「――はっ!?」
その瞬間、過去の映像が濁流のように流れ込んできた。
私はリリア・ベルネット。
もとは平民だけれど、光魔法の適性があって男爵家に養子入りした聖女候補。
そして今日は貴族たちが通う魔術学園の入学式。
だけど、同時にもう一つの記憶も持っている。
私は、毒島加寿子だ。
「リリアの体と、加寿子の記憶。これはつまり――」
思わず手のひらを握り締める。
「……ヒロイン、転生」
爽やかな風がセミロングの髪を揺らした。
「やったやったやった! やりましたよ神様!!!」
私はそよ風にスカートを翻して高らかに叫んだ。
誰からも愛される世界の中心。
王子に選ばれ、騎士に守られ、魔術師に求められ、砂漠の王子に口説かれる、特別な女の子。
となれば、やることはただ一つ――
「待ってなさいよ、みんな! 全員、私のものにしてやるんだから!!」
舞い散る桜を浴びながらそう宣言した時だった。
『なんと……』
突然、呆れたような声がした。
『なんて目標を持つのだね。あばずれと勘違いされてしまうのだよ』
声のする方向を見ると、小さな生き物が浮いていた。
丸くて、白くて、ふわふわしている。
綿あめに羽が生えたみたいな、手のひらサイズのいきもの。
「でた! ヒロインサポート妖精のプルプル!」
『なんなのだね、それは!? 我は君に力を与える光の精霊なのだ! ひれ伏すのだよ!』
どうやらこの妖精にはメタ知識はないらしい。
確かに設定上は、ヒロインのリリアに光の加護を与えた高位なる光の精霊。
けれど、私からしたら困ったときに話しかけたら便利アイテムをくれるお助けシステムだ。
『リリア、わかっているのかね。今日は特別な日、魔術学園の入学式なのだよ。男爵家に養子入りしたとはいえ、君は平民出身。貴族ばかりのこの学園ではいくつもの困難があるだろうが――』
「わかってるって! 私の光魔法で、雑魚どものド肝抜いてやるんだから!」
『口が悪いのだよ!』
そう、今日は特別な日。
平民出身の少女リリア・ベルネットが、光魔法の才能を見出され、名門魔術学園へ入学する日。
そして、攻略対象たちのお披露目シーンの日でもある。
(平民出身のくせに生意気だと、悪役令嬢クラリッサに転ばされてしまった私。そんな私を、レオンハルト、ガウェイン、ユリウス、ジャヴェール……錚々たるメンバーが守ってくれるのよね)
よし、さっそくいじめられに行こう!
私はこれから始まる新しい人生に胸を膨らませ、意気揚々と校門をくぐった。
『ここは王立アウレリア魔術学園。貴族のみが通うことを許される学園、だが――』
「私はこの世でたったひとりの光属性だから入学許可が下りてるのよね。チュートリアルで死ぬほど聞いたから、もういいって」
『何の話なのだよ!?』
チュートリアル妖精、プルプルの話を適当に流しながら、私は正門の前で足を止めた。
ここだ。
ゲーム開始直後、攻略対象ご一行と出会う場所。
私の記憶が正しければ、あと少しで王家の馬車が到着する。
王太子レオンハルト、騎士ガウェイン、宰相見習いユリウス、そして隣国からの留学生ジャヴェール。
彼らが一堂に会す超美麗スチルを見た後、私は悪役令嬢クラリッサにいじめられ。そして助けてもらう。
「緊張してきた……」
ドキドキしながら立っていると、周囲の生徒たちがざわめきだす。
「レオンハルト殿下よ!」
「本当だわ。今日もお美しい……!」
「ご覧になって、あの王家の紋章」
来た来た来た!
