四季神家の【五】女は年下夢魔軍神に溺愛される

「旦那様、もうお昼ですよ~。旦那様?」

 (いつつ)はゆっくりとドアノブを回し、デウスの私室に入った。

「あらあら、なんというお寝相」

 昨日のようにベッドから転げ落ちてこそいなかったが、デウスは一八〇度ひっくり返っていた。掛け布団など、蹴落とされている有様だ。

「まったく、お風邪を召しますよ」

 伍は掛け布団を拾い上げ、軽く払ってからデウスの体に掛けようと――

「あ、これは」

 ――する前に、デウスの右袖がまくれ上がっていることに気づいた。

「これが、その『理由』……」

 デウスのほっそりとした右腕に刻まれている、魔法陣。

印章(シジル)。尋常の術師の数十倍、数百倍の霊力出力量を誇る、最強の媒体)

 大悪魔(グランドデビル)とその血族にのみ現れる印。
 デウスが母リリスから遺伝された武器だ。

『簡単な話です。坊っちゃんよりも強い退魔師が、この神戸にいないからですよ』

 あのあと、千代子はそう言った。

『というか、第七旅団が――いえ、第ゼロ師団が束になっても、坊っちゃん一人に敵いません。シジル持ちの術師とは、それほどまでに強いのです。
 もちろん、坊っちゃんを普通の子供として育てつつ、大人たちだけで神戸防衛の任に当たる、という選択肢もありました。が、その道を選んでいた場合、神戸はすでに滅んでいるでしょうね。少なくとも、レッドドラゴン襲来の時点で確実に滅んでいました』

(やむにやまれず、ということなのね。
 リリス様のご選択も、
 千代子様たちのご選択も、
 そして、旦那様ご自身のご選択も。
 神戸の平和を維持するために、清濁併せ呑んだ結果の今なのね。もはや、わたくしなんかが口を挟める状況ではない。わたくしはただ、全力で旦那様をお支えしよう)

 伍はデウスのシジルを指先でなでる。
 二の腕、間接、一の腕、そして手の平。

 ――ギュッ

 と、手を握られた。

「え? ――きゃっ」

 気がつくと、伍はベッドに引きずり込まれ、デウスに組み伏せられていた。

「ふふん、夜這いか?」
「もう昼ですよ、旦那様」
「ちぇっ……少しくらい、ドギマギしてくれてもいいんじゃないか?」
「していますよ。確かめてみますか?」

 伍はデウスの右耳を自身の左胸に押し当てた。

「わっ!?」

 ――トクントクン
   ――トクントクン
     ――トクントクン

「柔らかい……じゃなくてっ。伍ってときどき、急に積極的になるよな」
「え、そうですか? こうして鼓動の音を聴いていると、安心できるんです。お母様が昔、やってくれました」
「前言撤回。やっぱり子供扱いしてるじゃないかっ。ちょっと外に出ていろ。すぐに二十歳状態になってお前をドギマギさせてやる」
「もうお仕事の時間なのですか?」
「いや? (いわお)からは、夕方までに行けばよい、と言われている」
「ならば、【ヱイジング】と【文殊慧眼】は夕方まで無しにしましょう。それらの術はたいそうお疲れになるのでしょう? 旦那様は、たまにはご自愛すべきです」
「なんで俺がお前の命令に従わなきゃ――」
「旦那様」

 伍は、デウスの生意気な口を指先でふさいだ。

「わたくしと、デヱトしてくださいませんか?」




   ◆   ◇   ◆   ◇