◯厳かな門・『吉備津』の表札
◯道場・壁には達筆で家訓が書かれている
赤ん坊の桃果が父親の腕に抱かれ、吉備団子の入った巾着袋を握っている。
それを恭しく見守る家族と数頭の犬、雉、猿たち。
父「さあ桃果。自分の家臣に相応しい者に、吉備団子を与えなさい」
桃果、自分より少し大きいくらいの銀髪男の子をじっと見つめる。男の子も桃果から、琥珀色の瞳を逸さない。
父「銀牙にするのか」
桃果「あー」
銀牙、そばにいた親に頭を押さえられ、かしずく。
◯16年後・同じ道場
袴姿の桃果。刀を振り上げ巻藁を切り付ける。が何も切れていない。
桃果「やっぱりだめだ…」
長男「桃果、諦めろ。お前に鬼退治は無理だ。吉備津家の宝刀を使いこなせないんじゃあ、戦場に出たって足手まといだ」
次男「そーだよ。まがい物は頑張らなくたっていーよ」
桃果、一緒に稽古をしていた兄達の言葉に顔を曇らせる。今まで浴びてきた数々の心無い言葉が蘇る。
『出来損ない』『吉備津家に相応しくない』『愛人の子供だから仕方ない』
モノローグ:吉備津家は代々、鬼退治の稼業を継いできた由緒ある家系。力をつけた者から、実践に出て、世にはびこる鬼退治へ参加する。
桃果、自分の手のひらを見つめる。
桃果(兄さんたちはもう実践に相応しい力を身につけているのに、私だけ…)
祖父「桃果」
振り返ると、白髭を蓄えた壮年の男性。老いて穏やか顔つきだが、強そう。
桃果「お祖父様、また稽古をつけてくれます…か…」
桃果はぱっと顔を明るくするが、祖父の諦めたような顔をみてすぐに表情を曇らせる。
祖父「修行の成果がでんのう。桃果ももう16じゃろう。退治屋の芽が出なかった時に備えて、進路を考えておくんじゃよ」
桃果、大きなショックを受け唇を噛む。
◯都内の街
思い詰めた様子で、夜の繁華街を歩く桃果。制服姿。刀袋にはいった刀を持っている。
桃果(お祖父様まであんなこと言うなんて、私、本当に才能ないんだな…)
続けて、顔は思い出せないが、今は亡き父の教えを回想する。
父『人に与え、人を助ける。それが吉備津の正義だ』
桃果(私は吉備津家の、出来損ないなんだ…)
そう思って狭い空を見上げて、涙が溢れるのを我慢する。
街人「キャーー」
突然の悲鳴に驚いて振り返ると、仕事帰りの女性が逃げていく。
低い街路樹の繁みから顔を出したのは、緑色の荒い肌の、ぎょろりと目の大きい生物。背丈は桃果の半分ほど。
桃果「鬼!? こんな街中にどうして」
桃果は刀を抜き、すかさず切り掛かるが、簡単にかわされる。勢い余って地面に突っ伏す。
桃果「いてて…」
鬼は道路に倒れ込む桃果を睨み、にじり寄る。
一気に飛びかかられ、身を強張らせる。すると横から何かが現れ、鬼を突き飛ばした。
銀牙「俺の主に何をする」
驚いて顔を上げると、袴姿の男が鬼と桃果の間に立ちはだかっていた。銀色の短髪が夜風になびく。
銀牙「何をしているんです。母上譲りの弓矢はどうしたんですか。あなたの武器は刀じゃない」
男は振り向いて言った。
桃果「あなた、だれ…?」
銀牙「俺は銀牙。あなたの家臣です。あなたに吉備団子をもらったその日から、あなたを守りするために、修行を積んで参りました」
銀牙のまっすぐな瞳に、桃果はたじろいだ。
桃果「私の……家臣……?」
そのとき、銀牙に突き飛ばされた鬼が起き上がり、再び桃果に向かってきた。
銀牙「話はあとです。ここは人が多い。離れましょう」
桃果「ひゃ」
銀牙は桃果をかかえあげ、そのままビル街を風のように走った。
桃果「う、わあああ」
○吉備津家の裏手にある神社・鳥居の下
