夜の電車が体を揺らす。今日で人生最後の出勤で、人生最後の仕事帰りだ。
俺はふいに初めて上京した時を思い出した。理由はわからないが我を忘れて、まるで別世界のような東京に興奮したのを覚えている。
ビルや車が出す光に包まれて電車は進んだ。周りは驚くほど沈黙していた。
そんな時だ、俺のスマホがブブッと振動した。画面を見ると懐かしい故郷の友からのメッセージだった。
『うちの村で殺人事件が起きた。すぐにでも帰ってきてくれ』
と書いてあった。すぐには返さず、スマホを下ろした。
まったく、この世の中は物騒である。呆れながらも俺は翌日、東京を離れることにした。
飛行機と電車を乗り換えて一つの無人駅に降り立った。
周りには山と川に囲まれて、絵に描いたようなど田舎だ。田んぼの中で鴨が泳いでいた。
この土地に来たのは何年ぶりだろうか。
「久しいな、笹木」
向こうから手を振って俺の名を呼ぶ友人を見つけた。
「…小田か。変わらないな」
小田は何かの感情を隠しながら微笑む。瞳孔が動いていた。まだ動揺しているのか。
「お前の協力感謝する。早速だけど時間がない。急ぐぞ」
そういうと、俺は彼の車に乗り込み、さらに山奥に行く。一時間くらいかかる、もっともっと山奥の小さな村へ車は向かった。
木々が通りすぎる道を横目に、事件の詳細を聞いた。殺害されたのは30代女性。殺したのは、、12歳ほどの少年。思ったよりも残酷そうだ。
「それでなぜ俺を呼んだ」
「笹木はうちの村で一番優秀であり、心理学に精通しているだろ?その心理学で犯行動機を導き出す仕事をやっていたと聞いたから皆でお前を呼ぼうって」
「優秀だった、な?俺はもうここの住人じゃない」
「でも、お前にしか頼れないんだ笹木。動機だけでもわかれば今後の対策にも繋がる」
「まだ、その村の肩書を守るつもりかい?」
「…当たり前だ」
肩書、というのは犯罪件数が全くなく、唯一ある交番もお飾りだったような平和な村。疑わしいが、実際に日本の中で事件件数がゼロというのはあの村だけだった。
そんな村で起きた殺人事件。村の人は混乱しながらも犯人の少年は捕まえたが、殺人動機が全くわからないらしい。
俺はまた、ため息をついた。
「定年退職して都内でゆっくり暮らそうと思っていたのに」
「それはすまなかったな」
まだ震えている手でハンドルを握りしめて彼は速度を上げた。
「こいつが殺人鬼だ」
交番の奥に入ると、少年が椅子にこれでもかというくらい縄でぐるぐると縛られていた。
少年は目の奥まで真っ黒だった。俺が机を挟んでパイプ椅子に座ると、少年は顔を上げた。
まだ幼い顔立ちに、感情が読み取れない表情だった。彼は俺に小さく会釈した。本当に彼は人を殺したのかとつい疑ってしまいそうだ。
俺の後ろには被害者の姉という人物が立っていた。彼女は冷静を保っているように見えるが、内心は気が気じゃないだろう。俺は少年に向き合った。
「では、始める」
素直に少年はよろしくお願いします、と一言言った。
名を聞くと少年はカズマと言った。
俺は手元のメモに彼の名を書く。
「そうか。なら君はこの村出身ではないな。」
「なぜ。」
カズマは聞き返す。
「名前に、ま、が入っているだろう? ま、はこの村では悪魔の文字とされていて名前には絶対にいれない法律みたいなのがあるんだ。」
少年、カズマは黙っている。
「俺はそこら辺にいるただの心理学に精通している男だ。怪しむ必要はないと言っても意味はないか。しかし、皆なぜお前が殺したのか知りたがっていた。人間の本能である、ただの好奇心だ。村の皆、知りたいんだ。」
沈黙。やはりこの手はダメか。
「よほど理由があるのか」
カズマはまだ俯いていた。嘘をつこうとしているそぶりはない。
俺は次の手に出る。
「なら動機は無理に言わなくてもいい。その日あったことを話せ。」
