受験勉強の合間合間に、純夜たちは文化祭の準備を進めていた。
クリオネ風シースルー、スカーフでステンドグラスの幻想的な光沢を、そしてメニューとマッチした色合いのビジューの飾り。純夜が詰めに詰めた衣装案は大好評で、『さいしゅーへーき・くりおねん』というネーミングセンス以外は受け入れられた。
「じゃあ、じゃあ」
「すみやんはよくやった。あとは任せな」
「う、うん?」
クラスメイトたちに労をねぎらわれるが、純夜はなぜといった表情で困惑しながら、みんなの動きを目で追う。
「すみやんときらめきんはメニューの味見してて」
「なんで俺もなんだよ」
光輝が口を尖らせている。「ドライフルーツと塩漬けの花びらでお腹いっぱい」とレモングラスミントティーに添えるアクセントにと、彼が持参してきた、草の数々をクラスメイトたちが丁寧にタッパーに詰め戻していた。
「彩りにいいのばかりを」
「はいはい。メニューの味見、頼んだ」
教室の隅で純夜と光輝は、机を挟んで向かい合っていた。目の前には、純喫茶企画で出す、試作品の数々が並んでいる。
実物をあらゆる角度から疑うように眺め、光輝がメニュー名を読み上げる。
「カットフルーツアソートぉ?」
「ほら、クッキーの詰め合わせ、みたいな意味のやつじゃないかなあ?」
「これ、角バントーストってなに?」
「えーっと、食パンをくわえながら走っていると角を曲がった先であなたは、運命の出会いを果たす、って書いてあるよ」
「んだそれ、ふざけてんのか」
「これとか、好感度メーター風ハートケーキ……?」
「名前はこの際、いい。味だ、味!」
フォークでカットメロンを突き刺し、「ん」と光輝は純夜の口に運んだ。
「おいひい」
「これは?」
「うーん。うん!」
純夜は目を輝かせる。
「はい」と光輝が食パンをちぎって、純夜の口に入れた。
まるでエサを待つヒナみたく、純夜はパクパクと口にしていく。
「バタートーストって、うんまい!」
「もう俺らはお腹いっぱいだわ」
「ごめん、おいしくて、食べちゃった」と純夜が、空になった容器を前に慌てた。
「いいよ。ピュアと尊さで満腹になったし」
「そ、そうなんだ。それならよかった……ね?」
突然、ガタンとイスが倒れる音が鳴り響く。
「あ! ねえ! 今、そこにメガネ、なかった?」「え? あのうわさの、残像メガネ出たん?」と急に騒ぎになり、クラスメイトたちが教室から次々と出ていく。
「ハッ。あれに追いつけるのは俺だけだ」
「光輝?」
「なんでもない。もう今日は解散でよくね?」
「みんな集中力、切れたと思うし」と机の上の容器を光輝がテキパキと片していく。
「そうだね。僕も帰って衣装制作の本腰、入れないとだし」
「あんま、根を詰めすぎんなよ?」
「う、善処します!」
光輝、僕のこと、何でも分かってるよな。
釘の刺し方も絶妙。僕はいつも距離感を測りまちがえて、光輝を困らせるけど。
彼に見透かされすぎて、純夜は決まりが悪くなり、リュックを抱える。
「夏祭りの服、どうしようカナー」
「作る気か?」
「だって、高校生活、最後の思い出だよ? とっておきの服がいい」
光輝は純夜の頭をくしゃりとかきなぜる。
「受験勉強はどうすんだ」
「やります、息抜きに衣装制作、イテテ」
「しっかたねーな」
「じゃあ、光輝のも」
「バカ言うなよ。これ以上、仕事増やしてどーすんだ」
「あいてっ」
二人で並んで下校し、いつもの通り、光輝に家まで送ってもらい、またねと手を振る。
「じゃあさ」
光輝がふり向いた。
「ペアのキーホルダーみたいなのだけ、作ってくんね?」
「いいね! 分かった!」
純夜は彼の姿が見えなくなるまでその背を見送った。
これが光輝なりの気づかいと譲歩なのだろう。
お揃いのものか。今まで一緒に居てきたのに、考えたことがなかった。
純夜はなにがいいかなと胸を踊らせ、ドアを軽やかに開けて、仰天した。
「に、兄さん!」
玄関に続く廊下にうつ伏せで倒れる兄、代依の姿を認め、純夜は駆け寄った。
「どうしたの、よい兄!」
「へ? あえ? すみくん? 床、きもちくて……」
純夜は代依の体を支え起こした。
「ねむくてねむくて」
「寝てないの」
「寝てるんだけど、制作のことで頭がいっぱいで」
「ぬい、ぬい、ぬいぐるみ……」とうわごとのように、代依はつぶやいた。
「すみくん、本当にごめん」
「なんで謝るの、いいよ、よい兄。少し休もう?」
「勉強とか学校とか大変なのは分かってるんだけど」
いつになく弱々しい代依の姿に、純夜は不安を募らせた。
「兎神豊穣祭に納品するぬいぐるみ、間に合いそうになくて」
「うん」
「少しでいいんだ。手伝って……ほしい」
「分かった」
「ありがとう。本当にありがとね」
「いつも助けてもらってばかりだし、たまには」
「えへへ。そんなことないのに。すみくんは優しい子だね」と代依が純夜の頭をなでてくる。
「それで明日、材料の買い出しに行ってきて欲しくて」
「買い出しのリスト、あとで書いとくから、今はこのまま……」と言葉が途切れた。
「よい兄?」
