六時限目と終礼が終わって教室を出ると、他のクラスの生徒たちもすでにおのおの帰路に着きはじめていた。狭い下足室へ降りてスニーカーに履き替え、外に出ると、鳴海と和明が待っている。空は夜に向かって深まり、遠い上空に、無数の鳥の影が大きな一つの生命のように集散しながら右往左往しているのが見える。
「今日他に何か、あった?」校門を抜けて石段を降りながら、和明が言った。「俺は別に何も、普段通りって感じ」
「僕も、特に」と鳴海が答える。
「智紀は?」
和明の声とともに、鳴海も僕の方を見る。二人の視線が自分に注がれている。
僕は六時限目の前に行った、西側の便所のことを思い返す。確かに何かがおかしいような気はしたのだが、よく考えれば、気のせいだったかもしれない。あの小窓だって、やっぱりもっと近づいてみれば、黒い布か、板か、紙か、分からないけれど、何らかの目隠しを貼ってあったのかもしれない。
つまり、あれは気のせいだ。
「何も」と、僕は答えた。
頰が冷たくなるのを感じていた。僕は、しかしあの時確かにあの小さな方形の深淵が存在して、どこかからあの忌々しい物体が投げ込まれたことを理解していた。いずれにせよ一つ言えるのは、僕は嘘をついているということだ。そうであれば、鳴海と和明、二人のうちのどちらか、あるいは二人ともまた、僕と同じように、何かを見たのにもかかわらずそれを隠している——つまり、嘘をついている可能性もある。しかし、僕が嘘をついたのは、二人が何も見ていないと言ったからで、一人だけ異分子になりたくなかった。それが理由だった。ならば、最初に口火を切った和明と、僕の答えを知らない鳴海とが、僕と同じ動機で、そのような嘘をつく可能性は高くない。
本当に僕だけが、他の人々とは違う何かを、見ているのかもしれない。
僕だけが間違っているのかもしれない。
石段を抜けて左折すると商店街に入る。皆何も言わなかったが、おそるおそる様子を伺っていたはずで、重くのしかかるアーケードの下にいつも通り人々が行き交っているのを見て、おのおの固唾を飲んだ気配があった。僕らは目を見合わせることもしなかった。ただ横並びに、歩みを進めながら、日常ではない何かを抱え込んだようなその日常をおそるおそる受け入れた。
まっすぐと駅へと続く商店街を抜けて通り沿いの入り口から地下へ降りると、窓口には職員がいる。何人目なのか分からない、眼鏡をかけた短髪の男の職員。家や次の目的地へ急ぐ人々が、俯きながらひっきりなしに改札を通り抜けていく。
急行を見送って、電車を待つ間、
「なんだったんだろうね、朝」
と、和明が呟いた。
「さあ」と鳴海が明後日の方向を見つめながら答える。
背中に波の音と、色めきたつ鳥の声。冷たい潮風が、むき出しの頰を掠めていく。
