昼食のあと、デウスの私室にて。
「旅団員の皆様は、旦那様の正体をご存じないのですよね?」
嫌がる十歳デウスの着替えを手伝いながら、伍は尋ねる。
「ああ。千代子、巌、秀明、それに第ゼロ師団長の十月大将しか、『阿ノ九多羅中将が実は十歳である』ことを知らない」
「十歳のデウス様の存在をご存知の方は?」
「今挙げた四人だけだ。だが、俺のことを慧と勘違いしている奴は多いな」
「けい……様? とおっしゃいますと?」
「巌と千代子の長男だ。俺と同い年。どうしても十歳の状態で館内や外を歩きたいときは、俺は黒髪のカツラを被って、顔に【認識阻害】の術式を掛けるのさ」
「なるほど。一族挙げての欺瞞ですねっ」
デウスが黒髪のカツラを被った。
「ふふっ。黒髪の旦那様もお可愛い」
「可愛いって言うな」
白のワイシャツに、濃紺のスーツ、真っ赤なネクタイ。
今日のデウスは、名家のお坊ちゃんといった格好だ。
「仕上げに、【認識阻害】」
デウスが自身の顔に触れた。
「何も変わっておりませんが」
「伍は影響範囲対象外にしたからな。他の人が見たら、黒目のいたって平凡な顔に見えるはずだ」
「そんなにも細やかな術式を? さすがは旦那様っ」
「ふふん。日本一の天才だからな」
「ふふっ。では、行きましょう」
「まてまてまてっ」
手を引く伍を、デウスがベッドに座らせた。
「お前、その格好で行くつもりなのか? デヱトなんだろう?」
「あー……着替える時間が惜しいじゃありませんか」
けっしてみすぼらしい格好をしているわけではない。
が、伍は屋内作業用の鼠色の着物姿だった。
リリスのお下がりである。
「せめて割烹着は脱げ」
「あ、あはは……それもそうですね」
言われたとおり、伍は割烹着を脱ぐ。
「まてまてまてっ、どうしてここで脱ぐ!?」
「えっ、旦那様に言っていただいたからですが」
「だとしても、ここは俺の部屋で、俺とお前は未婚の男女だ」
「昨晩、あれほど熱烈に求婚してくださったではありませんか。今さら二言は許しませんよ?」
「二言はないが……ああもぅ、わざとじゃないのか? 本当に? はぁ……それと、伍、仕上げだ」
デウスが詠唱し、虚空に手を突っ込んだ。
取り出したのは、小さな宝石箱。
「昨日、デパートメントストアで買ったイヤリング――耳飾りだ。せめてこれで、着飾ってくれ」
「わっ、わっ、わっ……真っ赤です。まるで、旦那様の瞳の色のような」
「ふふん、虫除けだ。ルビー――紅玉だぞ」
「紅玉!? こんな高価な物、頂くわけには……って、虫除け?」
「だーかーらっ、お前を他の男に渡すつもりなど微塵もない、という意味だ」
「……? ――っ! ~~~~っ」
「ほら、じっとしていろ」
大きな紅玉の耳飾りを、デウスが伍の耳に付ける。
自然、二人の顔と顔が近づくこととなり、伍は昨晩のアレやコレやを思い出してしまった。
「ふふん。和装にイヤリングというのはミスマッチかもしれないが、これもまた和洋折衷。ほら、行くぞ」
「は、はい」
伍は、心の臓が痛い。
だが、嫌な痛さではない。
伍の手を引くデウスの背中は、小さいのに、大きかった。
(十歳でも二十歳でも、旦那様は旦那様なのね)
家を出る直前、伍は玄関の姿見に映る自身を見た。
耳飾りの色は、デウスの瞳とまったく同じ色だった。
伍は『自分は旦那様に所有されている』という感覚を覚え、倒錯的ながらも強烈な快感を得たのだった。
(わたくしが旦那様に絆されてどうするの!? 今回のデヱトでは、わたくしが旦那様を引率して、癒して差し上げるのよっ)
◆ ◇ ◆ ◇
