四季神家の【五】女は年下夢魔軍神に溺愛される

 目を覚ますと、どこまでも暗く冷たい蔵の中だった。

「冬神様? ねぇ、喉が乾いたわ。水を頂戴。【水球】……え?」

 水や霧を操るのは、冬姫にとって比較的容易い術のはずだった。
 だが、術は発動しなかった。
 冬神が――あろうことか、巫女たる冬姫を受け入れるべき唯一絶対の存在が、冬姫の願いを拒否したのだ。

「あぁ……あぁぁ……あぁあああぁぁああぁああああああああああッ! ふざけないでっ、ふざけないでよ、冬神!」

 冬姫は頭をかきむしる。

「それもこれも、全部全部全部っ、伍が悪いのよ! 伍さえいなければ、アタシがお父様やお母様を【洗脳】する必要なんてなかった。アタシがこんな目に遭うこともなかったのよ!」




「そのとおりです」




 蔵の奥から、声がした。

「だ、誰っ!?」

 冬姫は飛び上がった。
 暗がりから出てきたのは、

「……六九六(むくろ)アインス?」

 六九六家の若き当主、銀髪碧眼の美丈夫だ。

「なんでアンタがここに?」
「冬姫様、本物の【洗脳】の力、欲しくはありませんか?」
「えっ」

 アインスがいびつな形の十字架を取り出した。十字架を上下逆さにした形――『逆十字』だ。

「この力は、あなたのような女性にこそふさわしい」
「本物の【洗脳】の力……?」

 その甘美な響きに、冬姫は一瞬で陥落した。
『なぜアインスがこんなところに?』とか、
『コイツの言うことを信じてもよいのか?』とか。
 本来考えるべきあれこれが吹き飛んでしまった。

「欲しいっ!」

 冬姫はアインスから十字架を奪い取った。
 とたん、冬姫はとてつもない量の霊力を感じた。丹田が熱い。

「あはっ、あははははっ! 【せ・ん・の・う】っ!」

 どす黒い霧が蔵に立ち込め、高窓や扉の隙間から外へと出ていった。
 霧はまたたく間に四季神邸全土を包み込んだ。

 ――ギギィ……

 ほどなくして、蔵の扉が開いた。
 開けたのは、虚ろな目をした女中たちだ。

「くふっ、くふふふふっ! 王の御前よ」

 女中たちが平伏した。
 女中たちが作った道を、冬姫は歩く。
 道の終端でひれ伏していたのは、父だった。

「くはっ、あははははっ! 待ってなさい、伍。アタシが手ずから、アンタを地獄に堕としてア・ゲ・ル」
「ところで、冬姫様」

 アインスが話しかけてきた。

「あら。アンタ、まだいたの」
「伍を殺したあと、彼女の丹田を頂けませんか? 『我が主』が所望しているのです」
「丹田? そんなの、どうするつもりよ。まぁいいわ。伍の死体は、アンタの好きにしなさい」