末永くお鈍いもふしてあげます

 ふわっとした何かに、おでこやほっぺを殴られる続ける、純夜と光輝。
「勝手におっぱじめおって! このこの!」
「んだよ、こいつ!」
「失礼な! 我は兎神さまじゃ!」
 兎神さまと名乗ったふわふわは、純夜の手に収まった。
 目を凝らせばそれは。
「あれ、もふこみゅーる!?」
 純夜が大切にしているうさぎのぬいぐるみだった。
「いかにも! 大切にされて想いのパワーで宿ることができたのだぞ。よくやった、純夜」
 じーっと光輝が、純夜の手元に視線を注ぐ。ゴミでも見るかのような不快感と蔑みがありありと現れている。
「純夜のこと気安く呼ぶな。それにこいつ、偉そうでムカつく。握りつぶしていい?」
「だめ。もふこみゅーるに、いじわるしないで!」
「わかった」
「こやつ、純夜に言われると大人しくなるなァ」
 光輝が殴る態勢に入ったため、純夜がもふこみゅーるを抱えこんで隠す。
「むぎょっ、ふむ。悪くないな。ではなくて、いいか、その流星、今度こそ、我々で止めてみせるぞよ!」
「やっぱ、流星、また降ってくんのか!?」
 光輝が純夜の手に飛びつき、手元のもふこみゅーるをガンガン揺らした。
「やめい、バカものがわわわん!」
「弱い者いじめ、みっともないよ、光輝。やめなよ」
「うん」
 すぐに、光輝が叱られた犬のごとく居直った。
「そんで、どう止めるって、どうやんだよ、うさ公」
 「もふ公だ、バカもの!」と兎神さまが光輝に怒鳴ったが、うさぎのぬいぐるみという姿のせいで、ぷりぷりしているようにしか見えない。
「夜光石にありったけの光を集めるのだ」
 「さっき、純夜、夜光石に夕陽を集めたただろう? そのパワーを使って権現してやったのだ」と兎神さまは得意げだ。
「兎神さま、なんで、僕たちを助けてくれるの? 願った者に、〝フコウ〟を与えるんじゃなかったんですか?」
「あや? そんな言い伝え……」
 「あぁ、いつもの早とちり、聞き逃し、聞き間違えか」と兎神さまは一人で言葉を並べ立て、早合点していく。
「兎神さまは願った者に」
「願った者に……?」
 純夜が手元をのぞき込む。もふこみゅーるに乗り移った兎神さまは、きゃぴーんと効果音が鳴りそうな勢いで答えた。
「もふ公を与える! というものだ! もふ公、つまり、我のことだ!」
「ええ!!! なにそれ!?」
「くっだらねぇ、伝承だな、オイ」
 純夜の手元からすっぽ抜けた兎神さまが、トルネードしながら光輝に体当たりを噛ました。
「兎神をトシンと不名誉な読み間違えで呼ぶ童と言い、貴様ら、無礼がすぎる! 神の御前で、不遜すぎるぞ!」
「申し訳ありません、兎神さま。ご無礼お許しください。僕たち、流星の災いをどうにかしたいので、お願いします」
 光輝と取っ組みあっていた兎神さまがぴたりと動きを止め、「純夜はさすが心得ておる」と機嫌良さげに純夜の方へと戻ってくる。
「貴様らにも協力してもらう!」
「はい!」
「ありったけの夜光石に光を集めよ。我が使った夜光石は割れるからな。割れてもいいやつにするんだぞ?」
 そう言えば。純夜はバッグの中身を確認する。先ほどの割れる音は、瓶のなかの夜光石が割れた音だったのだ。
「我の権現にそれを使ったぞよ」
 「その飾りの夜光石、割れたら困るものなのだろう?」とキーホルダーの夜光石の周りを兎神さまが回る。
「ありがとう、兎神さま」
「礼を言われて悪い気はしないのう〜」
 純夜が兎神さまをなでなでしていると、光輝が面白くなさそうな顔でこちらを見ていた。
「で、夜光石使って、俺たちはどうするわけ?」
「貴様、光線を放てる天体病じゃろ? 我が夜光石に集めた光を貴様に充填してやる。それを流星群に当てて、打ち返すのじゃ」
「……え?」
 そんなこと、できるのか、信じられないといった顔で、光輝はあんぐりと口を開けている。
「貴様の父親に、ナントカカントカ言って、流星の大体の軌道を教えてもらえ。あとはタイミングは我が読む。それと」
 純夜の手から離れ、兎神さまは彼の周りを回った。
「純夜にも協力してもらうぞ」
「はぁ? 俺ともふ公だけでいいじゃん。純夜、どこに必要なんだよ」
「貴様が純夜に天体病をうつして、片割れにしたんじゃろうが。それに反動の受け皿がおらんと、貴様、高火力の光を放ったあと、死ぬぞ」
「それじゃあ、純夜が危ないだろ!」
「貴様、なりふり構ってる場合ではないこと、分かっていないようだな? 貴様の言うとおり、このままだと、純夜は来たる十一月の下旬に起こる、流星の災いに当たって死ぬぞ!」
「なん、……!っ」
 光輝が息を呑んだ。純夜も驚きで目を見開く。
「貴様、無事、生まれ落ちてよかったな。天体病の子はほぼ生まれてこれんぞ。誇れ、貴様のその力で、町に降りそそぐ流星を打ち返せるぞ?」
 「でも、純夜も危険な目に……」と光輝は口ごもる。
 話が壮大すぎて、本当に実現できるのか、皆目見当も付かないけれど。
「やってみようよ。僕、どうせなら、役に立ってから終わりたい」
「純夜、お前、分かってんのか! 俺の光を間近で食らうってことは、ぜってぇ、天体病がヒドくなるんだぞ!?」
「でも、えへへ。なんだか僕たち、呪いを分けあったなんて、おまじないみたいでステキだなって」
 場が静かになった。「きゅん」と言った声がする。
「純夜があまりにもピュアで恐れ入った」
「なんか、俺、ときめいた、かも」
 「えー、なんか、おかしなこと言ったかな、僕」と純夜がおろおろとしている。
「純夜の覚悟も思いも分かったよ。で、問題はありったけの夜光石をどうするかだな」
「簡単じゃよ。作戦としてはこうじゃ。光にさらした夜光石を兎神さまにお供えすると、願いが叶うとうわさを流しまくるのじゃ!」
 「あと三か月もあるならどうにかなる、いや、どうにかするのじゃ!」と兎神さまがくるりと回る。
「……花火、終わっちゃったかな」
「だな」
 花火どころの騒ぎではないのに、せっかくの高校生活、最後の夏祭りの思い出が……、と二人は肩を落とす。
「ふふん、腕試しに我の力を見せてやってもよいぞ」
 「小さいが、花火みたいなものを見せてやる。どうじゃ?」と兎神さまが、純夜の前に躍り出る。
「兎神さま、見たいです! お願いします!」
「おい、その光、見て大丈夫なやつなのか?」
「我の光は幻じゃからな! 副作用なしの代わりに、人間を通さねば使い物にならん!」
 兎神さまは己の欠点を堂々と胸を張るようにして言い放った。
 僕も自分の不器用なところ、ちょっとは誇れたらなと、純夜は思う。
「分かった。これから協力し合う仲だ。その力、見せてもらおうじゃねえか」
 「こやつ、いちいち癪に触る言い方しかできんのかのう」と兎神さまは苦言を呈しながらも、「ほいっ」と空中で一回転して、純夜の手に着地して見せた。