四季神家の【五】女は年下夢魔軍神に溺愛される

 さらに数日後の夜――結婚式前夜。

「伍、入っていいか?」
「どうぞ、旦那様」

 入ってきたのは、二十歳の姿のデウスだ。
 パリッとした洋装をしている。

「…………? 夜だというのに、どうしたのですか?」
「いや、結婚式前夜くらい、格好つけさせてくれよ。寝間着姿の十歳児じゃ、格好がつかないだろう?」
「ふふっ。十歳でも二十歳でも、旦那様は旦那様ですよ。わたくしは全力で愛します」
「~~~~っ。わ、分かってる」

 デウスがなんだかもじもじしている。
 伍はデウスをベッドに座らせ、自身も隣に座った。
 デウスが伍の左手に触れてきた。

「……痛むか?」
「ほんの少しだけ」
「本当にすまない」
「もう謝らないでください。それに、本当のことを言うと、わたくし、少しうれしいんです」
「どういうことだ?」
「だってこれは、わたくしが旦那様をお守りしたという証なのです。チンダイさんは、こういうのを『勲章』って言うんでしょう?」
「……伍ってときどき、すっごく重いことを言うよな」
「そ、そうでしょうか?」

 デウスが伍の手の甲――傷をさする。
 なおももじもじしている。

「あの、どうなさったのですか?」
「実は、渡したいものがあってな」

 デウスが懐から、とあるものを取り出した。

「これは……っ」

 それは、櫛だった。
御幸(みゆき)』の名が刻まれた、櫛。
 冬姫の手で池に捨てられてしまった、母の形見。

「見つけてくださったのですか!?」
「お前からご母堂の話を聞いたときから、気になっていたんだ」
「大変だったでしょう」
「なぁに、俺には魔術と――」

 デウスが櫛を、伍の手に握らせる。

「無量の霊力があるからな。だが……」

 デウスが、ばつが悪そうな顔をする。

「その櫛を見て、思い知らされたんだ。お前のその……『(いつつ)』という名前が、お前にとっていかにつらいものだったのか、ということを。それを俺は今まで、無神経に呼んでいて……」
「お気になさらないでください」
「お前ならそう言うって分かっていたがな、だから言い出しづらかった。なぁ、結婚を機に改名することだってできるんだぞ」
「いいえ、結構です」
「そりゃ、多少の面倒はあるさ。お前のことだから、俺に迷惑をかけまいとしているということも分かっている」
「旦那様」
「だが、お前のためなら、俺はどんな面倒も迷惑じゃないんだ。だから――」
「旦那様ってば」

 伍はデウスを安心させるために、微笑んでみせた。

「本当に、気にしなくていいんです。旦那様に気を遣っているとか、そういうことではないんです。わたくし自身、今となってはこの名前を気に入っているんです」
「ど、どうして?」
「だってこの名前は――」

 伍は、花が咲くように笑った。

「あなたが何度も呼んでくれた、大切な名前だから」

 デウスが真っ赤になった。

「い、(いつつ)……」
「ねぇ、旦那様、デウス様、もっと呼んでください。その口で、その舌で」
「伍っ」

 二人の顔が、ゆっくりと近づく。
 伍とデウスは、霊力供給以外の目的で、初めて口づけした。




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