銀牙は、都心の真ん中にある神社の階段を一気に駆け上った。長い階段の両脇にはおびただしい数の提燈が並び、階段の上に大きな赤い鳥居がそびえたつ。
桃果「どうしよう、すぐ後ろまで来てる!」
銀牙「俺に考えがあります!」
拝殿に入り、何かを探して殿内を荒らしまくる銀牙を、桃果ははらはらしながら見ていた。
桃果「だめだよ! 怒られちゃう」
銀牙「あった。これで一網打尽だ」
銀牙が奥から見つけて持ってきたのは、黒塗りされた竹製の弓だった。
桃果「私、弓矢なんて使ったことないよ」
銀牙「見たことくらいあるでしょう」
桃果は銀牙が差し出した弓を見つめた。
桃果「でも、絶対当たらないって」
銀牙「いいから、さあ。両足を肩幅に開いて。息を吸いながら一気に引いて」
鳥居の真下で、銀牙は桃果に指導した。向かってくる鬼に、桃果は矢の標準を合わせた。
肩に力を入れて弓を引くと、滑らかに弦が伸びた。
しかし弦が固く、上手く引けない。すると銀牙が背中から手を回して、一緒に引いてくれた。
銀牙「落ち着いて。あなたなら絶対に当てられる。いい筋です。よく狙って」
桃果「これ、いつ離すの?」
銀牙「まだ」
桃果「まだ!?」
銀牙「まだ」
鬼が階段を飛び上がり、緑色の涎を垂らして向かってきた。
桃果「まっ」
銀牙「今だ!」
銀牙の声に驚いて右手を離す。桃果の放った矢は空を切って進み、鬼の額に命中した。
桃果「あたった!」
矢から光が広がり、鬼は跡形もなく弾け飛んだ。
桃果「うわっ。今のなに?」
桃果は口をあんぐり開けるが、銀牙は平然としている。むしろ怪訝そうに。
銀牙「……家族はなにも教えてくれなかったのですか。桃果さんの『業』です。まだまだこんなもんじゃない。明日から、あなたの本当の力を使いこなす修行の日々ですよ」
顔をあげるとすぐそこに銀牙の端正な顔があり、桃果は頬を染めて突き飛ばす。
桃果「ちょっと……近い!」
◯道場・壁には達筆で家訓が書かれている
赤ん坊の桃果が父親の腕に抱かれ、吉備団子の入った巾着袋を握っている。
それを恭しく見守る家族と数頭の犬、雉、猿たち。
父「さあ桃果。自分の家臣に相応しい者に、吉備団子を与えなさい」
桃果、自分より少し大きいくらいの銀髪男の子をじっと見つめる。男の子も桃果から、琥珀色の瞳を逸さない。
父「銀牙にするのか」
桃果「あー」
銀牙、そばにいた親に頭を押さえられ、かしずく。
◯16年後・同じ道場
袴姿の桃果。刀を振り上げ巻藁を切り付ける。が何も切れていない。
桃果「やっぱりだめだ…」
長男「桃果、諦めろ。お前に鬼退治は無理だ。吉備津家の宝刀を使いこなせないんじゃあ、戦場に出たって足手まといだ」
次男「そーだよ。まがい物は頑張らなくたっていーよ」
桃果、一緒に稽古をしていた兄達の言葉に顔を曇らせる。今まで浴びてきた数々の心無い言葉が蘇る。
『出来損ない』『吉備津家に相応しくない』『愛人の子供だから仕方ない』
モノローグ:吉備津家は代々、鬼退治の稼業を継いできた由緒ある家系。力をつけた者から、実践に出て、世にはびこる鬼退治へ参加する。
桃果、自分の手のひらを見つめる。
桃果(兄さんたちはもう実践に相応しい力を身につけているのに、私だけ…)
祖父「桃果」
振り返ると、白髭を蓄えた壮年の男性。老いて穏やか顔つきだが、強そう。
桃果「お祖父様、また稽古をつけてくれます…か…」
桃果はぱっと顔を明るくするが、祖父の諦めたような顔をみてすぐに表情を曇らせる。
祖父「修行の成果がでんのう。桃果ももう16じゃろう。退治屋の芽が出なかった時に備えて、進路を考えておくんじゃよ」
桃果、大きなショックを受け唇を噛む。
◯都内の街
思い詰めた様子で、夜の繁華街を歩く桃果。制服姿。刀袋にはいった刀を持っている。
