――びゅぅっ
一陣の風が吹いたので、伍は肩をすぼませた。
「悪い。十月にアイスクリンは寒かったな」
「い、いえ」
「どうしても食べさせたかったんだ。許せ。ほら、これを着るといい」
デウスがフロックコートを脱いで、伍の肩にかけてくれた。
身長差があるため、伍が着ると西洋の絵物語に出てくるマントのようだ。
(温かい……それに、デウス様の匂いがする)
「ありがとうございます。ですが、デウス様は寒くないのですか?」
「俺は鍛えているからな」
「すごいっ。鍛えると寒くなくなるのですね」
「ぷっ、ふふっ。嘘だよ、嘘。本当は、初級火炎魔術と初級風魔術の応用で体表を温めているのさ」
「そんな便利な術が?」
「普段は霊力がもったいないから使えないんだが――」
デウスが伍の耳元で囁く。
「今は伍がいてくれるからな」
伍は真っ赤になりながらも、
「お、お役に立てて何よりです」
と応えることができた。
空では、太陽がやや西に傾いている。
伍はデウスにヱスコートしてもらいながら、元町の大通りを南下していく。
ほどなくして居留地が見えてきて、阿ノ九多羅邸の威風堂々とした五階建てが現れた。
「あら? たくさんの出入りがありますね。チンダイさんのようですが」
そう、軍服姿の男たちが、阿ノ九多羅邸に出入りしているのだ。
「昨晩は『自宅に改造した』と言ったが、ここは依然として第七旅団の本拠地でもあるのさ」
「えっ」
「あぁ、寮棟の五階はプライベートスペースだから安心しろ」
「はい」
『プライベートスペース』という言葉は初めて聞いたが、昨晩の千代子の言葉と併せ、伍は意味を理解した。
二人が邸宅に入ると、多くの将兵たちがデウスに対して一斉に敬礼してきた。
伍は心底驚いた。
一方のデウスは、慣れた様子で答礼した。
「楽にしてくれていい。このとおり、夕方までは非番なんだ」
「「「「「はっ」」」」」
若手から、デウスよりもずっと年上の将官に至るまで、誰も彼もが直立不動で返事をする。
(デウス様って、もしかしてものすごく偉いお方なのでは……?)
伍はだんだん怖くなってきた。
そんな偉い人物に、今まで散々気安く話しかけたり、粗相をしてきたからだ。
「堂々としていろ、伍」
そんな伍の頭を、デウスがなでてくれた。
「お前は阿ノ九多羅家の妻になる女なのだから、な」
「は、はい」
「行こう。紹介したい奴らがいるんだ」
伍はデウスにヱスコートされながら、本棟の五階へ向かう。
階を経るごとに軍人たちの装いが重厚になり、勲章が増えていく。
そんな軍人たちの誰も彼もが、伍に視線を向けてくる。
五階に到達したとたん、人がピタリといなくなった。
電灯で照らし出された廊下を、デウスがズンズン進んでいく。
伍はおっかなびっくりついて行く。
やがて、廊下の突き当り――『第七旅団長室』と掲げられた部屋の前に到着した。
(第七旅団。大日本帝国陸軍が誇る、対西洋アヤカシ専門部隊)
「入るぞ」
デウスがドアを開けた。
一陣の風が吹いたので、伍は肩をすぼませた。
「悪い。十月にアイスクリンは寒かったな」
「い、いえ」
「どうしても食べさせたかったんだ。許せ。ほら、これを着るといい」
デウスがフロックコートを脱いで、伍の肩にかけてくれた。
身長差があるため、伍が着ると西洋の絵物語に出てくるマントのようだ。
(温かい……それに、デウス様の匂いがする)
「ありがとうございます。ですが、デウス様は寒くないのですか?」
「俺は鍛えているからな」
「すごいっ。鍛えると寒くなくなるのですね」
「ぷっ、ふふっ。嘘だよ、嘘。本当は、初級火炎魔術と初級風魔術の応用で体表を温めているのさ」
「そんな便利な術が?」
「普段は霊力がもったいないから使えないんだが――」
デウスが伍の耳元で囁く。
「今は伍がいてくれるからな」
伍は真っ赤になりながらも、
「お、お役に立てて何よりです」
と応えることができた。
空では、太陽がやや西に傾いている。
伍はデウスにヱスコートしてもらいながら、元町の大通りを南下していく。
ほどなくして居留地が見えてきて、阿ノ九多羅邸の威風堂々とした五階建てが現れた。
「あら? たくさんの出入りがありますね。チンダイさんのようですが」
そう、軍服姿の男たちが、阿ノ九多羅邸に出入りしているのだ。
「昨晩は『自宅に改造した』と言ったが、ここは依然として第七旅団の本拠地でもあるのさ」
「えっ」
「あぁ、寮棟の五階はプライベートスペースだから安心しろ」
「はい」
『プライベートスペース』という言葉は初めて聞いたが、昨晩の千代子の言葉と併せ、伍は意味を理解した。
二人が邸宅に入ると、多くの将兵たちがデウスに対して一斉に敬礼してきた。
伍は心底驚いた。
一方のデウスは、慣れた様子で答礼した。
「楽にしてくれていい。このとおり、夕方までは非番なんだ」
「「「「「はっ」」」」」
若手から、デウスよりもずっと年上の将官に至るまで、誰も彼もが直立不動で返事をする。
(デウス様って、もしかしてものすごく偉いお方なのでは……?)
伍はだんだん怖くなってきた。
そんな偉い人物に、今まで散々気安く話しかけたり、粗相をしてきたからだ。
「堂々としていろ、伍」
そんな伍の頭を、デウスがなでてくれた。
「お前は阿ノ九多羅家の妻になる女なのだから、な」
「は、はい」
「行こう。紹介したい奴らがいるんだ」
伍はデウスにヱスコートされながら、本棟の五階へ向かう。
階を経るごとに軍人たちの装いが重厚になり、勲章が増えていく。
そんな軍人たちの誰も彼もが、伍に視線を向けてくる。
五階に到達したとたん、人がピタリといなくなった。
電灯で照らし出された廊下を、デウスがズンズン進んでいく。
伍はおっかなびっくりついて行く。
やがて、廊下の突き当り――『第七旅団長室』と掲げられた部屋の前に到着した。
(第七旅団。大日本帝国陸軍が誇る、対西洋アヤカシ専門部隊)
「入るぞ」
デウスがドアを開けた。



