末永くお鈍いもふしてあげます

 夏休みの終わりが近づく。代依のぬいぐるみ制作を手伝うかたわら、文化祭の衣装制作にも力を注いでいた純夜は、「できました!」とクラスのみんなの前で、できあがった衣装を広げていた。
 クラスメイトたちは歓声を上げ、「このクオリティ、やべえぞ」「すごすぎる」「着るの、楽しみすぎる」と口々に感想を言った。
「すげぇーだろ」
 光輝が得意げに鼻を擦った。彼は純夜の衣装制作を見張って、いや、見守っていたからだ。
「なんで光輝が得意げなんだよ」
「完成まで見届けたからな」
 そう、完成までめちゃめちゃ付きっきりで世話を焼かれた。家事は全部、光輝が引き受け、よい兄も定期的な光輝アラートにより、作業しすぎを防止させられていた。
「夏祭り、どーするよ」
「高校最後に、みんなで思い出、作っとく?」
 文化祭の準備がつつがなく進んだため、クラスメイトたちは夏祭りの話をはじめる。
「すみやんたちは二人で行くっしょ?」
「え? いや、僕、今回は」
「すみやん、今回、用事あんの!?」
 「うえー、残念だな、きらめきん」「どんまい」と光輝が肩を叩かれている。
「ううん。みんなと行く!」
 そうだ、僕が兎神さまに願ったのは、光輝と二人での夏祭りの成功だ。
 よい兄が倒れたのは、作業のやりすぎが原因だったし、物が落ちまくったのは僕の管理がいけないからだし、電化製品を壊すのは昔っからで。
 夏祭り、みんなといて、光輝と二人きりにならなければ、不幸は起きないはず、だ。
 現に、光輝と二人で何日も過ごしたのに、不幸なことは起こっていない。夏祭りじゃないからだ。
 きっと、不幸になる条件を満たなければ、この災厄は発動しないんだ! それなら。
「みんなと、高校最後の夏祭りの思い出、作りたい!」
 純夜のはっきりとした主張に、クラスメイトたちは驚き、少しの動揺を見せながらも、「そうだな。文化祭以外、もう思い出、作れねーもんな!」とこぶしを突き上げ、彼らは騒ぎだす。
 騒ぐクラスメイトたちから離れて、光輝がこっちこっちと手招く。純夜はなんだろうと思いながらも、彼にならって教室を出た。
「純夜も変わったな」
「え、どこが?」
 廊下に純夜の声がこだまする。「声、でけえな、響くだろ」と光輝に肩を小突かれる。
「みんなに置いていかれるからって、積極的にみんなで行こうって言ったことなかったじゃんか」
 そうだった。確かに、ハブられていたわけではないが、負い目を感じ、自分からは積極的に輪に加わろうとしてこなかったし、誘われたら行くぐらいの、主体性のないスタンスだった。
 こうやって変われたのは、いつも、安心していられる居場所がある、とようやく身に染みて気づいたからだ。
「光輝のおかげ、かな」
 「今日からはもう大丈夫だから」と純夜はニィと笑いかけ、人差し指を口に当てて、ウィンクを飛ばした。
「ペアのキーホルダー、当日のお楽しみでね!」
 「お、おう」と光輝が少し困惑した表情を浮かべた。
「もしかして、忘れてた?」
「いや、楽しみにしてる……」
 光輝が片手で顔を覆う。純夜は「どうかした?」とうかがい、隠された顔をのぞこうとした。
「……今、見られたくない」
「いきなり、なんだよ。どういうこと?」
 「いや、その、あの」と光輝はしどろもどろだ。
「純夜って、ウィンクするんだって」
「それが?」
「なんか衝撃的でどんな顔したらいいか分かんない」
 「なにそれ、どういうことだよ!」と光輝の腕をつかんで揺らし、その手を顔から引き剥がそうと純夜は試みる。
 刹那、ほおに風が走った。窓に残像が映る。純夜は驚いてふり向く。
「今、メガネ、映ってなかった?」
 「あいつ、また……!」と光輝が小さくうなる声がした。
「ちょっと純夜は教室でみんなと待ってろ」
 「待って」と行こうとする光輝の腕をつかみ、純夜は引き止める。
「なんかよく分かんないけど」
 胸騒ぎがする。だから。
「行かないでほしい」
 口に出してみて、恥ずかしくて顔から火を噴きそうだ。
 もっともらしい理由を頭のなかでめぐらせて、「だって」と純夜は口を曲げる。
「光輝、お化け、怖いんでしょ?」
 そう、あれは。
「あれ、お化けだよ。やめといた方がいい」
 「まあ、光輝ほど怖がりじゃないから、少しぐらいは守れると思うけど」と純夜は、自分で何を言っているのか、訳が分からなくなりながら、必死に光輝を引き止めた。
「わーった。行かねえよ」
 「俺だってそんな超怖いわけじゃねえから。脅かしてきたら戦えるし」と光輝がこぶしを握りしめて見せた。
 純夜は、彼が震えていないかどうか、確かめるために、そのこぶしを上から握りこむ。
「なにしてんの、お前ら」
 クラスメイトが教室から顔を出す。件の二人は手を握り合っていた。
「将来を誓い合ってただけだ」
「なんか、ごめん……」
 クラスメイトは申し訳なさそうに、顔を引っ込めた。