カズマは俺の目をじっと見た。光が全く届かないような目の色をしていた。俺も反射的に睨み返す。
10分くらい立った頃、彼の口がようやく動き出した。
1ヶ月前、とカズマは語り出す。
「僕の母親が突然姿を消した。もともと家にいる時間が少なかったし、どうせ男と不倫しているだろうと、父親も呆れて探さなかった。だから僕は自ら村を出て探しに行った。
山の中を何日か歩いていたら少年の鳴き声がして、行ってみたらソウタがいたんだ。」
ソウタ、とは被害者の息子にあたる人間だ。
「彼は山で逸れた母親を探していたようだったから、かわいそうと思って一緒に探すことにした。幸い僕が山育ちだったから一週間生き延びれた。ソウタも『お兄ちゃんと出会っていなかったら今頃死んじゃってたよ』と笑って感謝された。彼も僕も笑顔が増えて楽しい時間だった。そして僕たちは山を出た。彼の住んでいた村に辿り着いて母親も見つけた。驚きながらも母親はソウタに抱き付いて、嗚呼、私の愛しの息子。私の息子はあなただけと涙を流して喜んでいた。とても嬉しかったよ、だけどこれであの楽しかった2人の旅は終わってしまうのかと思うと寂しくてね。彼が寝ている間に母親を首を閉めてクローゼットに隠した。
そして次の日、ソウタは母の姿が見えなくて混乱していた。だから、
『おはようソウタ。お母さんまたいなくなっちゃったみたい。また探しに行こう、ね?』」
「そうか、ソウタと離れたくないから彼の目的である母親を殺した、それでいいか?」
「そういうことになりますね。意外と早く見つかっちゃいました。ソウタの父が帰ってきたばかりに」
「それは残念だったな。」
「なんでそんなに冷静なの?あんたは妹を殺したのよ?それに、そんなことが妹を殺す理由になるのかしら?」
「嗚呼、心理学上ありえることだ。俺も似たような動機で自分の弟を殺した男を知っている。」
思い出したくもないが。俺は静かに彼の動機をメモに書いた。
「カズマ、お前は精神疾患を患っている可能性がある。刑務所には行かず、お前みたいなやつを保護する施設に、俺の知り合いに引き渡そう。」
「え…?なぜ?!この人は私の妹を殺したのよ?!こいつは死刑になるべきよ!」
「彼は同じ"人"だ。人を殺したという事実以外は普通の人間だ。」
「信じられない…!」
カズマは俺の後ろを見ていた。
被害者の姉が怒りを隠せていないのに気がついたようだ。
彼女はカズマの前まで憎しみいっぱいの顔で詰め寄る。
「ソウタは…母が殺されて今もなお涙を流している。あんたは本当に悪魔なのね…!」
カズマは不思議そうに答えた。
「本当にそうですか?本当に泣いているんですか?」
「黙って!あんたはもうこれ以上喋らないで!この悪魔!」
彼女はカズマに手をあげようとしたが、歯を食いしばりやめた。そして俺の方に振り返った。
「あんたも!こいつの罪を重さをわからせるために来たんじゃないわけ?!」
「落ち着いてください、俺の判決に狂いはない。彼には簡単に埋められない深い心の傷がある。どうかわかってあげてください。」
被害者の姉はいまだにカズマを恨むようにみながら言った。
「…もう今後、ソウタには、この村には近づかないでちょうだい。」
カズマは彼女を見てすぐに目を逸らした。
「承知しました。」
「気味が悪い…」
そう最後に吐き捨て部屋を出ていく。
それとすれ違いで、小田がドアから部屋に入ってきた。
「今回の件はいずれ記者にバレてしまう。彼を村の外に出すのはは俺も反対だ。」
「無駄だ。どちらにせよ、もう遅い。この村には申し訳ないが殺人の起こったことがない村という肩書きは今日をもって捨ててくれ。」
「そんな…なんとか隠せないのか?」
「それは任せるが、隠したところで一番苦しいのは他の誰でもない自分だけだ。」
