本命はフォクシーなのよね? おとなしくそっちのお嫁さんしてなさい」
「っはあ!? 嫁だなんて! なんて不遜なことを言うんですか麻実たん! 我々ファンは一ヲタクとしての本分を守り決して出しゃばることなく陰から光を拝ませていただくのみ! それを忘れてはいけないのですよ! 控えおろう!」
滔々と叱りつけられて麻美子は口をへの字にした。
さっきから亜奈が饒舌で、語彙も豊富になっている気がする。このあいだみたいに丁寧語も使いこなしているし。なるほど、国語の学力はそれなりにあるのか。それにしても「光を拝む」とは。
「……ふぉくしーさん、やっぱり神さまなのです?」
たぬきが疑問を抱くのも、もっともなことだった。



