王城の大広間には、眩いほどの光が満ちていた。
高い天井から吊るされた水晶のシャンデリアが、幾千もの星のようにきらめいている。
白大理石の床には参列者たちの影が揺れ、壁際に並ぶ貴族たちは皆、息を呑んでその光景を見守っていた。
その中心に立つのは、淡い桜色の髪を揺らす一人の少女。
聖女リリア・ベルネット。
平民の出でありながら、神に愛された光魔法の使い手。
幾多の困難を乗り越え、王国を覆っていた闇を祓った、奇跡の乙女である。
彼女の周囲には、この国で最も尊い青年たちが並んでいた。
黄金の髪を持つ王太子レオンハルト。
黒曜石のような瞳をした騎士ガウェイン。
銀の髪を揺らす天才魔術師ユリウス。
異国の宝石のような王子ジャヴェール。
誰もが、リリアを見つめていた。
まるで、彼女こそが世界の中心であるかのように。
「リリア」
最初に口を開いたのは、王太子レオンハルトだった。
彼は一歩前に進み、膝を折る。
大広間にどよめきが走った。
次期国王が、男爵令嬢とはいえ平民出身の少女に跪いたのだ。
「君は、私に王冠の重みではなく、人として生きる勇気を教えてくれた」
レオンハルトは、リリアの手を取った。
「私は王太子として、そして一人の男として、君のそばにいたい」
リリアは驚いたように目を見開き、それから儚げに微笑んだ。
「俺も、言わせてもらう」
低い声が続いた。
騎士ガウェインが、剣を床に置き、同じように膝をつく。
無骨な彼の手は、大きく、傷だらけだった。
けれどリリアを見る眼差しだけは、どこまでも優しい。
「俺はずっと、この手は誰かを傷つけるためにあるのだと思っていた。だが、お前は違うと言ってくれた」
ガウェインは、リリアを真っ直ぐに見つめた。
「この手で、お前を守りたい。生涯をかけて」
「ガウェイン様……」
「感傷的だな」
そう呟いたのは、ユリウスだった。
彼はいつものように冷ややかな表情をしていた。
だが、その耳元はかすかに赤い。
「愛だの運命だの、非論理的な言葉は好まない。だが、リリア。君と出会ってから、私の世界は明らかに変化した」
銀縁の眼鏡の奥で、澄んだ瞳が揺れる。
「君は、私の研究を照らす光だ。……これからも、私のそばでその光を見せてほしい」
「ユリウス様まで……」
「おっと、置いてけぼりは嫌だな」
隣国の王子ジャヴェールが、リリアの前に手を差し出す。
褐色の肌に、夜明けの海を思わせる瞳。
「リリア。君は俺を、異国の王子としてではなく、一人の男として見てくれた」
彼はリリアの手の甲に、そっと口づける。
「俺の国の砂漠にも、君のように美しい花は咲かない。どうか、俺の未来にも咲いてほしい」
「ジャヴェール様……」
王国の至宝たる4人の男たち、そのすべてがたった一人の少女を選んだ。
だが、その幸福な空間に鋭い声が割り込んだ。
「認めませんわ!」
大広間の扉が開かれる。
現れたのは、公爵令嬢クラリッサ・ローゼンヴェルトだった。
華美なバラ色のドレスに、ぴっちりと結い上げられた銀の髪。
その顔は怒りに歪んでいた。
「レオンハルト殿下。あなたは、わたくしの婚約者ですわ。それなのに、そのような平民の娘をお選びになるのですか!」
リリアは怯えたように肩を震わせた。
「クラリッサ様……」
「黙りなさい!」
クラリッサの声が、大広間に響く。
「あなたが現れてから、すべてが狂いましたのよ! 殿下も、ガウェイン様も、ユリウス様も、ジャヴェール様も! 皆、あなたに惑わされて……!」
「惑わされたのではない」
レオンハルトの声は、氷のように冷たかった。
彼は立ち上がり、リリアを庇うように前へ出る。
「私たちは、自らの意思でリリアを選んだ」
「殿下……!」
「クラリッサ。君の行いは、すでに明らかになっている――リリア嬢への嫌がらせ。魔法薬のすり替え。偽の招待状。さらには、彼女を危険区域へ誘導しようとした件」
「違いますわ! それは……!」
「まだ言い逃れをするつもりか」
ガウェインが低く唸る。
その一言だけで、クラリッサはびくりと肩を震わせた。
