「これも似合う。これも捨てがたい。これもいい!」
続いて連れて来られたのは、洋服屋だ。
「あ、あのっ、デウス様。洋服のような高級品、わたくしにはもったいないです」
「もったいなくなんてないぞ」
「そうですよ、お嬢さん。よければご試着なさいますか?」
デウスと女性店員に乗せられて、伍はちょっとしたファッションショーをする羽目になった。
「失敗した。写真機を持ってくるべきだった」
「もう、デウス様ったら!」
洋服に和服、リボンや簪などを山盛り買ったデウスが、満足顔で大通りを歩いている。
普通なら山のような荷物を抱えているところだが、デウスは手ぶらだ。
【虚空庫】という、亜空間に物を収納することができる秘術の中へ荷物を入れてしまったからだ。
術を目の当たりにしたとき、伍はおっ魂消た。
さらに、『境様なら普通におできになると思うぞ』というデウスの言葉にも仰天した。
そうして今、二人はデパートメントストアから出て、元町の大通りから一本外れた道を歩いている。
外れ道といっても、依然として石畳が整然と敷き詰められた主要路だ。
商店街とは異なり、この道は落ち着いた雰囲気で、高級な洋服店や洋食屋などが並んでいる。
歩く人々の顔ぶれには、異人が多い。
つまり、高級店区画なのだ。
「次はどこへ向かわれるので?」
「腹が減っただろう? 昼にしよう」
「はい。帰ったらすぐにお作りしますね。どのような物をご希望ですか?」
「違う違う。せっかく街に繰り出したんだ。お前に極上の洋食を食べさせてやる」
「異人さんのお食事ですか? お高いのでは……?」
「気にするな。俺は旅団一の高給取りだからな」
入ったのは、洗練された雰囲気の洋食屋。
曲げ木の上品なテーブルに案内され、伍は緊張する。
電灯――最先端技術たる電気の明かり――で照らし出された店内は、異人客がちらほら。
「特製煮込みハンバーグと海鮮サラダを二つずつ。それと、パンの盛り合わせを」
「かしこまりました」
注文を受けた異人店員が一度店の奥に消えたあと、再び現れて二人の席に様々な大きさのナイフとフォークを起きはじめる。
見たことのない食器の数々に、伍は緊張する。
「ど、どれを使えば……あわわっ」
「悪いが、箸を出してくれないか?」
慣れているのか、店員は嫌な顔一つせずデウスの要望に応えてくれた。
「す、すみません……」
「気にするな。洋風マナーは、追い追い学べばいい。千代子に伝えておこう。それよりも、ここのハンバーグは絶品だぞ」
「はんばーぐ?」
「ハンブルグ・ステーキ。牛と豚の合いびき肉とみじん切りにした玉ねぎを、塩や胡椒、卵、牛乳、小麦粉と一緒にこねて、焼くのさ。しかもここのは、焼いたあとに赤ワインで煮込むんだ」
「なんと。手が込んでいるのですのね」
などと話し込んでいるうちに、先にパンがやって来た。
「パンは初めてか?」
「はい」
「こっちのフランスパンは、バターを付けて食べると美味い。こっちのクロワッサンは、甘めのやつだ」
「甘い……? た、食べてみても?」
「もちろん。指を洗うための水と手拭きがあるから、手づかみでガッといけ」
「はいっ」
伍は意を決して『ガッ』といった。
クロワッサンを豪快にちぎり、ワクワクしながら口に放り込む。
(うわぁっ、甘いっ!)
