四季神家の【五】女は年下夢魔軍神に溺愛される

 次に気がついたとき、(いつつ)は薄暗い蔵の中に転がされていた。
 起き上がる。
 高窓の外は、暗い。夜なのだ。

「……え?」

 夜なのに、『薄暗い』で済んでいる。
 なぜかというと、

『おっ、ようやく起きたか』

 手の平に収まるくらいの小さな座敷童子が、伍のそばで薄っすらと光を放っていたからだ。

「あなた様は、もしかして(さかい)様?」
『そのとーり。聡い娘だな。さすがは俺様に仕える五女だ』
「は、はぁ」
『それにしても、信じらんねぇ。あいつら、実の家族を蔵に閉じ込めるなんてよぉ。しかも、水も飯も寝具も、樋箱すらないと来た。犬猫相手ですら、餌くらいは与えるってぇのに』
「い、いえ……わたくしが悪いんです。私は忌み子、五女ですから」
『何言ってんだ。四季(しき)(じん)家の五女は、この境様に仕えるれっきとした巫女なんだぜ。胸を張れぃ、胸を』
「は、はい!」

 伍は頑張って胸を張ろうとするが、日頃から肩をすぼめてうつむいているので、へっぴり腰の変な姿勢になってしまうのだった。

『あー……その、悪かったな』

 急に、境が謝った。
 伍は仰天する。

「えっ!?」
『お前さんを助けてやるつもりが、かえって立場を悪くさせちまったらしい』
「い、いえいえっ、境様は悪くありません!」
『お前さんはよい子だなぁ』

 と言って、頭を撫でようとしてくる境。
 だが、境は半透明の霊体であるため、伍に触れることはできなかった。
 境が、少し残念そうな、伍を憐れみ慈しむような目をした。

『…………。せめて、住み心地はよくしてやるからな。伍、【石つぶて】を使ってみろ』

【石つぶて】は文字どおり石のつぶてを創造してアヤカシにぶつける攻撃巫術だ。

「そ、そんな高等巫術、わたくしには使えません」

 それほどの術が使えるのなら、伍は『役立たず』などと呼ばれて女中扱いされることもなかっただろう。
 伍は【霊視】が可能な程度の霊力は生まれ持っていたが、退魔師になれるほどの力は持ち合わせていなかった。

『今のお前さんなら、使える。ただし、できるだけゆっくりとな』
「は、はぁ。【石つぶて】」

 半信半疑ながらも、伍は詠唱した。
 すると、伍の手の平から石の塊が出てきた。

「わっわっ、本当に出てきました!」
『俺様が補助してやる』

 境が石の塊に手をかざすと、みるみるうちに石が成形されていき、お椀の形になった。

『続いて、【水球】。次に【火球】』
「は、はい」

 言われるがまま唱えると、あっという間に白湯が完成した。

「あ、温かい」
『飲んでいいぞ。混じりっけなしの真水だ』
「あ、ありがとうございます!」

 湯のような贅沢など、この三年の間、一度ももらったことがない伍である。
 ゆっくり飲むと、体が内側から温まり、冷えていた心もほぐれていった。

『次は蔵の掃除だな。【突風】で埃や虫を巻き上げ、高窓から外に放り出してやれ。それが済んだら、【火球】多めの【水球】を【突風】で噴出させることで床や壁の汚れを洗い流し、【火球】少なめの【突風】で乾かすんだ』
「は、はい。わわっ、すごいすごい!」

 神業めいた細かい制御の術の数々。天才術師と誉れ高い長女・春香ですら、これほどの芸当は無理だろう。
 まるで神業だ。いや、事実、神の御業なのだ。
 境の補助があるからこそできる業ではあるものの、手足のように自由に巫術を使うことができて、伍は大興奮だ。

(い、いえ、驕っては駄目よ、伍。これはあくまで、境様のお力なのだから)
『本当に謙虚な娘だなぁ、伍は』
(心を読まれた!?)
『あぁ、すまんすまん。今後は読まないように気をつけるとしよう』

 さらりと連発される神業。
 やはり境は、まぎれもなく神なのだ。




   ◆   ◇   ◆   ◇




 その後、伍は大きな湯船と熱々のお湯を用意してもらい、肩まで湯に浸かった。
 三年振りのお風呂は泣きたくなるほど気持ちよくて、身も心も清められるのだった。




   ◆   ◇   ◆   ◇