小田は俯いて顔を顰めて考えた。そしてわかったと返事をして部屋から出て行こうとした。俺はすかさず呼び止める。
「小田、後で被害者の髪の毛一本持ってきてくれ」
「必要なのか?」
「念の為だ」
首を傾げながらわかったと言って小田は去る。死体を見たくないだろうに申し訳ない。だが、深く考えないような性格だからむしろあいつは適役かもな。
俺はメモをカバンの中にしまい、カズマに知り合いの名刺を渡す。
「明日、俺と東京へ行くぞ。それまで大人しくしておけ。それともう一つ。君の髪の毛も一本抜いて、俺にくれないか?」
「…どうして僕も?」
「調べたいことがあってね。安心しろ“本当の動機”は墓場まで持っていくつもりだ」
「わかっていたんだ」
俺は精一杯の誤魔化しの微笑みを顔に貼り付けた。ため息したい気持ちを堪えて俺は立ち上がる。
「しかし、何年心理学者をやっていても人を殺す心理など意味がわからないもんだな。残酷な光景、みてて何も思わないのかね。」
そう言いながら振り向いてドアに手をかけた時、遮るかのように声がした。
「そんなわけないだろう。」
無表情だったカズマが突然ニタァと不気味に笑った。
「あんたも僕と同じ目をしているではないか。」
俺は横目でちらっと鏡の方に目を向ける。鏡に写っている自分に、あの時の弟が首を掴んで締めているように見えた。強い憎悪の目で。
俺は知っている。母親の愛が弟が生まれてから全て持って行かれたことが許せなくて、弟の首を絞めて殺した男を…。
ドアノブを強く掴む。
「さぁな。俺にはなんのことかさっぱりだ。」
俺は音もなく部屋を後にした。
カズマはまだ笑っていた。
交番の端っこにある、新品なのに錆びているDNA検査機会に笹木は電源を入れる。
確信はないが勘を頼りに検査を始めた。パソコンの光だけを頼りに彼は2人の髪の毛にあるDNAをスキャンさせた。
プップップと機会音がなって、画面が小さく赤く光った。
画面には2人は親子関係であることが表示されていた。
俺はふいに初めて上京した時を思い出した。理由はわからないが我を忘れて、まるで別世界のような東京に興奮したのを覚えている。
ビルや車が出す光に包まれて電車は進んだ。周りは驚くほど沈黙していた。
そんな時だ、俺のスマホがブブッと振動した。画面を見ると懐かしい故郷の友からのメッセージだった。
『うちの村で殺人事件が起きた。すぐにでも帰ってきてくれ』
と書いてあった。すぐには返さず、スマホを下ろした。
まったく、この世の中は物騒である。呆れながらも俺は翌日、東京を離れることにした。
飛行機と電車を乗り換えて一つの無人駅に降り立った。
周りには山と川に囲まれて、絵に描いたようなど田舎だ。田んぼの中で鴨が泳いでいた。
この土地に来たのは何年ぶりだろうか。
「久しいな、笹木」
向こうから手を振って俺の名を呼ぶ友人を見つけた。
「…小田か。変わらないな」
小田は何かの感情を隠しながら微笑む。瞳孔が動いていた。まだ動揺しているのか。
「お前の協力感謝する。早速だけど時間がない。急ぐぞ」
そういうと、俺は彼の車に乗り込み、さらに山奥に行く。一時間くらいかかる、もっともっと山奥の小さな村へ車は向かった。
木々が通りすぎる道を横目に、事件の詳細を聞いた。殺害されたのは30代女性。殺したのは、、12歳ほどの少年。思ったよりも残酷そうだ。
「それでなぜ俺を呼んだ」
「笹木はうちの村で一番優秀であり、心理学に精通しているだろ?その心理学で犯行動機を導き出す仕事をやっていたと聞いたから皆でお前を呼ぼうって」
「優秀だった、な?俺はもうここの住人じゃない」
「でも、お前にしか頼れないんだ笹木。動機だけでもわかれば今後の対策にも繋がる」
「まだ、その村の肩書を守るつもりかい?」
「…当たり前だ」
肩書、というのは犯罪件数が全くなく、唯一ある交番もお飾りだったような平和な村。疑わしいが、実際に日本の中で事件件数がゼロというのはあの村だけだった。
