服がクローゼットから、ポイポイと放り出されていく。
涼しいけど甚平に下駄は慣れてないからケガしそうだし、だからと言って、長袖長ズボンは、暑くないか?
動きやすくて、ケガをしにくい服装で、ちょっとオシャレな感じで……。
夏祭りに着ていく服に、あーでもない、こーでもないとしているうちに、窓の外では日が赤く燃えはじめた。
もうそろそろ、集合場所に行かなきゃ!
純夜は慌てて、キャメル色の綿麻の長ズボンと、袖がシースルーの、ドレープシャツを引っつかんだ。
ブレスレットやアクセサリーも付けたかったけど、引っかけて人ごみで壊しちゃいそうだし、おっちょこちょいをしそうな要因はできるだけ排除しておきたかった。
お財布、お守りキーホルダー、蓄光石を入れた小瓶、魔法の粒が入った小瓶などをバッグに詰め、斜めにかけた。
姿見の前でくるりと回って、変なところがないか、念入りに確かめる。
「うーん。もふこみゅーる、どうかなあ?」
ベッドの上に寝かせてある、うさぎのぬいぐるみにも聞いてみる。
もふこみゅーるは、つぶらな瞳で主を見返すだけだ。
「えへへ。もふこみゅーる、かわいいね。今日は楽しんでくるからね」
「帰ったら、おみやげ話、いーっぱい聞いてね」と、純夜はもふこみゅーるのふわふわな感触とかわいさに癒やされ、懸念を吹き飛ばした。
兄に見送られ、純夜は畦道を大手を振って早歩きで歩いていた。
外に出れば渦巻いていた不安はすっかり消え、楽しみな気持ちが膨れ上がり、どんどん歩みを進ませる。
「いかん、いかん」
純夜は歩速を緩めた。
歩き慣れたスニーカーを履いてきたとはいえ、いつもより急ぎすぎて、ここで足を痛めたらもってのほかだ。
己のミスにすぐ気づいて軌道修正できるようになった感動を味わいながら、純夜は校門の前に無事、たどり着いた。
「あ、すみやん、来た!」
「なんで、きらぴかると一緒じゃないの?」
手から光線を出せる逸話持ちの幼なじみ、光輝は同級生たちからいまだに、あだ名でからかわれている。
「まーた。そんなこと言ってると、雷落ちるよ?」
「きらめきんと一緒じゃないとかそっちの方が雷ドンピシャ案件」
純夜は目を丸くする。
今日は校門で待ち合わせなのだから、学校に行くまでに、特に待ち合わせをする必要もない。
「校門で待ち合わせなのに?」
「だーめだ、こりや。すみやん、相当ニブチンだよ」
「すみやん、どうせ、遅れるから大丈夫だよ」
「おめぇーら、また寄ってたかって、純夜をイジってんのか!」
大きな通る声が道の向こうから飛んできた。光輝、雷のお出ましである。
「取られたくなったから、ずっと離すなよ〜」
「一発殴らせろ?」
「ぎゃあ! 鬼、はええ!」と同級生が光輝から逃げ回っている。
「あいつらの、アホ追走劇、少し、鑑賞していくか」
「まあ、あれも祭りのうちだし」
クラスメイトたちは持参したうちわや扇子を仰いでいる。
しまった! すっかり頭から抜け落ちていて、涼を取るアイテムを持ってくるのを忘れてしまった!