校門前に白と金で飾られた立派な馬車が止まる。
扉が開き、まず降りてきたのは、黄金の髪をした青年だった。
王太子レオンハルト。
晴れた空を映したような青い瞳。すっと通った鼻筋。制服を着ているだけなのに、なぜか王冠を被っているみたいな気品がある。
その後ろから、大柄な黒髪の青年が降りてくる。
騎士ガウェイン。
無口で不器用だけど、一度懐に入れた相手には一生を捧げる忠犬系騎士。
続いて、銀髪に眼鏡の青年が、片手に分厚い本を抱えて現れた。
宰相見習いにして天才魔術師、ユリウス。
冷淡で理屈っぽくて、序盤はリリアのことを「興味深い魔力サンプル」としか見ていないくせに、終盤になると「君がいない世界に意味はない」とか言い出す激重枠。
そして最後に、褐色の肌をした青年が軽やかに馬車から降り立った。
砂漠の華、ジャヴェール。
金の装飾が揺れるたびに、周囲の女子生徒たちから小さな悲鳴が上がる。甘い笑み。余裕のある仕草。異国の王族らしい華やかさ。
(完璧すぎる……!)
いま私の目の前に、攻略対象四人が全員揃っている。
ここで、悪役令嬢クラリッサが登場する。そして平民出身の私を馬鹿にして、わざと足を引っかける。
私は転ぶ。
そこへレオンハルトが手を差し伸べる。
『大丈夫か、リリア・ベルネット』
これがレオンハルトルートの初回スチル。即ち超重要イベント。
ここで健気に振舞えば、レオンハルトの好感度が上がる。
ガウェインには「気丈な少女」、ユリウスには「興味深い光魔法の使い手」、ジャヴェールには「退屈しない娘」として認識される。
つまり、逆ハーレムへの第一歩。
(派手に転んでやろ。ちょっと重心ずらしておいて……っと)
『何をしているのだね』
「転ぶ準備」
『何故なのだ!?』
やいやいとうるさいプルプルを無視して、私は準備を整える。
見てなさい、私がヒロインとして華麗にいじめられ、華麗に助けられ、華麗に攻略対象たちの心を掴む瞬間を。
私は可憐な困り顔を作りながら、クラリッサの登場を待った。
(さあ来い悪役令嬢! どかんとすっころばせて見なさい!)
その瞬間、過去の映像が濁流のように流れ込んできた。
私はリリア・ベルネット。
もとは平民だけれど、光魔法の適性があって男爵家に養子入りした聖女候補。
そして今日は貴族たちが通う魔術学園の入学式。
だけど、同時にもう一つの記憶も持っている。
私は、毒島加寿子だ。
「リリアの体と、加寿子の記憶。これはつまり――」
思わず手のひらを握り締める。
「……ヒロイン、転生」
爽やかな風がセミロングの髪を揺らした。
「やったやったやった! やりましたよ神様!!!」
私はそよ風にスカートを翻して高らかに叫んだ。
誰からも愛される世界の中心。
王子に選ばれ、騎士に守られ、魔術師に求められ、砂漠の王子に口説かれる、特別な女の子。
となれば、やることはただ一つ――
「待ってなさいよ、みんな! 全員、私のものにしてやるんだから!!」
舞い散る桜を浴びながらそう宣言した時だった。
『なんと……』
突然、呆れたような声がした。
『なんて目標を持つのだね。あばずれと勘違いされてしまうのだよ』
声のする方向を見ると、小さな生き物が浮いていた。
丸くて、白くて、ふわふわしている。
綿あめに羽が生えたみたいな、手のひらサイズのいきもの。
「でた! ヒロインサポート妖精のプルプル!」
『なんなのだね、それは!? 我は君に力を与える光の精霊なのだ! ひれ伏すのだよ!』
どうやらこの妖精にはメタ知識はないらしい。
確かに設定上は、ヒロインのリリアに光の加護を与えた高位なる光の精霊。
けれど、私からしたら困ったときに話しかけたら便利アイテムをくれるお助けシステムだ。
『リリア、わかっているのかね。今日は特別な日、魔術学園の入学式なのだよ。男爵家に養子入りしたとはいえ、君は平民出身。貴族ばかりのこの学園ではいくつもの困難があるだろうが――』
「わかってるって! 私の光魔法で、雑魚どものド肝抜いてやるんだから!」
『口が悪いのだよ!』
そう、今日は特別な日。
平民出身の少女リリア・ベルネットが、光魔法の才能を見出され、名門魔術学園へ入学する日。
そして、攻略対象たちのお披露目シーンの日でもある。
(平民出身のくせに生意気だと、悪役令嬢クラリッサに転ばされてしまった私。そんな私を、レオンハルト、ガウェイン、ユリウス、ジャヴェール……錚々たるメンバーが守ってくれるのよね)
よし、さっそくいじめられに行こう!