そんな村で起きた殺人事件。村の人は混乱しながらも犯人の少年は捕まえたが、殺人動機が全くわからないらしい。
俺はまた、ため息をついた。
「定年退職して都内でゆっくり暮らそうと思っていたのに」
「それはすまなかったな」
まだ震えている手でハンドルを握りしめて彼は速度を上げた。
「こいつが殺人鬼だ」
交番の奥に入ると、少年が椅子にこれでもかというくらい縄でぐるぐると縛られていた。
少年は目の奥まで真っ黒だった。俺が机を挟んでパイプ椅子に座ると、少年は顔を上げた。
まだ幼い顔立ちに、感情が読み取れない表情だった。彼は俺に小さく会釈した。本当に彼は人を殺したのかとつい疑ってしまいそうだ。
俺の後ろには被害者の姉という人物が立っていた。彼女は冷静を保っているように見えるが、内心は気が気じゃないだろう。俺は少年に向き合った。
「では、始める」
素直に少年はよろしくお願いします、と一言言った。
名を聞くと少年はカズマと言った。
俺は手元のメモに彼の名を書く。
「そうか。なら君はこの村出身ではないな。」
「なぜ。」
カズマは聞き返す。
「名前に、ま、が入っているだろう? ま、はこの村では悪魔の文字とされていて名前には絶対にいれない法律みたいなのがあるんだ。」
少年、カズマは黙っている。
「俺はそこら辺にいるただの心理学に精通している男だ。怪しむ必要はないと言っても意味はないか。しかし、皆なぜお前が殺したのか知りたがっていた。人間の本能である、ただの好奇心だ。村の皆、知りたいんだ。」
沈黙。やはりこの手はダメか。
「よほど理由があるのか」
カズマはまだ俯いていた。嘘をつこうとしているそぶりはない。
俺は次の手に出る。
「なら動機は無理に言わなくてもいい。その日あったことを話せ。」
カズマは俺の目をじっと見た。光が全く届かないような目の色をしていた。俺も反射的に睨み返す。
10分くらい立った頃、彼の口がようやく動き出した。
1ヶ月前、とカズマは語り出す。
「僕の母親が突然姿を消した。もともと家にいる時間が少なかったし、どうせ男と不倫しているだろうと、父親も呆れて探さなかった。だから僕は自ら村を出て探しに行った。
山の中を何日か歩いていたら少年の鳴き声がして、行ってみたらソウタがいたんだ。」
ソウタ、とは被害者の息子にあたる人間だ。
「彼は山で逸れた母親を探していたようだったから、かわいそうと思って一緒に探すことにした。幸い僕が山育ちだったから一週間生き延びれた。ソウタも『お兄ちゃんと出会っていなかったら今頃死んじゃってたよ』と笑って感謝された。彼も僕も笑顔が増えて楽しい時間だった。そして僕たちは山を出た。彼の住んでいた村に辿り着いて母親も見つけた。驚きながらも母親はソウタに抱き付いて、嗚呼、私の愛しの息子。私の息子はあなただけと涙を流して喜んでいた。とても嬉しかったよ、だけどこれであの楽しかった2人の旅は終わってしまうのかと思うと寂しくてね。彼が寝ている間に母親を首を閉めてクローゼットに隠した。
そして次の日、ソウタは母の姿が見えなくて混乱していた。だから、
『おはようソウタ。お母さんまたいなくなっちゃったみたい。また探しに行こう、ね?』」
「そうか、ソウタと離れたくないから彼の目的である母親を殺した、それでいいか?」
「そういうことになりますね。意外と早く見つかっちゃいました。ソウタの父が帰ってきたばかりに」
「それは残念だったな。」
「なんでそんなに冷静なの?あんたは妹を殺したのよ?それに、そんなことが妹を殺す理由になるのかしら?」
「嗚呼、心理学上ありえることだ。俺も似たような動機で自分の弟を殺した男を知っている。」
思い出したくもないが。俺は静かに彼の動機をメモに書いた。