伍は目を輝かせながら咀嚼し、飲み込んだ。
「デウス様、甘いです!」
「ふふっ、伍は大げさだな」
「大げさだなんて、そんな。こんなにも甘くて美味しいもの、生まれて初めて食べました」
「そうなのか? このくらいで驚いていては、食後のデザートでは驚きすぎて気を失ってしまうぞ」
「でざーと!」
初めて聞いた言葉だったが、伍はその響きに心を踊らせた。
やがて、煮込みハンバーグとサラダがやって来た。
「大きい……どうやって食べれば」
「切り分けてやろう」
デウスが伍のハンバーグをスイッスイッと切り分けてくれた。
「デウス様、お上手なのですね」
「恥ずかしいから、そんなに凝視するな。ほら、食べてみろ」
「はい。んんっ!?」
――じゅわぁっ
と、伍の口の中で旨味が爆発した。
「どうだ、美味しいだろう?」
伍は目を輝かせながら必死にうなずく。
すかさず二口目だ。
「ふふっ。ハンバーグは逃げないから、慌てずゆっくり食べるといい」
デウスに見守られながら、伍はこの世の至福を味わった。
塩味の利いたハンバーグのあとにクロワッサンを口に入れ、再びハンバーグに戻ってくると、『旨い』と『甘い』が交互に襲いかかってきて、いつまでも飽きがこないのだった。
◆ ◇ ◆ ◇
続いて連れて来られたのは、洋服屋だ。
「あ、あのっ、デウス様。洋服のような高級品、わたくしにはもったいないです」
「もったいなくなんてないぞ」
「そうですよ、お嬢さん。よければご試着なさいますか?」
デウスと女性店員に乗せられて、伍はちょっとしたファッションショーをする羽目になった。
「失敗した。写真機を持ってくるべきだった」
「もう、デウス様ったら!」
洋服に和服、リボンや簪などを山盛り買ったデウスが、満足顔で大通りを歩いている。
普通なら山のような荷物を抱えているところだが、デウスは手ぶらだ。
【虚空庫】という、亜空間に物を収納することができる秘術の中へ荷物を入れてしまったからだ。
術を目の当たりにしたとき、伍はおっ魂消た。
さらに、『境様なら普通におできになると思うぞ』というデウスの言葉にも仰天した。
そうして今、二人はデパートメントストアから出て、元町の大通りから一本外れた道を歩いている。
外れ道といっても、依然として石畳が整然と敷き詰められた主要路だ。
商店街とは異なり、この道は落ち着いた雰囲気で、高級な洋服店や洋食屋などが並んでいる。
歩く人々の顔ぶれには、異人が多い。
つまり、高級店区画なのだ。
「次はどこへ向かわれるので?」
「腹が減っただろう? 昼にしよう」
「はい。帰ったらすぐにお作りしますね。どのような物をご希望ですか?」
「違う違う。せっかく街に繰り出したんだ。お前に極上の洋食を食べさせてやる」
「異人さんのお食事ですか? お高いのでは……?」
「気にするな。俺は旅団一の高給取りだからな」
入ったのは、洗練された雰囲気の洋食屋。
曲げ木の上品なテーブルに案内され、伍は緊張する。
電灯――最先端技術たる電気の明かり――で照らし出された店内は、異人客がちらほら。
「特製煮込みハンバーグと海鮮サラダを二つずつ。それと、パンの盛り合わせを」
「かしこまりました」
注文を受けた異人店員が一度店の奥に消えたあと、再び現れて二人の席に様々な大きさのナイフとフォークを起きはじめる。
見たことのない食器の数々に、伍は緊張する。
「ど、どれを使えば……あわわっ」
「悪いが、箸を出してくれないか?」
慣れているのか、店員は嫌な顔一つせずデウスの要望に応えてくれた。
「す、すみません……」
「気にするな。洋風マナーは、追い追い学べばいい。千代子に伝えておこう。それよりも、ここのハンバーグは絶品だぞ」
「はんばーぐ?」
「ハンブルグ・ステーキ。牛と豚の合いびき肉とみじん切りにした玉ねぎを、塩や胡椒、卵、牛乳、小麦粉と一緒にこねて、焼くのさ。しかもここのは、焼いたあとに赤ワインで煮込むんだ」
「なんと。手が込んでいるのですのね」
などと話し込んでいるうちに、先にパンがやって来た。
「パンは初めてか?」
「はい」
「こっちのフランスパンは、バターを付けて食べると美味い。こっちのクロワッサンは、甘めのやつだ」
「甘い……? た、食べてみても?」
「もちろん。指を洗うための水と手拭きがあるから、手づかみでガッといけ」
「はいっ」
伍は意を決して『ガッ』といった。
クロワッサンを豪快にちぎり、ワクワクしながら口に放り込む。
(うわぁっ、甘いっ!)
伍は目を輝かせながら咀嚼し、飲み込んだ。
「デウス様、甘いです!」
「ふふっ、伍は大げさだな」
「大げさだなんて、そんな。こんなにも甘くて美味しいもの、生まれて初めて食べました」
「そうなのか? このくらいで驚いていては、食後のデザートでは驚きすぎて気を失ってしまうぞ」
「でざーと!」
初めて聞いた言葉だったが、伍はその響きに心を踊らせた。
やがて、煮込みハンバーグとサラダがやって来た。
「大きい……どうやって食べれば」
「切り分けてやろう」
デウスが伍のハンバーグをスイッスイッと切り分けてくれた。
「デウス様、お上手なのですね」
「恥ずかしいから、そんなに凝視するな。ほら、食べてみろ」
「はい。んんっ!?」
――じゅわぁっ
と、伍の口の中で旨味が爆発した。
「どうだ、美味しいだろう?」
伍は目を輝かせながら必死にうなずく。
すかさず二口目だ。
「ふふっ。ハンバーグは逃げないから、慌てずゆっくり食べるといい」
デウスに見守られながら、伍はこの世の至福を味わった。
塩味の利いたハンバーグのあとにクロワッサンを口に入れ、再びハンバーグに戻ってくると、『旨い』と『甘い』が交互に襲いかかってきて、いつまでも飽きがこないのだった。
◆ ◇ ◆ ◇