私はこれから始まる新しい人生に胸を膨らませ、意気揚々と校門をくぐった。
『ここは王立アウレリア魔術学園。貴族のみが通うことを許される学園、だが――』
「私はこの世でたったひとりの光属性だから入学許可が下りてるのよね。チュートリアルで死ぬほど聞いたから、もういいって」
『何の話なのだよ!?』
チュートリアル妖精、プルプルの話を適当に流しながら、私は正門の前で足を止めた。
ここだ。
ゲーム開始直後、攻略対象ご一行と出会う場所。
私の記憶が正しければ、あと少しで王家の馬車が到着する。
王太子レオンハルト、騎士ガウェイン、宰相見習いユリウス、そして隣国からの留学生ジャヴェール。
彼らが一堂に会す超美麗スチルを見た後、私は悪役令嬢クラリッサにいじめられ。そして助けてもらう。
「緊張してきた……」
ドキドキしながら立っていると、周囲の生徒たちがざわめきだす。
「レオンハルト殿下よ!」
「本当だわ。今日もお美しい……!」
「ご覧になって、あの王家の紋章」
来た来た来た!
校門前に白と金で飾られた立派な馬車が止まる。
扉が開き、まず降りてきたのは、黄金の髪をした青年だった。
王太子レオンハルト。
晴れた空を映したような青い瞳。すっと通った鼻筋。制服を着ているだけなのに、なぜか王冠を被っているみたいな気品がある。
その後ろから、大柄な黒髪の青年が降りてくる。
騎士ガウェイン。
無口で不器用だけど、一度懐に入れた相手には一生を捧げる忠犬系騎士。
続いて、銀髪に眼鏡の青年が、片手に分厚い本を抱えて現れた。
宰相見習いにして天才魔術師、ユリウス。
冷淡で理屈っぽくて、序盤はリリアのことを「興味深い魔力サンプル」としか見ていないくせに、終盤になると「君がいない世界に意味はない」とか言い出す激重枠。
そして最後に、褐色の肌をした青年が軽やかに馬車から降り立った。
砂漠の華、ジャヴェール。
金の装飾が揺れるたびに、周囲の女子生徒たちから小さな悲鳴が上がる。甘い笑み。余裕のある仕草。異国の王族らしい華やかさ。
(完璧すぎる……!)
いま私の目の前に、攻略対象四人が全員揃っている。
ここで、悪役令嬢クラリッサが登場する。そして平民出身の私を馬鹿にして、わざと足を引っかける。
私は転ぶ。
そこへレオンハルトが手を差し伸べる。
『大丈夫か、リリア・ベルネット』
これがレオンハルトルートの初回スチル。即ち超重要イベント。
ここで健気に振舞えば、レオンハルトの好感度が上がる。
ガウェインには「気丈な少女」、ユリウスには「興味深い光魔法の使い手」、ジャヴェールには「退屈しない娘」として認識される。
つまり、逆ハーレムへの第一歩。
(派手に転んでやろ。ちょっと重心ずらしておいて……っと)
『何をしているのだね』
「転ぶ準備」
『何故なのだ!?』
やいやいとうるさいプルプルを無視して、私は準備を整える。
見てなさい、私がヒロインとして華麗にいじめられ、華麗に助けられ、華麗に攻略対象たちの心を掴む瞬間を。
私は可憐な困り顔を作りながら、クラリッサの登場を待った。
(さあ来い悪役令嬢! どかんとすっころばせて見なさい!)