「リリアは何度もお前を許そうとした。だが、俺はもう許さない」
「僕も同意見だ」
ユリウスが眼鏡を押し上げる。
「彼女に使用された魔法薬の成分を分析した。出所はローゼンヴェルト家の管理倉庫。反論があるなら、論理的に頼む」
「君は美しい薔薇だった」
ジャヴェールは、悲しげに目を伏せた。
「だが、棘で誰かを傷つける花を、俺は愛でることはできない」
すべての視線が、クラリッサに集まる。
かつて王国一の令嬢と称えられた少女は、真っ青な顔で立ち尽くしていた。
「……どうして」
ぽつり、と彼女は呟く。
「今ここで宣言する! クラリッサ・ローゼンヴェルト、君との婚約を破棄する!」
レオンハルトの声が響く。クラリッサが何か言おうとした口を、衛兵が塞ぐ。
ユリウスが冷たい声でつづけた。
「貴方には、国外追放の処分が下される」
「そんな……!」
クラリッサは崩れ落ちた。
だが、誰も彼女に手を差し伸べなかった。
かつて彼女に向けられていた羨望も、敬意も、愛も、すべて今はリリアのものだった。
衛兵たちがクラリッサを連れていく。
彼女は最後に振り返り、震える声で叫んだ。
「リリア・ベルネット……! あなたを、絶対に許しませんわ!」
リリアは悲しげに目を伏せた。
「クラリッサ様……」
扉が閉まる。
長い沈黙のあと、レオンハルトがリリアの手を取った。
「もう、君を傷つける者はいない」
「俺が守る」
「私も力を貸そう。君の光は、研究対象としても興味深い」
「さあ、泣き顔の姫君。今宵は勝利の舞踏会だ。君には笑顔の方が似合う」
楽師たちが、高らかに音楽を奏で始めた。
祝福の鐘が鳴る。
花びらが舞う。
リリアは、四人の青年たちに囲まれながら、光の中で微笑んだ。
これは、彼女が掴み取った奇跡。
いくつもの恋を結び、悪しき令嬢を退け、すべての愛をその手にした少女の物語。
リリア・ベルネットの未来は、まばゆい光に包まれていた――
◇ ◇ ◇
『Congratulations! あなたは、すべての愛を手に入れました』
高い天井から吊るされた水晶のシャンデリアが、幾千もの星のようにきらめいている。
白大理石の床には参列者たちの影が揺れ、壁際に並ぶ貴族たちは皆、息を呑んでその光景を見守っていた。
その中心に立つのは、淡い桜色の髪を揺らす一人の少女。
聖女リリア・ベルネット。
平民の出でありながら、神に愛された光魔法の使い手。
幾多の困難を乗り越え、王国を覆っていた闇を祓った、奇跡の乙女である。
彼女の周囲には、この国で最も尊い青年たちが並んでいた。
黄金の髪を持つ王太子レオンハルト。
黒曜石のような瞳をした騎士ガウェイン。
銀の髪を揺らす天才魔術師ユリウス。
異国の宝石のような王子ジャヴェール。
誰もが、リリアを見つめていた。
まるで、彼女こそが世界の中心であるかのように。
「リリア」
最初に口を開いたのは、王太子レオンハルトだった。
彼は一歩前に進み、膝を折る。
大広間にどよめきが走った。
次期国王が、男爵令嬢とはいえ平民出身の少女に跪いたのだ。
「君は、私に王冠の重みではなく、人として生きる勇気を教えてくれた」
レオンハルトは、リリアの手を取った。
「私は王太子として、そして一人の男として、君のそばにいたい」
リリアは驚いたように目を見開き、それから儚げに微笑んだ。
「俺も、言わせてもらう」
低い声が続いた。
騎士ガウェインが、剣を床に置き、同じように膝をつく。
無骨な彼の手は、大きく、傷だらけだった。
けれどリリアを見る眼差しだけは、どこまでも優しい。
「俺はずっと、この手は誰かを傷つけるためにあるのだと思っていた。だが、お前は違うと言ってくれた」
ガウェインは、リリアを真っ直ぐに見つめた。
「この手で、お前を守りたい。生涯をかけて」
「ガウェイン様……」
「感傷的だな」
そう呟いたのは、ユリウスだった。
彼はいつものように冷ややかな表情をしていた。
だが、その耳元はかすかに赤い。
「愛だの運命だの、非論理的な言葉は好まない。だが、リリア。君と出会ってから、私の世界は明らかに変化した」
