翌朝、玄関の物音で純夜は目覚めた。飛び起きた勢いそのままに、床で寝ていた光輝を踏んづけてしまう。
「ふが、イデッ」
「ごめん、光輝、急ぐから」
うなっている光輝をよそに、純夜はドアを開け放ち、階段を駆け下りていく。
リビングで待ち望んだその姿を目に留め、彼は抱きついた。
「よい兄……」
「ただいま、すみくん」
久しぶりの兄からは、消毒の匂いがしている。鼻がツンとするのは、そのせいだけじゃない。
「よかった……」
「うん」
二人はしばらく玄関先でお互いを確かめ合うように、抱き合っていた。
「病院が朝イチで帰すとか珍しーですね」
「あ、煌くん、うちに居て良かった」
「お父さん、またいつものところかってぼやいてたよ?」と代依が笑う振動が伝う。
「退院してすぐ歩いて帰るのは不安だろうからって、煌くんの家にお世話になってて」
「荷物を持ってくるっていう疾風神速さんを待って、ご厚意で乗せてもらってきたんだ。えへへ」と代依がほほえむ。
「疾風神、万能過ぎじゃね?」と言いながら、光輝が台所の床を踏む音がする。
「あ、僕、作るよ」「病み上がりは止めといてもらえますか?」「うぅ」と代依が痛い衝撃を受けていた。
「クリームチーズ、買ってあるよ! よい兄の好きなやつ!」
ニカッと笑いながら代依から離れ、純夜は戸棚からホットプレートを出した。
「ワッフル、焼けるよ!」
「わぁ」
代依が感嘆の声を上げた。
「チョコクリームも買っておいたし、それに光輝ね」
純夜が目を輝かせる。
「ケーキ作れるんだって!」
生地を混ぜながら、純夜が興奮気味に語る。
「おう、今日は退院パーティーにしようぜ」
「まあ、ケーキは焼き上がるの、夕方ごろになるかもだけどな」と光輝は得意げだ。
代依は前髪を選り分け、涙を拭った。
「二人ともありがとうね」
「お兄さんの顔、初めて見た」と光輝が驚いて手を止め、「あ! 料理してるのによそ見しないで!」と純夜がたしなめる。
「ふふ。すっかり、なかよし」
「どこがですか」「ところどころバカにしてくるんだよね、光輝」「してねーし!」「ふーん。光輝、自覚ないんだ、最悪じゃん!」と二人が口々に言えば、代依は声を上げて笑った。
「いつもいつも仲良しだから、心配してたんだ」
「純夜とケンカする理由もないんですけどぉ」
「ケンカというか、うーん、色々あって光輝と離れていたいと言うか……」
「はあ? なんでだよ」「こっちにだって事情があるんだよ!」「んだよ、事情って」「秘密ばっかの光輝には言わないっ!」と朝から二人は元気に言い合っていた。
パンパンっと代依が手を叩く。
「はーい、おしまい。焦げちゃうから。朝ご飯にしよう」
食器を棚から取って並べようとする代依に代わり、「よい兄は座ってて」と純夜が慎重にテーブルに運ぶ。
テーブルに食器が並ぶ。ホットプレートのフタを開けようとした純夜の手が叩かれる。
「純夜、ぜってぇー、火傷するから俺がやる」
「はいはい、お願いします」
フタを開ければ、こんがり焼き上がったワッフルが顔を見せる。
「いい焼き色」
代依が「うーん」と匂いを嗅いで、表情をほころばせる。
テーブルの真ん中には、一つ、二つ、三つと次々に焼き上がったホットケーキが積み上げられていった。
「わぁ、すごい、おいしそう」
純夜がヨダレを垂らしそうになりながら、ホットケーキの山に目を輝かせていた。
ホイップクリーム、チョコレートクリーム、はちみつ、クリームチーズ、バター。トッピングを揃えて、三人は手を合わせた。
「いただき……」
「あ、よい兄の退院を祝して」をと純夜がコップを掲げ、音頭を取った。
「かんぱーい」
カツンと音が響き合う。朝からジュース、牛乳、水で祝杯を挙げ、三人は各々の好みのトッピングをかけて、パンケーキとワッフルにかぶりついた。
「朝からしあわせ〜」
「うーん。おいしい」
純夜と代依は二人して、おいしいとうなった。
「やべえ。何枚でもいけそう」
光輝ははちみつをかけたパンケーキをペロリと平らげていた。
三人は朝からおやつのような甘さたっぷりの朝食を楽しみ、お茶を淹れてひと息ついた。
「二人でよく頑張ったね」
代依が二人を見て、しみじみと言った。
「う、うん!」
よい兄がいないからって、くじけなかった。いつもみたくふるまって、がんばった。
「うへへ」と光輝はとなりで照れている。
一人だったら。心が折れていたかもしれなかった。
「ありがとう、光輝」
「お、おう?」
