末永くお鈍いもふしてあげます

 そうだ、試行錯夢(シミュレーション)だ!
 純夜は唐突に、いつも見る夢を予行演習に使うことに決める。
 今朝の夢はひと味ちがった。突如襲ってきた恐怖に、純夜は立ち向かおうとした。
 これならば、二人だけの花火夏祭りイチャイチャコースを叶えられるのではないか。
 朝食も気もそぞろで、兄に心配されながら、うわの空で純夜は家を出る。
 早すぎる初夏の日差しが、起きかけの目を焼く。純夜は目を瞬かせ、擦った。
 木々のざわめき、水路に水が走る音が聞こえる。
 森に囲まれ、のどかな田園風景が広がる兎神町(とがみまち)。町名の由来である、兎神(とがみ)さまは古来から崇め奉られている、町の守護神であり、豊穣の神さま。願うと何か起こるらしく。
「兎神さまにでも願ってみようかなあ」
 道の先、光輝との待ち合わせの東屋の近く。去年の夏祭りのチラシが、いまだに壁に貼ってあり、古びてバタバタと風になびいていた。
 「兎神豊穣祭って、ダサいよな」「愛称、とがふさだって」と笑い合う男子高校生たちが、突如、水田に姿を消した。
「あーあ。またかよ」
 純夜の耳に馴染んだ声がして、太陽にきらめくそのがっしりとした体躯が、颯爽と畑に下りていった。
「あー、純夜は大丈夫」
 駆け寄ろうとして、純夜は自分の足が遅すぎることに気づく。無理に走ったら転んで迷惑をかけて、要救護者を増やすだけだ。
 つくづく自分はとろく要領が悪い。朝も起きられず、毎朝余裕をもって兄に起こされる。足の遅い自分に合わせて、余裕のありすぎる登校時間に、幼なじみの光輝が合わせてくれる。そんな、誰かの助けがたくさんないとまともに生活できない、情けない自分が心底嫌になる。
 純夜はリュックの肩ひもを握りしめた。
 「光線マンありがとう」「きらぴかるに感謝」と、助け出された高校生たちは何度も頭を下げ、それぞれ光輝から頭を叩かれて、やーいやーいと言いながら去っていった。
「悪ぃ。手間取った」
「そんなことない。光輝はいつも手際よくてすごいよ」
「純夜に褒められるとうれしい」
 屈託なく笑う光輝の笑顔はまぶしくて、荒んだ純夜の心はほかほかになった。
 光輝の手を取る。手つなぎ登校とバカにされるのも慣れた。
 彼と手を繋いでいないと、何度も道に逸れて、水田に落ちた。兄が取り乱して学校まで迎えに来て、いっぱい迷惑をかけた。
 だから。いいのだ。もう彼を独り占めする後ろめたさも、彼を縛る罪悪感もなりを潜めた。