桃果(お祖父様まであんなこと言うなんて、私、本当に才能ないんだな…)
続けて、顔は思い出せないが、今は亡き父の教えを回想する。
父『人に与え、人を助ける。それが吉備津の正義だ』
桃果(私は吉備津家の、出来損ないなんだ…)
そう思って狭い空を見上げて、涙が溢れるのを我慢する。
街人「キャーー」
突然の悲鳴に驚いて振り返ると、仕事帰りの女性が逃げていく。
低い街路樹の繁みから顔を出したのは、緑色の荒い肌の、ぎょろりと目の大きい生物。背丈は桃果の半分ほど。
桃果「鬼!? こんな街中にどうして」
桃果は刀を抜き、すかさず切り掛かるが、簡単にかわされる。勢い余って地面に突っ伏す。
桃果「いてて…」
鬼は道路に倒れ込む桃果を睨み、にじり寄る。
一気に飛びかかられ、身を強張らせる。すると横から何かが現れ、鬼を突き飛ばした。
銀牙「俺の主に何をする」
驚いて顔を上げると、袴姿の男が鬼と桃果の間に立ちはだかっていた。銀色の短髪が夜風になびく。
銀牙「何をしているんです。母上譲りの弓矢はどうしたんですか。あなたの武器は刀じゃない」
男は振り向いて言った。
桃果「あなた、だれ…?」
銀牙「俺は銀牙。あなたの家臣です。あなたに吉備団子をもらったその日から、あなたを守りするために、修行を積んで参りました」
銀牙のまっすぐな瞳に、桃果はたじろいだ。
桃果「私の……家臣……?」
そのとき、銀牙に突き飛ばされた鬼が起き上がり、再び桃果に向かってきた。
銀牙「話はあとです。ここは人が多い。離れましょう」
桃果「ひゃ」
銀牙は桃果をかかえあげ、そのままビル街を風のように走った。
桃果「う、わあああ」
○吉備津家の裏手にある神社・鳥居の下
銀牙は、都心の真ん中にある神社の階段を一気に駆け上った。長い階段の両脇にはおびただしい数の提燈が並び、階段の上に大きな赤い鳥居がそびえたつ。
桃果「どうしよう、すぐ後ろまで来てる!」
銀牙「俺に考えがあります!」
拝殿に入り、何かを探して殿内を荒らしまくる銀牙を、桃果ははらはらしながら見ていた。
桃果「だめだよ! 怒られちゃう」
銀牙「あった。これで一網打尽だ」
銀牙が奥から見つけて持ってきたのは、黒塗りされた竹製の弓だった。
桃果「私、弓矢なんて使ったことないよ」
銀牙「見たことくらいあるでしょう」
桃果は銀牙が差し出した弓を見つめた。
桃果「でも、絶対当たらないって」
銀牙「いいから、さあ。両足を肩幅に開いて。息を吸いながら一気に引いて」
鳥居の真下で、銀牙は桃果に指導した。向かってくる鬼に、桃果は矢の標準を合わせた。
肩に力を入れて弓を引くと、滑らかに弦が伸びた。
しかし弦が固く、上手く引けない。すると銀牙が背中から手を回して、一緒に引いてくれた。
銀牙「落ち着いて。あなたなら絶対に当てられる。いい筋です。よく狙って」
桃果「これ、いつ離すの?」
銀牙「まだ」
桃果「まだ!?」
銀牙「まだ」
鬼が階段を飛び上がり、緑色の涎を垂らして向かってきた。
桃果「まっ」
銀牙「今だ!」
銀牙の声に驚いて右手を離す。桃果の放った矢は空を切って進み、鬼の額に命中した。
桃果「あたった!」
矢から光が広がり、鬼は跡形もなく弾け飛んだ。
桃果「うわっ。今のなに?」
桃果は口をあんぐり開けるが、銀牙は平然としている。むしろ怪訝そうに。
銀牙「……家族はなにも教えてくれなかったのですか。桃果さんの『業』です。まだまだこんなもんじゃない。明日から、あなたの本当の力を使いこなす修行の日々ですよ」
顔をあげるとすぐそこに銀牙の端正な顔があり、桃果は頬を染めて突き飛ばす。
桃果「ちょっと……近い!」