代依は純夜の腕のなかで、安心したように眠ってしまった。
クリオネ風シースルー、スカーフでステンドグラスの幻想的な光沢を、そしてメニューとマッチした色合いのビジューの飾り。純夜が詰めに詰めた衣装案は大好評で、『さいしゅーへーき・くりおねん』というネーミングセンス以外は受け入れられた。
「じゃあ、じゃあ」
「すみやんはよくやった。あとは任せな」
「う、うん?」
クラスメイトたちに労をねぎらわれるが、純夜はなぜといった表情で困惑しながら、みんなの動きを目で追う。
「すみやんときらめきんはメニューの味見してて」
「なんで俺もなんだよ」
光輝が口を尖らせている。「ドライフルーツと塩漬けの花びらでお腹いっぱい」とレモングラスミントティーに添えるアクセントにと、彼が持参してきた、草の数々をクラスメイトたちが丁寧にタッパーに詰め戻していた。
「彩りにいいのばかりを」
「はいはい。メニューの味見、頼んだ」
教室の隅で純夜と光輝は、机を挟んで向かい合っていた。目の前には、純喫茶企画で出す、試作品の数々が並んでいる。
実物をあらゆる角度から疑うように眺め、光輝がメニュー名を読み上げる。
「カットフルーツアソートぉ?」
「ほら、クッキーの詰め合わせ、みたいな意味のやつじゃないかなあ?」
「これ、角バントーストってなに?」
「えーっと、食パンをくわえながら走っていると角を曲がった先であなたは、運命の出会いを果たす、って書いてあるよ」
「んだそれ、ふざけてんのか」
「これとか、好感度メーター風ハートケーキ……?」
「名前はこの際、いい。味だ、味!」
フォークでカットメロンを突き刺し、「ん」と光輝は純夜の口に運んだ。
「おいひい」
「これは?」
「うーん。うん!」
純夜は目を輝かせる。
「はい」と光輝が食パンをちぎって、純夜の口に入れた。
まるでエサを待つヒナみたく、純夜はパクパクと口にしていく。
「バタートーストって、うんまい!」
「もう俺らはお腹いっぱいだわ」
「ごめん、おいしくて、食べちゃった」と純夜が、空になった容器を前に慌てた。
「いいよ。ピュアと尊さで満腹になったし」
「そ、そうなんだ。それならよかった……ね?」
突然、ガタンとイスが倒れる音が鳴り響く。
「あ! ねえ! 今、そこにメガネ、なかった?」「え? あのうわさの、残像メガネ出たん?」と急に騒ぎになり、クラスメイトたちが教室から次々と出ていく。
「ハッ。あれに追いつけるのは俺だけだ」
「光輝?」
「なんでもない。もう今日は解散でよくね?」
「みんな集中力、切れたと思うし」と机の上の容器を光輝がテキパキと片していく。
「そうだね。僕も帰って衣装制作の本腰、入れないとだし」
「あんま、根を詰めすぎんなよ?」
「う、善処します!」
光輝、僕のこと、何でも分かってるよな。
釘の刺し方も絶妙。僕はいつも距離感を測りまちがえて、光輝を困らせるけど。
彼に見透かされすぎて、純夜は決まりが悪くなり、リュックを抱える。
「夏祭りの服、どうしようカナー」
「作る気か?」
「だって、高校生活、最後の思い出だよ? とっておきの服がいい」
光輝は純夜の頭をくしゃりとかきなぜる。
「受験勉強はどうすんだ」
「やります、息抜きに衣装制作、イテテ」
「しっかたねーな」
「じゃあ、光輝のも」
「バカ言うなよ。これ以上、仕事増やしてどーすんだ」
「あいてっ」
二人で並んで下校し、いつもの通り、光輝に家まで送ってもらい、またねと手を振る。
「じゃあさ」
光輝がふり向いた。
「ペアのキーホルダーみたいなのだけ、作ってくんね?」
「いいね! 分かった!」
純夜は彼の姿が見えなくなるまでその背を見送った。
これが光輝なりの気づかいと譲歩なのだろう。
お揃いのものか。今まで一緒に居てきたのに、考えたことがなかった。
純夜はなにがいいかなと胸を踊らせ、ドアを軽やかに開けて、仰天した。
「に、兄さん!」
玄関に続く廊下にうつ伏せで倒れる兄、代依の姿を認め、純夜は駆け寄った。
「どうしたの、よい兄!」
「へ? あえ? すみくん? 床、きもちくて……」
純夜は代依の体を支え起こした。
「ねむくてねむくて」
「寝てないの」
「寝てるんだけど、制作のことで頭がいっぱいで」
「ぬい、ぬい、ぬいぐるみ……」とうわごとのように、代依はつぶやいた。
「すみくん、本当にごめん」
「なんで謝るの、いいよ、よい兄。少し休もう?」
「勉強とか学校とか大変なのは分かってるんだけど」
いつになく弱々しい代依の姿に、純夜は不安を募らせた。
「兎神豊穣祭に納品するぬいぐるみ、間に合いそうになくて」
「うん」
「少しでいいんだ。手伝って……ほしい」
「分かった」
「ありがとう。本当にありがとね」
「いつも助けてもらってばかりだし、たまには」
「えへへ。そんなことないのに。すみくんは優しい子だね」と代依が純夜の頭をなでてくる。
「それで明日、材料の買い出しに行ってきて欲しくて」
「買い出しのリスト、あとで書いとくから、今はこのまま……」と言葉が途切れた。
「よい兄?」
代依は純夜の腕のなかで、安心したように眠ってしまった。
