四季神家の【五】女は年下夢魔軍神に溺愛される

『さて、お前さんはこれから、霊力操作術を学ばなきゃならねぇ』

 甘い桃を食しながら、(いつつ)(さかい)の話を聞く。
 桃は境が用意してくれた物だ。
 伍が言われるがまま【豊穣】の巫術を使ったところ、蔵の外の木が高窓の中まで枝を伸ばし、その先に桃を実らせてくれたのだ。

『お前さんの丹田は、俺様の霊力を受け止めきれるほど大きくはない。今は散々発散したあとだから大丈夫だが、数日もすれば丹田に霊力が溜まっていき、やがて破裂してしまうだろう』
「は、破裂!?」
『だから、そうならないために霊力操作術を覚えるか、姑息な手段としては定期的に霊力を発散させる必要がある』
「発散と言うと、先ほど使わせていただいた巫術では不十分ということですか?」
『まったく足らねぇな』

 境と出会った直後のことは、記憶が曖昧だ。
 だが、枯れ木を満開にしてしまったり、庭中を草だらけにしてしまったのは何となく覚えている。
 それに、畳に花が咲き、瓦屋根を突き破った木々が天を衝く様子も。
 あの規模の霊力放出を定期的に行わなければならないらしい。

「そんな、これ以上お家にご迷惑をおかけするわけには……」
『こんな仕打ちを受けてもなお「お家のご迷惑」とは、伍は筋金入りのお人好しだな』
「そ、そうでしょうか?」

 境はそう言ってくれるが、『家を掃除にすること』を己の仕事と自負している伍にとって、自ら家を汚してしまったことは自己嫌悪の種である。

『とはいえ、不慣れな体であの規模の巫術を連発するのは、長期的に見たら丹田と体内霊脈を傷つけちまう。何とかして、無理なく霊力を発散できる方法を見つけねぇとだな』

 フワフワと宙を漂っていた境が、バツが悪そうな顔をした。

『いや、すまねぇ。俺様の誤算だった。本当言うとな、四季神家の娘なら霊力操作術くらい修めてて当然だと思ってたんだ』
「も、申し訳ございません……」

 伍は小さくなる。
 が、四季の神々などの媒体を介して術を発動させる通常の巫術とは異なり、『霊力操作術』は超が付くほどの高等技術なのだ。
 上の姉たちも、父でさえ修めてはいないはず。
 霊力操作術が使えれば、脚力だけで空に舞い上がり、膂力だけで山を崩すことすら可能なのだという。
 果ては不老不死にすら届きうるのだとか。

『あぁいや、伍が悪いんじゃなくてだな……現時の術師がこんなに弱っちいとは思ってなかったんだ』
「よ、弱っちい……」
『冬神の巫女や四季神家の当主もそうだが、ひでぇ有様だぜ。平安の世じゃ、霊力操作術なんざガキでも使えていたのによぉ。現時の大人術師が平安の子供術師と死合ったら、鎧袖(がいしゅう)一触(いっしょく)にされるだろうな』
「なんてこと……」

 平安時代と言えば、安倍晴明や弘法大師空海の時代だ。
 護国十家が成った、まさに退魔師全盛期の時代。

『ま、そう心配するな。俺様がきっと何とかしてやる!』




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