銀縁の眼鏡の奥で、澄んだ瞳が揺れる。
「君は、私の研究を照らす光だ。……これからも、私のそばでその光を見せてほしい」
「ユリウス様まで……」
「おっと、置いてけぼりは嫌だな」
隣国の王子ジャヴェールが、リリアの前に手を差し出す。
褐色の肌に、夜明けの海を思わせる瞳。
「リリア。君は俺を、異国の王子としてではなく、一人の男として見てくれた」
彼はリリアの手の甲に、そっと口づける。
「俺の国の砂漠にも、君のように美しい花は咲かない。どうか、俺の未来にも咲いてほしい」
「ジャヴェール様……」
王国の至宝たる4人の男たち、そのすべてがたった一人の少女を選んだ。
だが、その幸福な空間に鋭い声が割り込んだ。
「認めませんわ!」
大広間の扉が開かれる。
現れたのは、公爵令嬢クラリッサ・ローゼンヴェルトだった。
華美なバラ色のドレスに、ぴっちりと結い上げられた銀の髪。
その顔は怒りに歪んでいた。
「レオンハルト殿下。あなたは、わたくしの婚約者ですわ。それなのに、そのような平民の娘をお選びになるのですか!」
リリアは怯えたように肩を震わせた。
「クラリッサ様……」
「黙りなさい!」
クラリッサの声が、大広間に響く。
「あなたが現れてから、すべてが狂いましたのよ! 殿下も、ガウェイン様も、ユリウス様も、ジャヴェール様も! 皆、あなたに惑わされて……!」
「惑わされたのではない」
レオンハルトの声は、氷のように冷たかった。
彼は立ち上がり、リリアを庇うように前へ出る。
「私たちは、自らの意思でリリアを選んだ」
「殿下……!」
「クラリッサ。君の行いは、すでに明らかになっている――リリア嬢への嫌がらせ。魔法薬のすり替え。偽の招待状。さらには、彼女を危険区域へ誘導しようとした件」
「違いますわ! それは……!」
「まだ言い逃れをするつもりか」
ガウェインが低く唸る。
その一言だけで、クラリッサはびくりと肩を震わせた。
「リリアは何度もお前を許そうとした。だが、俺はもう許さない」
「僕も同意見だ」
ユリウスが眼鏡を押し上げる。
「彼女に使用された魔法薬の成分を分析した。出所はローゼンヴェルト家の管理倉庫。反論があるなら、論理的に頼む」
「君は美しい薔薇だった」
ジャヴェールは、悲しげに目を伏せた。
「だが、棘で誰かを傷つける花を、俺は愛でることはできない」
すべての視線が、クラリッサに集まる。
かつて王国一の令嬢と称えられた少女は、真っ青な顔で立ち尽くしていた。
「……どうして」
ぽつり、と彼女は呟く。
「今ここで宣言する! クラリッサ・ローゼンヴェルト、君との婚約を破棄する!」
レオンハルトの声が響く。クラリッサが何か言おうとした口を、衛兵が塞ぐ。
ユリウスが冷たい声でつづけた。
「貴方には、国外追放の処分が下される」
「そんな……!」
クラリッサは崩れ落ちた。
だが、誰も彼女に手を差し伸べなかった。
かつて彼女に向けられていた羨望も、敬意も、愛も、すべて今はリリアのものだった。
衛兵たちがクラリッサを連れていく。
彼女は最後に振り返り、震える声で叫んだ。
「リリア・ベルネット……! あなたを、絶対に許しませんわ!」
リリアは悲しげに目を伏せた。
「クラリッサ様……」
扉が閉まる。
長い沈黙のあと、レオンハルトがリリアの手を取った。
「もう、君を傷つける者はいない」
「俺が守る」
「私も力を貸そう。君の光は、研究対象としても興味深い」
「さあ、泣き顔の姫君。今宵は勝利の舞踏会だ。君には笑顔の方が似合う」
楽師たちが、高らかに音楽を奏で始めた。
祝福の鐘が鳴る。
花びらが舞う。
リリアは、四人の青年たちに囲まれながら、光の中で微笑んだ。
これは、彼女が掴み取った奇跡。
いくつもの恋を結び、悪しき令嬢を退け、すべての愛をその手にした少女の物語。
リリア・ベルネットの未来は、まばゆい光に包まれていた――
◇ ◇ ◇
『Congratulations! あなたは、すべての愛を手に入れました』

