末永くお鈍いもふしてあげます

 水色の透明なラムネボトルを持って。
「準備はいいか?」
「う、うん……っ!」
 純夜は光輝の指導の下、ラムネをふきこぼさずに口に入れるチャレンジに再び、挑む。
「なんか不安そうだな」
「あ、ちょっと待って」
 純夜はバッグから、カラフルな粒が入った小瓶を取り出す。兄からもらったお守りだ。
 フタを開けて一粒、手のひらに出して、口に放りこむ。
「よし! 光輝も要る?」
「それ、甘いんだろ? 俺はいーや」
 もしや光輝はこれの正体を知っているのかと純夜は問いただしたくなったがやめた。
 今はこのおまじないの力もすべてを借りて、絶対に成功させてみせる!
「気を取り直して、行くぞ」
「はい!」
「フタに両手の親指を重ねて当てて、強く一気に押しこむ!」
「はい!」
 カシュリと炭酸が抜けた、軽快な音が鳴る。
「口付ける!」
 すぐにしゅわしゅわと上がってくる液体を口に……入れた!
「ん〜! んふ〜!!」
 ボトルに口を付けながら、純夜がはしゃぐ。
「おー! 成功じゃんか。よかったな!」
 成功したラムネがとってもおいしい!
 二本目も難なく開けられた光輝のそばで、初めての成功を味わい、純夜は無事やり遂げた現実を噛みしめながら、飲み干した。
「それ、ビー玉」
「うん。ビー玉?」
「取れるって知ってた?」
「へ!?」
 ボトルを振って、カラカラとビー玉を鳴らして遊んでいた純夜は、仰天して前のめりになり、転びかける。「ホント、気をつけろよ」と光輝に支えられ、釘を刺された。
「これ、フタ、回して、取れんの」
 「ほら」と彼はパカッと開けて、いとも簡単に、中のビー玉を取ってみせる。
「うわぁ〜なんか、ロマン、壊れた」
「ンだよ、元はバラバラのパーツなんだから、取れねえわけねーだろ」
 それはそうなのだが。ラムネのビー玉はどうやっても取れない、その方が、ラムネっぽくて風情があるというか、ビー玉が取れると知ってしまったら、あの無邪気な頃にはもう戻れないような。
「ごめん、なんか、光輝にロマンを求めたのが悪かったよ」
「ロマンってやつ、わっかんねえな……」
 もしかして。光輝はもう夏祭りに飽きてしまっているのではないか。
 急に純夜の頭に雷が落ちる。
 もう僕たち、高校三年生だもの。夏祭りって子どもが楽しむところ、あるからなあ。もうすぐ大人の仲間入りをする僕らが、はしゃぐものではなくなるんじゃないか。
 純夜は代依からもらった魔法の粒をまた一つ、口に放りこんだ。
「なんでまた、あっめぇの、食ってんだよ」
「着色料のお口直し」
「それもちゃ……なんでもない。ごめんって」
「わぁ」
 純夜が光輝の腰元を指して、急に歓声を上げた。
「光ってる!」
「そりゃ、夜光石なんだから、そう、あ」
 言いかけて、光輝の言葉の勢いが失われた。
「なんかその、俺、色々と純粋さが欠けているっていうか……」
 ほんのりと発光するキーホルダーを指でいじりながら、光輝がぼそぼそとつぶやく。
「賢くなるとさ、今まで見えてたものが途端に、安っぽく見えてきて、感動しなくなるんだよなあ」
 さらっと自分を賢いと言い切ったことは置いておいて、純夜は自分が無知で幼すぎるから、なんにでも感動して、よろこべるのだと感じ取った。
「でも、俺。花火はたぶん、大人になっても好きだと思う!」
 光輝は自信満々に言い放った。
 河原が人で騒がしくなりはじめる。花火の場所取りだろう。
「土手の上、行かね?」
「上からのが見やすいもんね!」
 祭りの会場を離れ、二人は土手を登っていく。土手沿いの、手頃なベンチはまだ空いていて、穴場だった。
「こういうところ、狙い目なんだよな」
「河原の方が人、多いからねー」
 ベンチで二人が腰を落ち着けていると、花火の着火台あたりが騒がしくなる。揉め事が起こっているようだった。
「花火ジジイだ」
 光輝がつぶやく。
「なんて?」
「花火にうるさい爺さん。手伝いに来てたときは機嫌良かったんだけどなあ。たぶん、ビールで酔って気がデカくなったんじゃねえの」
 「ちょっと俺、話つけに行ってくっからここで待ってて」と光輝は立ち上がり、土手を軽快に下りていってしまう。
 「トイレ以外、迷子になるから、そこ、離れんなよ」と光輝は一度だけふり返った。
 一人になって、夏の夜風に当たり、いくらか平静さを取り戻した純夜は、あれ、となった。
 僕たち、クラスメイトでお祭りに来たんだよな? みんなは??
 いつの間にか彼らのことを忘れ、光輝と二人きりで花火を見る流れになっている!
 これは一大事だ。今からでも誰か捕まえられないか。うーん、でも、絶対、迷子になる。
 光輝と二人きりで夏祭りの花火を楽しむ、が成立しなければいいのだから……。
「花火ジジイさん、頑張って」
 頼む、そのまま酔っぱらって粘り勝ちしてくれ! と祈る純夜を突然、誰かが呼んだ。
 声にふり向けば、そこには。
 闇夜に浮かぶ、メガネがあった。