目を覚ますと、どこまでも暗く冷たい蔵の中だった。
「冬神様? ねぇ、喉が乾いたわ。水を頂戴。【水球】……え?」
水や霧を操るのは、冬姫にとって比較的容易い術のはずだった。
だが、術は発動しなかった。
冬神が――あろうことか、巫女たる冬姫を受け入れるべき唯一絶対の存在が、冬姫の願いを拒否したのだ。
「あぁ……あぁぁ……あぁあああぁぁああぁああああああああああッ! ふざけないでっ、ふざけないでよ、冬神!」
冬姫は頭をかきむしる。
「それもこれも、全部全部全部っ、伍が悪いのよ! 伍さえいなければ、アタシがお父様やお母様を【洗脳】する必要なんてなかった。アタシがこんな目に遭うこともなかったのよ!」
「そのとおりです」
蔵の奥から、声がした。
「だ、誰っ!?」
冬姫は飛び上がった。
暗がりから出てきたのは、
「……六九六アインス?」
六九六家の若き当主、銀髪碧眼の美丈夫だ。
「なんでアンタがここに?」
「冬姫様、本物の【洗脳】の力、欲しくはありませんか?」
「えっ」
アインスがいびつな形の十字架を取り出した。十字架を上下逆さにした形――『逆十字』だ。
「この力は、あなたのような女性にこそふさわしい」
「本物の【洗脳】の力……?」
その甘美な響きに、冬姫は一瞬で陥落した。
『なぜアインスがこんなところに?』とか、
『コイツの言うことを信じてもよいのか?』とか。
本来考えるべきあれこれが吹き飛んでしまった。
「欲しいっ!」
冬姫はアインスから十字架を奪い取った。
とたん、冬姫はとてつもない量の霊力を感じた。丹田が熱い。
「あはっ、あははははっ! 【せ・ん・の・う】っ!」
どす黒い霧が蔵に立ち込め、高窓や扉の隙間から外へと出ていった。
霧はまたたく間に四季神邸全土を包み込んだ。
――ギギィ……
ほどなくして、蔵の扉が開いた。
開けたのは、虚ろな目をした女中たちだ。
「くふっ、くふふふふっ! 王の御前よ」
女中たちが平伏した。
女中たちが作った道を、冬姫は歩く。
道の終端でひれ伏していたのは、父だった。
「くはっ、あははははっ! 待ってなさい、伍。アタシが手ずから、アンタを地獄に堕としてア・ゲ・ル」
「ところで、冬姫様」
アインスが話しかけてきた。
「あら。アンタ、まだいたの」
「伍を殺したあと、彼女の丹田を頂けませんか? 『我が主』が所望しているのです」
「丹田? そんなの、どうするつもりよ。まぁいいわ。伍の死体は、アンタの好きにしなさい」
「冬神様? ねぇ、喉が乾いたわ。水を頂戴。【水球】……え?」
水や霧を操るのは、冬姫にとって比較的容易い術のはずだった。
だが、術は発動しなかった。
冬神が――あろうことか、巫女たる冬姫を受け入れるべき唯一絶対の存在が、冬姫の願いを拒否したのだ。
「あぁ……あぁぁ……あぁあああぁぁああぁああああああああああッ! ふざけないでっ、ふざけないでよ、冬神!」
冬姫は頭をかきむしる。
「それもこれも、全部全部全部っ、伍が悪いのよ! 伍さえいなければ、アタシがお父様やお母様を【洗脳】する必要なんてなかった。アタシがこんな目に遭うこともなかったのよ!」
「そのとおりです」
蔵の奥から、声がした。
「だ、誰っ!?」
冬姫は飛び上がった。
暗がりから出てきたのは、
「……六九六アインス?」
六九六家の若き当主、銀髪碧眼の美丈夫だ。
「なんでアンタがここに?」
「冬姫様、本物の【洗脳】の力、欲しくはありませんか?」
「えっ」
アインスがいびつな形の十字架を取り出した。十字架を上下逆さにした形――『逆十字』だ。
「この力は、あなたのような女性にこそふさわしい」
「本物の【洗脳】の力……?」
その甘美な響きに、冬姫は一瞬で陥落した。
『なぜアインスがこんなところに?』とか、
『コイツの言うことを信じてもよいのか?』とか。
本来考えるべきあれこれが吹き飛んでしまった。
「欲しいっ!」
冬姫はアインスから十字架を奪い取った。
とたん、冬姫はとてつもない量の霊力を感じた。丹田が熱い。
「あはっ、あははははっ! 【せ・ん・の・う】っ!」
どす黒い霧が蔵に立ち込め、高窓や扉の隙間から外へと出ていった。
霧はまたたく間に四季神邸全土を包み込んだ。
――ギギィ……
ほどなくして、蔵の扉が開いた。
開けたのは、虚ろな目をした女中たちだ。
「くふっ、くふふふふっ! 王の御前よ」
女中たちが平伏した。
女中たちが作った道を、冬姫は歩く。
道の終端でひれ伏していたのは、父だった。
「くはっ、あははははっ! 待ってなさい、伍。アタシが手ずから、アンタを地獄に堕としてア・ゲ・ル」
「ところで、冬姫様」
アインスが話しかけてきた。
「あら。アンタ、まだいたの」
「伍を殺したあと、彼女の丹田を頂けませんか? 『我が主』が所望しているのです」
「丹田? そんなの、どうするつもりよ。まぁいいわ。伍の死体は、アンタの好きにしなさい」