光輝は面食らったように目を丸くし、気恥ずかしそうにして、お茶をすすり、盛大にむせた。
「ふが、イデッ」
「ごめん、光輝、急ぐから」
うなっている光輝をよそに、純夜はドアを開け放ち、階段を駆け下りていく。
リビングで待ち望んだその姿を目に留め、彼は抱きついた。
「よい兄……」
「ただいま、すみくん」
久しぶりの兄からは、消毒の匂いがしている。鼻がツンとするのは、そのせいだけじゃない。
「よかった……」
「うん」
二人はしばらく玄関先でお互いを確かめ合うように、抱き合っていた。
「病院が朝イチで帰すとか珍しーですね」
「あ、煌くん、うちに居て良かった」
「お父さん、またいつものところかってぼやいてたよ?」と代依が笑う振動が伝う。
「退院してすぐ歩いて帰るのは不安だろうからって、煌くんの家にお世話になってて」
「荷物を持ってくるっていう疾風神速さんを待って、ご厚意で乗せてもらってきたんだ。えへへ」と代依がほほえむ。
「疾風神、万能過ぎじゃね?」と言いながら、光輝が台所の床を踏む音がする。
「あ、僕、作るよ」「病み上がりは止めといてもらえますか?」「うぅ」と代依が痛い衝撃を受けていた。
「クリームチーズ、買ってあるよ! よい兄の好きなやつ!」
ニカッと笑いながら代依から離れ、純夜は戸棚からホットプレートを出した。
「ワッフル、焼けるよ!」
「わぁ」
代依が感嘆の声を上げた。
「チョコクリームも買っておいたし、それに光輝ね」
純夜が目を輝かせる。
「ケーキ作れるんだって!」
生地を混ぜながら、純夜が興奮気味に語る。
「おう、今日は退院パーティーにしようぜ」
「まあ、ケーキは焼き上がるの、夕方ごろになるかもだけどな」と光輝は得意げだ。
代依は前髪を選り分け、涙を拭った。
「二人ともありがとうね」
「お兄さんの顔、初めて見た」と光輝が驚いて手を止め、「あ! 料理してるのによそ見しないで!」と純夜がたしなめる。
「ふふ。すっかり、なかよし」
「どこがですか」「ところどころバカにしてくるんだよね、光輝」「してねーし!」「ふーん。光輝、自覚ないんだ、最悪じゃん!」と二人が口々に言えば、代依は声を上げて笑った。
「いつもいつも仲良しだから、心配してたんだ」
「純夜とケンカする理由もないんですけどぉ」
「ケンカというか、うーん、色々あって光輝と離れていたいと言うか……」
「はあ? なんでだよ」「こっちにだって事情があるんだよ!」「んだよ、事情って」「秘密ばっかの光輝には言わないっ!」と朝から二人は元気に言い合っていた。
パンパンっと代依が手を叩く。
「はーい、おしまい。焦げちゃうから。朝ご飯にしよう」
食器を棚から取って並べようとする代依に代わり、「よい兄は座ってて」と純夜が慎重にテーブルに運ぶ。
テーブルに食器が並ぶ。ホットプレートのフタを開けようとした純夜の手が叩かれる。
「純夜、ぜってぇー、火傷するから俺がやる」
「はいはい、お願いします」
フタを開ければ、こんがり焼き上がったワッフルが顔を見せる。
「いい焼き色」
代依が「うーん」と匂いを嗅いで、表情をほころばせる。
テーブルの真ん中には、一つ、二つ、三つと次々に焼き上がったホットケーキが積み上げられていった。
「わぁ、すごい、おいしそう」
純夜がヨダレを垂らしそうになりながら、ホットケーキの山に目を輝かせていた。
ホイップクリーム、チョコレートクリーム、はちみつ、クリームチーズ、バター。トッピングを揃えて、三人は手を合わせた。
「いただき……」
「あ、よい兄の退院を祝して」をと純夜がコップを掲げ、音頭を取った。
「かんぱーい」
カツンと音が響き合う。朝からジュース、牛乳、水で祝杯を挙げ、三人は各々の好みのトッピングをかけて、パンケーキとワッフルにかぶりついた。
「朝からしあわせ〜」
「うーん。おいしい」
純夜と代依は二人して、おいしいとうなった。
「やべえ。何枚でもいけそう」
光輝ははちみつをかけたパンケーキをペロリと平らげていた。
三人は朝からおやつのような甘さたっぷりの朝食を楽しみ、お茶を淹れてひと息ついた。
「二人でよく頑張ったね」
代依が二人を見て、しみじみと言った。
「う、うん!」
よい兄がいないからって、くじけなかった。いつもみたくふるまって、がんばった。
「うへへ」と光輝はとなりで照れている。
一人だったら。心が折れていたかもしれなかった。
「ありがとう、光輝」
「お、おう?」
光輝は面食らったように目を丸くし、気恥ずかしそうにして、お茶をすすり、盛大にむせた。