せっかくの夏祭りなのに。
純夜がシュンとして肩を落としていると、光輝が「純夜、どうした?」と駆け寄ってきた。
「具合悪いのか?」
「扇子とかうちわとか、持ってくればよかったなって」
「いや、どうせ、熱風をあおいでるだけになるから、ない方がいいと思うぞ?」
「そ、そうか……な?」
光輝に妙な励まし方をされ、純夜は完全には納得がいかなかったが、「うん、そう、そうだね」と無理やり自分を丸めこんだ。
「やーい、光線マン」
「ったく、まだ懲りねぇのか」
光輝が翻ったとき、カラカラと涼しい音が鳴って、彼のバッグが小さくきらめいた。
「あげたお守り!」
純夜が小さく叫んだ。光輝はふり向く。
「おう、付けてきた」
光輝がニカッと笑う。純夜は胸がキュッとなって、照れ笑いを返した。
「けぇー、甘ずっぺぇ、ずっぺぇ!」とクラスメイトたちが騒いでいる。
「てか、きらめきん、なんで部活の朝練みたいな格好してんの?」
「光輝のいつもの服装だから気づかなかった!」
純夜は光輝の格好をマジマジと見つめ、びっくりして口を覆った。
「しょーがねぇじゃん」
光輝が口を尖らせた。
「父さん、祭りの日、一日まちがえて、洗っちまったんだよ、俺の着てく服を」
大爆笑が起こった。クラスメイトたちのゲラゲラ笑いが止まらない。ある者は地面を転げて回り、またある者は腹がよじれすぎて、脇腹が痙って痛いと泣いていた。
「まだお父さんに洗ってもらってんのかよ」
「ちっげぇーし! 祭りの準備で忙しくて、俺がいつもは? やってますけど? たまにはってやってくれただけですけどぉ?」
純夜はその渦中で申し訳なくなり、身を縮めている。
僕のせいで、光輝に不幸が降りかかったのかもしれないなぁ……。
「なんか、ごめん、光輝」
「やめろよ、俺がもっと惨めになる」
光輝も無念で悔しそうだった。
「だぁ! 行くぞ、もう!」
彼が声を荒げ、ふいっと顔を背けた。
笑い転げて止まらない奴らは置いていき、一同は祭りに出発した。
「夕陽、キレイ……」
土手沿いの道を歩きながら、純夜はまぶしい夕陽を眺める。
燃えるような夕陽が、空をオレンジ色に焼き染めながら、川面にキラキラと光を反射させている。
パワーのある光景に圧倒されながら、純夜はバッグから蓄光石の入った小瓶を取り出す。
まばゆい夕陽に蓄光石を当て、光を集めるようにしてみせる。
「何やってんだ?」
隣の光輝が不思議そうに見てくる。
「キレイだから、ちょっとおすそ分けしようかなって」
「あぁ、兄貴にか」と光輝が一人で早合点しているので、純夜はそういうことにしておいた。
これは兎神さまのあげるためになんて言えば、兎神さまにお願いをしてしまったことがバレるにちがいなかったから。
ごめん、よい兄、光輝、と純夜は本音を胸に秘めた。
涼しいけど甚平に下駄は慣れてないからケガしそうだし、だからと言って、長袖長ズボンは、暑くないか?
動きやすくて、ケガをしにくい服装で、ちょっとオシャレな感じで……。
夏祭りに着ていく服に、あーでもない、こーでもないとしているうちに、窓の外では日が赤く燃えはじめた。
もうそろそろ、集合場所に行かなきゃ!
純夜は慌てて、キャメル色の綿麻の長ズボンと、袖がシースルーの、ドレープシャツを引っつかんだ。
ブレスレットやアクセサリーも付けたかったけど、引っかけて人ごみで壊しちゃいそうだし、おっちょこちょいをしそうな要因はできるだけ排除しておきたかった。
お財布、お守りキーホルダー、蓄光石を入れた小瓶、魔法の粒が入った小瓶などをバッグに詰め、斜めにかけた。
姿見の前でくるりと回って、変なところがないか、念入りに確かめる。
「うーん。もふこみゅーる、どうかなあ?」
ベッドの上に寝かせてある、うさぎのぬいぐるみにも聞いてみる。
もふこみゅーるは、つぶらな瞳で主を見返すだけだ。
「えへへ。もふこみゅーる、かわいいね。今日は楽しんでくるからね」
「帰ったら、おみやげ話、いーっぱい聞いてね」と、純夜はもふこみゅーるのふわふわな感触とかわいさに癒やされ、懸念を吹き飛ばした。
兄に見送られ、純夜は畦道を大手を振って早歩きで歩いていた。
外に出れば渦巻いていた不安はすっかり消え、楽しみな気持ちが膨れ上がり、どんどん歩みを進ませる。
「いかん、いかん」
純夜は歩速を緩めた。
歩き慣れたスニーカーを履いてきたとはいえ、いつもより急ぎすぎて、ここで足を痛めたらもってのほかだ。
己のミスにすぐ気づいて軌道修正できるようになった感動を味わいながら、純夜は校門の前に無事、たどり着いた。
「あ、すみやん、来た!」
「なんで、きらぴかると一緒じゃないの?」
手から光線を出せる逸話持ちの幼なじみ、光輝は同級生たちからいまだに、あだ名でからかわれている。
「まーた。そんなこと言ってると、雷落ちるよ?」
「きらめきんと一緒じゃないとかそっちの方が雷ドンピシャ案件」
純夜は目を丸くする。
今日は校門で待ち合わせなのだから、学校に行くまでに、特に待ち合わせをする必要もない。
「校門で待ち合わせなのに?」
「だーめだ、こりや。すみやん、相当ニブチンだよ」
「すみやん、どうせ、遅れるから大丈夫だよ」
「おめぇーら、また寄ってたかって、純夜をイジってんのか!」
大きな通る声が道の向こうから飛んできた。光輝、雷のお出ましである。
「取られたくなったから、ずっと離すなよ〜」
「一発殴らせろ?」
「ぎゃあ! 鬼、はええ!」と同級生が光輝から逃げ回っている。
「あいつらの、アホ追走劇、少し、鑑賞していくか」
「まあ、あれも祭りのうちだし」
クラスメイトたちは持参したうちわや扇子を仰いでいる。
しまった! すっかり頭から抜け落ちていて、涼を取るアイテムを持ってくるのを忘れてしまった!
