「はい、あーん」
「やめろ、伍。自分一人で食べられる」
「ほら、こちらのおカボチャは熱いので、ふーふーしましょうね。ふーっ、ふーっ」
「だ・か・ら、自分で食べられ――あむっ。無理やり突っ込むな! って、あまっ!? このカボチャ、異常に甘い……あっ、ふーふーに霊力が載ってるな? 伍、お前、楽しんでるだろ」
「べ、別に楽しんでなど。ほら、こちらのボイルドソーセージも冷ましてから食べましょうね。ふーっ、ふーっ」
伍は、食堂でデウスに朝食を食べさせている。
そんな様子を、千代子がニマニマしながら眺めている。
「いい加減、箸を返せ! 自分一人で食べられる。俺は立派な大人だ!」
「まだ子供ではありませんか。先ほどご自身で、『大魔王直伝の魔術【ヱイジング】によって強制的に体を大きくしている』とおっしゃったでしょう。そうですよね、千代子様?」
「はい。坊っちゃんは明治三十七年生まれの満十歳。正真正銘のお子様です」
(なんてことだろう)
デウスに朝食を食べさせながら、伍はめまいを覚えるほどの衝撃を受けていた。
『事実、坊っちゃんではありませんか』
『伊ノ上千代子と申します。阿ノ九多羅家のメイド長兼家令、そして坊っちゃんの元乳母です』
『手を出すも何も、坊っちゃんは――』
『坊っちゃんは成長期ですから、もっと早起きすべきなのです』
『子供は、十歳の長男と七歳の長女がおります。この時間帯は、二人とも尋常小学校ですね』
(考えてもみれば、当然のお話。旦那様が二十歳前後なら、乳母の千代子様のご長男も同じご年齢でなければならない。お乳が出ないもの)
千代子は、はなから隠す気がなかったのだ。
一方のデウスは、必死に隠そうとしていた。
「でも、それにしては、大人状態の旦那様はずいぶんと大人びていらっしゃるというか、十歳児とは思えない威厳ある言動をなさっていましたよね。チンダイの皆様にもよく慕われていて」
「ふふん。そうだろう、そうだろう」
デウスが自慢げに鼻を鳴らす。
「なにせ、索敵・鑑定系術式の【文殊慧眼】で脳を満たし、無理やり精神年齢を引き上げているからな。こんな離れ業、日本中を探したってできる奴はいないぞ。俺は父上と母上から最高の才能を受け継いだ、日本一の天才なんだ」
「脳に術式……そ、それって大丈夫なんですか?」
「うーん……実を言うと、すっごく疲れる。俺は毎日ヘトヘトなんだ。特に昨晩は、死者を出さないように居留地一円を【文殊慧眼】で監視していたから、本当に疲れた。本当はもっと寝ていたい」
「それは大変です! ご飯を食べて歯磨きをしたら、お昼まで寝直しましょう。一緒に寝ましょうね」
「添い寝だと? 馬鹿にするな! 俺は大人だぞ」
「子供ではありませんか」
「だとしても、十歳の日本男児相手に添い寝とは侮辱だぞ」
「申し訳ございません……旦那様があまりにもおつらそうでしたから、少しでも助けになれれば、と」
「うっ……そうか、『ヘトヘト』だの『もっと寝ていたい』だの、俺が自分で言ったんだったな」
デウスが頭を抱える。
「この体は嫌いだ。小さいし、力は出ないし。何より、精神が惰弱なのが嫌だ。今だって、伍、お前に弱音を吐くつもりなんてなかったんだ。自慢話をするつもりもなかった。なのに、幼稚な心を抑えきれなくて、ついつい余計なことまで口走ってしまう」
「認めてもらいたがっている証拠ではありませんか。せめてわたくしにだけは、全力で甘えてください。わたくしは昨晩、『一生を懸けて旦那様をお支えする』と誓いました」
「でも、こんなちんちくりんの相手なんて嫌じゃないか?」
「ちんちくりんだなんて! 今の旦那様はとってもお可愛い――ごほんっ」
デウスが恨めしそうな目で伍を見てくるので、伍は慌てて言い直した。
「す、素敵なお姿ですよ」
「本当に?」
「本当に」
「なら、口づけできるか? 男として見れるか?」
「もちろんです。――ちゅっ」
伍はデウスの頬に口づけした。
「ほらーっ、やっぱり誤魔化した! やっぱり伍は、俺のことを男として見れないんだ」
十歳のデウスは、本人も言うとおり言動が子供っぽい。
(いえ、事実子供なのよ。若干十歳の子供が、国家存亡の重圧を背負わされていたなんて)
デウスをよしよししながら、伍はめまいを覚えるほどの怒りに耐えていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「やめろ、伍。自分一人で食べられる」