「カズマ、お前は精神疾患を患っている可能性がある。刑務所には行かず、お前みたいなやつを保護する施設に、俺の知り合いに引き渡そう。」
「え…?なぜ?!この人は私の妹を殺したのよ?!こいつは死刑になるべきよ!」
「彼は同じ"人"だ。人を殺したという事実以外は普通の人間だ。」
「信じられない…!」
カズマは俺の後ろを見ていた。
被害者の姉が怒りを隠せていないのに気がついたようだ。
彼女はカズマの前まで憎しみいっぱいの顔で詰め寄る。
「ソウタは…母が殺されて今もなお涙を流している。あんたは本当に悪魔なのね…!」
カズマは不思議そうに答えた。
「本当にそうですか?本当に泣いているんですか?」
「黙って!あんたはもうこれ以上喋らないで!この悪魔!」
彼女はカズマに手をあげようとしたが、歯を食いしばりやめた。そして俺の方に振り返った。
「あんたも!こいつの罪を重さをわからせるために来たんじゃないわけ?!」
「落ち着いてください、俺の判決に狂いはない。彼には簡単に埋められない深い心の傷がある。どうかわかってあげてください。」
被害者の姉はいまだにカズマを恨むようにみながら言った。
「…もう今後、ソウタには、この村には近づかないでちょうだい。」
カズマは彼女を見てすぐに目を逸らした。
「承知しました。」
「気味が悪い…」
そう最後に吐き捨て部屋を出ていく。
それとすれ違いで、小田がドアから部屋に入ってきた。
「今回の件はいずれ記者にバレてしまう。彼を村の外に出すのはは俺も反対だ。」
「無駄だ。どちらにせよ、もう遅い。この村には申し訳ないが殺人の起こったことがない村という肩書きは今日をもって捨ててくれ。」
「そんな…なんとか隠せないのか?」
「それは任せるが、隠したところで一番苦しいのは他の誰でもない自分だけだ。」
小田は俯いて顔を顰めて考えた。そしてわかったと返事をして部屋から出て行こうとした。俺はすかさず呼び止める。
「小田、後で被害者の髪の毛一本持ってきてくれ」
「必要なのか?」
「念の為だ」
首を傾げながらわかったと言って小田は去る。死体を見たくないだろうに申し訳ない。だが、深く考えないような性格だからむしろあいつは適役かもな。
俺はメモをカバンの中にしまい、カズマに知り合いの名刺を渡す。
「明日、俺と東京へ行くぞ。それまで大人しくしておけ。それともう一つ。君の髪の毛も一本抜いて、俺にくれないか?」
「…どうして僕も?」
「調べたいことがあってね。安心しろ“本当の動機”は墓場まで持っていくつもりだ」
「わかっていたんだ」
俺は精一杯の誤魔化しの微笑みを顔に貼り付けた。ため息したい気持ちを堪えて俺は立ち上がる。
「しかし、何年心理学者をやっていても人を殺す心理など意味がわからないもんだな。残酷な光景、みてて何も思わないのかね。」
そう言いながら振り向いてドアに手をかけた時、遮るかのように声がした。
「そんなわけないだろう。」
無表情だったカズマが突然ニタァと不気味に笑った。
「あんたも僕と同じ目をしているではないか。」
俺は横目でちらっと鏡の方に目を向ける。鏡に写っている自分に、あの時の弟が首を掴んで締めているように見えた。強い憎悪の目で。
俺は知っている。母親の愛が弟が生まれてから全て持って行かれたことが許せなくて、弟の首を絞めて殺した男を…。
ドアノブを強く掴む。
「さぁな。俺にはなんのことかさっぱりだ。」
俺は音もなく部屋を後にした。
カズマはまだ笑っていた。
交番の端っこにある、新品なのに錆びているDNA検査機会に笹木は電源を入れる。
確信はないが勘を頼りに検査を始めた。パソコンの光だけを頼りに彼は2人の髪の毛にあるDNAをスキャンさせた。
プップップと機会音がなって、画面が小さく赤く光った。
画面には2人は親子関係であることが表示されていた。