せっかくの夏祭りなのに。
純夜がシュンとして肩を落としていると、光輝が「純夜、どうした?」と駆け寄ってきた。
「具合悪いのか?」
「扇子とかうちわとか、持ってくればよかったなって」
「いや、どうせ、熱風をあおいでるだけになるから、ない方がいいと思うぞ?」
「そ、そうか……な?」
光輝に妙な励まし方をされ、純夜は完全には納得がいかなかったが、「うん、そう、そうだね」と無理やり自分を丸めこんだ。
「やーい、光線マン」
「ったく、まだ懲りねぇのか」
光輝が翻ったとき、カラカラと涼しい音が鳴って、彼のバッグが小さくきらめいた。
「あげたお守り!」
純夜が小さく叫んだ。光輝はふり向く。
「おう、付けてきた」
光輝がニカッと笑う。純夜は胸がキュッとなって、照れ笑いを返した。
「けぇー、甘ずっぺぇ、ずっぺぇ!」とクラスメイトたちが騒いでいる。
「てか、きらめきん、なんで部活の朝練みたいな格好してんの?」
「光輝のいつもの服装だから気づかなかった!」
純夜は光輝の格好をマジマジと見つめ、びっくりして口を覆った。
「しょーがねぇじゃん」
光輝が口を尖らせた。
「父さん、祭りの日、一日まちがえて、洗っちまったんだよ、俺の着てく服を」
大爆笑が起こった。クラスメイトたちのゲラゲラ笑いが止まらない。ある者は地面を転げて回り、またある者は腹がよじれすぎて、脇腹が痙って痛いと泣いていた。
「まだお父さんに洗ってもらってんのかよ」
「ちっげぇーし! 祭りの準備で忙しくて、俺がいつもは? やってますけど? たまにはってやってくれただけですけどぉ?」
純夜はその渦中で申し訳なくなり、身を縮めている。
僕のせいで、光輝に不幸が降りかかったのかもしれないなぁ……。
「なんか、ごめん、光輝」
「やめろよ、俺がもっと惨めになる」
光輝も無念で悔しそうだった。
「だぁ! 行くぞ、もう!」
彼が声を荒げ、ふいっと顔を背けた。
笑い転げて止まらない奴らは置いていき、一同は祭りに出発した。
「夕陽、キレイ……」
土手沿いの道を歩きながら、純夜はまぶしい夕陽を眺める。
燃えるような夕陽が、空をオレンジ色に焼き染めながら、川面にキラキラと光を反射させている。
パワーのある光景に圧倒されながら、純夜はバッグから蓄光石の入った小瓶を取り出す。
まばゆい夕陽に蓄光石を当て、光を集めるようにしてみせる。
「何やってんだ?」
隣の光輝が不思議そうに見てくる。
「キレイだから、ちょっとおすそ分けしようかなって」
「あぁ、兄貴にか」と光輝が一人で早合点しているので、純夜はそういうことにしておいた。
これは兎神さまのあげるためになんて言えば、兎神さまにお願いをしてしまったことがバレるにちがいなかったから。
ごめん、よい兄、光輝、と純夜は本音を胸に秘めた。