「旅団員の皆様は、旦那様の正体をご存じないのですよね?」
嫌がる十歳デウスの着替えを手伝いながら、伍は尋ねる。
「ああ。千代子、巌、秀明、それに第ゼロ師団長の十月大将しか、『阿ノ九多羅中将が実は十歳である』ことを知らない」
「十歳のデウス様の存在をご存知の方は?」
「今挙げた四人だけだ。だが、俺のことを慧と勘違いしている奴は多いな」
「けい……様? とおっしゃいますと?」
「巌と千代子の長男だ。俺と同い年。どうしても十歳の状態で館内や外を歩きたいときは、俺は黒髪のカツラを被って、顔に【認識阻害】の術式を掛けるのさ」
「なるほど。一族挙げての欺瞞ですねっ」
デウスが黒髪のカツラを被った。
「ふふっ。黒髪の旦那様もお可愛い」
「可愛いって言うな」
白のワイシャツに、濃紺のスーツ、真っ赤なネクタイ。
今日のデウスは、名家のお坊ちゃんといった格好だ。
「仕上げに、【認識阻害】」
デウスが自身の顔に触れた。
「何も変わっておりませんが」
「伍は影響範囲対象外にしたからな。他の人が見たら、黒目のいたって平凡な顔に見えるはずだ」
「そんなにも細やかな術式を? さすがは旦那様っ」
「ふふん。日本一の天才だからな」
「ふふっ。では、行きましょう」
「まてまてまてっ」
手を引く伍を、デウスがベッドに座らせた。
「お前、その格好で行くつもりなのか? デヱトなんだろう?」
「あー……着替える時間が惜しいじゃありませんか」
けっしてみすぼらしい格好をしているわけではない。
が、伍は屋内作業用の鼠色の着物姿だった。
リリスのお下がりである。
「せめて割烹着は脱げ」
「あ、あはは……それもそうですね」
言われたとおり、伍は割烹着を脱ぐ。
「まてまてまてっ、どうしてここで脱ぐ!?」
「えっ、旦那様に言っていただいたからですが」
「だとしても、ここは俺の部屋で、俺とお前は未婚の男女だ」
「昨晩、あれほど熱烈に求婚してくださったではありませんか。今さら二言は許しませんよ?」
「二言はないが……ああもぅ、わざとじゃないのか? 本当に? はぁ……それと、伍、仕上げだ」
デウスが詠唱し、虚空に手を突っ込んだ。
取り出したのは、小さな宝石箱。
「昨日、デパートメントストアで買ったイヤリング――耳飾りだ。せめてこれで、着飾ってくれ」
「わっ、わっ、わっ……真っ赤です。まるで、旦那様の瞳の色のような」
「ふふん、虫除けだ。ルビー――紅玉だぞ」
「紅玉!? こんな高価な物、頂くわけには……って、虫除け?」
「だーかーらっ、お前を他の男に渡すつもりなど微塵もない、という意味だ」
「……? ――っ! ~~~~っ」
「ほら、じっとしていろ」
大きな紅玉の耳飾りを、デウスが伍の耳に付ける。
自然、二人の顔と顔が近づくこととなり、伍は昨晩のアレやコレやを思い出してしまった。
「ふふん。和装にイヤリングというのはミスマッチかもしれないが、これもまた和洋折衷。ほら、行くぞ」
「は、はい」
伍は、心の臓が痛い。
だが、嫌な痛さではない。
伍の手を引くデウスの背中は、小さいのに、大きかった。
(十歳でも二十歳でも、旦那様は旦那様なのね)
家を出る直前、伍は玄関の姿見に映る自身を見た。
耳飾りの色は、デウスの瞳とまったく同じ色だった。
伍は『自分は旦那様に所有されている』という感覚を覚え、倒錯的ながらも強烈な快感を得たのだった。
(わたくしが旦那様に絆されてどうするの!? 今回のデヱトでは、わたくしが旦那様を引率して、癒して差し上げるのよっ)
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