「ほら、こちらのおカボチャは熱いので、ふーふーしましょうね。ふーっ、ふーっ」
「だ・か・ら、自分で食べられ――あむっ。無理やり突っ込むな! って、あまっ!? このカボチャ、異常に甘い……あっ、ふーふーに霊力が載ってるな? 伍、お前、楽しんでるだろ」
「べ、別に楽しんでなど。ほら、こちらのボイルドソーセージも冷ましてから食べましょうね。ふーっ、ふーっ」
伍は、食堂でデウスに朝食を食べさせている。
そんな様子を、千代子がニマニマしながら眺めている。
「いい加減、箸を返せ! 自分一人で食べられる。俺は立派な大人だ!」
「まだ子供ではありませんか。先ほどご自身で、『大魔王直伝の魔術【ヱイジング】によって強制的に体を大きくしている』とおっしゃったでしょう。そうですよね、千代子様?」
「はい。坊っちゃんは明治三十七年生まれの満十歳。正真正銘のお子様です」
(なんてことだろう)
デウスに朝食を食べさせながら、伍はめまいを覚えるほどの衝撃を受けていた。
『事実、坊っちゃんではありませんか』
『伊ノ上千代子と申します。阿ノ九多羅家のメイド長兼家令、そして坊っちゃんの元乳母です』
『手を出すも何も、坊っちゃんは――』
『坊っちゃんは成長期ですから、もっと早起きすべきなのです』
『子供は、十歳の長男と七歳の長女がおります。この時間帯は、二人とも尋常小学校ですね』
(考えてもみれば、当然のお話。旦那様が二十歳前後なら、乳母の千代子様のご長男も同じご年齢でなければならない。お乳が出ないもの)
千代子は、はなから隠す気がなかったのだ。
一方のデウスは、必死に隠そうとしていた。
「でも、それにしては、大人状態の旦那様はずいぶんと大人びていらっしゃるというか、十歳児とは思えない威厳ある言動をなさっていましたよね。チンダイの皆様にもよく慕われていて」
「ふふん。そうだろう、そうだろう」
デウスが自慢げに鼻を鳴らす。
「なにせ、索敵・鑑定系術式の【文殊慧眼】で脳を満たし、無理やり精神年齢を引き上げているからな。こんな離れ業、日本中を探したってできる奴はいないぞ。俺は父上と母上から最高の才能を受け継いだ、日本一の天才なんだ」
「脳に術式……そ、それって大丈夫なんですか?」
「うーん……実を言うと、すっごく疲れる。俺は毎日ヘトヘトなんだ。特に昨晩は、死者を出さないように居留地一円を【文殊慧眼】で監視していたから、本当に疲れた。本当はもっと寝ていたい」
「それは大変です! ご飯を食べて歯磨きをしたら、お昼まで寝直しましょう。一緒に寝ましょうね」
「添い寝だと? 馬鹿にするな! 俺は大人だぞ」
「子供ではありませんか」
「だとしても、十歳の日本男児相手に添い寝とは侮辱だぞ」
「申し訳ございません……旦那様があまりにもおつらそうでしたから、少しでも助けになれれば、と」
「うっ……そうか、『ヘトヘト』だの『もっと寝ていたい』だの、俺が自分で言ったんだったな」
デウスが頭を抱える。
「この体は嫌いだ。小さいし、力は出ないし。何より、精神が惰弱なのが嫌だ。今だって、伍、お前に弱音を吐くつもりなんてなかったんだ。自慢話をするつもりもなかった。なのに、幼稚な心を抑えきれなくて、ついつい余計なことまで口走ってしまう」
「認めてもらいたがっている証拠ではありませんか。せめてわたくしにだけは、全力で甘えてください。わたくしは昨晩、『一生を懸けて旦那様をお支えする』と誓いました」
「でも、こんなちんちくりんの相手なんて嫌じゃないか?」
「ちんちくりんだなんて! 今の旦那様はとってもお可愛い――ごほんっ」
デウスが恨めしそうな目で伍を見てくるので、伍は慌てて言い直した。
「す、素敵なお姿ですよ」
「本当に?」
「本当に」
「なら、口づけできるか? 男として見れるか?」
「もちろんです。――ちゅっ」
伍はデウスの頬に口づけした。
「ほらーっ、やっぱり誤魔化した! やっぱり伍は、俺のことを男として見れないんだ」
十歳のデウスは、本人も言うとおり言動が子供っぽい。
(いえ、事実子供なのよ。若干十歳の子供が、国家存亡の重圧を背負わされていたなんて)
デウスをよしよししながら、伍はめまいを覚えるほどの怒りに耐えていた。
◆ ◇ ◆ ◇



