四季神家の【五】女は年下夢魔軍神に溺愛される

「あははっ」

 デウスは、楽しい。
 こんなにも気分が高揚したのは、いつぶりだろうか。

(いや、生まれて初めてかもしれない。霊力があふれてくる! 何という万能感だ!)

 試製一年式村田自動小銃改の長大な銃身が、驚くほど軽い。
 これほどの大霊力を込めた攻撃を連発していながら、【身体強化】に霊力を回す余裕があるからだ。

 デウスはいつも、霊力不足に悩まされてきた。
 毎晩の過酷な戦いで、魔術を連発する必要があるためだ。
『とある理由』から、デウスの瞬間霊力放出量は第七旅団一、どころか第ゼロ師団一――つまり日本一の水準となっている。
 が、生まれ持った霊力総量のほうは――こちらも日本一の水準ではあるものの――瞬間霊力放出量を十分に活かせるほど潤沢ではなかった。
 霊力が欲しい……それは、デウスの切実な叫びだった。

「それが、今日はどうだ!? 【AMEN】! 【AMEN】!」

 村田銃の引き金を引くたびに、ダース単位で敵デビルたちが消し飛んでいく。
 普通なら一発で一体祓えるかどうかの『通常天使弾(ヱンジェルバレット)』が、最高級弾『熾天使弾(セラフィムバレット)』にすら届きうるほどの威力だ。

(いつつ)のおかげだ。伍、お前は俺の翼だ。お前さえいれば、俺は最強だ!」

 デウスは伍をおんぶしながらも難なく飛び回り、敵を祓っていく。

 ――ゴォァアァアアアアアアァアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 宿敵レッドドラゴンが、強烈な【ドラゴンブレス】を放ってきた。
 灼熱の炎が二人を襲うが、

「【小十字防護結界】!」

 デウスが唱えると、首から下げた十字架が輝き、光の盾となって二人を覆った。

「さぁ、伍! もう一度だ」
「は、はい……」

 デウスはさらなる霊力供給を受けようとする。
 が、デウスの背中から降りた伍の様子がおかしい。体が震えている。それに、月明かりの下でも分かるほど、顔が真っ青だ。

(霊力枯渇だ)

 伍は、相当無理をしているのだ。

(俺は、なんてことを……!)

 デウスの心が罪悪感で塗りつぶされた。

 ――ゴォァアァアアアアアアアアアアアッ!

 そこに、不意打ちの【ドラゴンブレス】。

「しまっ――」
「【小十字防護結界】!」

 建物の下のほうから、千代子の声。
 と同時、光の盾がデウスたちを包み込み、二人を守った。

「総員、レッドドラゴンへ一斉射!」

 続いて、下のほうから(いわお)の声。
 無数のヱンジェルバレットがレッドドラゴンの翼を射抜く。
 レッドドラゴンがたじろいだ。

 デウスはその隙に伍を抱き上げ、居留地の奥のほうへと退避した。
 手頃なベンチを見つけたので、伍をそっと横たわらせる。

「すまない、伍」

 南のほうからは、愛する仲間たちがレッドドラゴンや取り巻きデビルたちと戦っている音が聴こえてくる。
 だが、今は伍のことだ。

「デウス様……? レッドドラゴンは……? 早く霊力を吸ってください」
「横になっていろ」

 伍が起きようとするので、無理やり寝かせる。
 伍は額にびっしりと汗を浮かべている。

(俺のせいだ。俺が、伍を傷つけたんだ)

「ですが、千代子様も……他の皆様も、戦っておられるのでしょう? わたくしだけ休んでいるわけには」
「頼むからっ」
「デウス様、わたくしはお役に立ちたいのです。立たなければならないのです」
「そうだ、伍、話をしよう。大事な話があると言っていただろう?」

 なおも起き上がろうとする伍の気をそらせるために、デウスは切り出した。

「…………。……はい」

 伍が折れてくれた。

「実は、お前にここに来てもらったのには理由があったんだ。レッドドラゴンを倒すためだ」
「……はい」
「俺の右腕は特殊でな。尋常の術師の数十倍、数百倍の瞬間霊力放出量を持っているんだ。だが、霊力総量のほうは放出量に見合うほど多くはない。
 だから俺は毎晩、霊力不足に悩んでいた。いつもいつも、限られた霊力をどうやりくりするかに悩まされながら、戦い続けてきた。
 三ヵ月前なんて、霊力不足のせいでレッドドラゴンを倒しきれず、逃がしてしまうという大失態を演じてしまった。潤沢な霊力があれば、政府やカネボウに迷惑をかけることもなかったのに」
「…………」
「そんな折、お前のウワサを耳にしたんだ。無量の霊力。俺が、喉から手が出るほど欲しいモノ。だから、手紙を出した。お前の前に現れた。こうして、お前をここに連れてきた。
 ……もう分かっただろう? 俺はお前を戦いの道具にするために、連れてきたんだ」

 伍が、何かに耐えるように目を閉じている。

「俺はお前を利用したんだ。お前は実家で居場所がなさそうだったから、優しい言葉をかけたら簡単に連れ出せるだろう、とすら考えていた。
 幻滅したか? 俺のことが許せないなら、今ここで俺をぶってもいい。怖いなら、実家に戻ってくれてもいい」
「……いえ。レッドドラゴンを倒しきるまでは、ご一緒させてください」
「……そうか、恩に着る」
「それで」

 伍が目を開いた。
 すがるような眼差しをデウスに向けて、

「レッドドラゴンを倒せば、わたくしはお役御免でしょうか?」

 デウスは胸が張り裂けそうになりながらも、本当のことを口にする。

「いや……レッドドラゴン級の脅威は、神戸にとってはよくあることなんだ。奴を倒しても、奴と同水準の脅威や、それ以上の脅威が今後も現れるだろう。だから、ここにいる限り、お前には霊力を提供してもらい続けることになる」

 ――がばり

 と、伍が起き上がった。

「今、何と?」
「えっ? いや、だから、お前はこれからも戦いの道具として利用され続けることに――」




「……うれしい」




 伍が、微笑んだ。