ハッと気がつくと、いつのまにか俺達は鏡の教室に戻ってきていた。
壁に備え付けられていた大きな鏡にはヒビが入っている。
助かったんだ……。
そう実感が湧いた瞬間に、ふっと身体中の力が抜けていくのがわかった。
「南場、大丈夫?」
「ムリ、腰抜けた……マーージで怖かった……」
「やっぱり無理してたのか」
あのときは気を張っていたし、強がってはいたが、内心恐怖で震え上がっていた。
反動で立てなくなった俺の身体を、金光に支えられる。
「ありがとう。南場のおかげで助かった」
「いや、だから元を辿れば俺のせいなんだって」
「そんなこと関係ない。身体を乗っ取られてたとき、南場の声が聞こえて目が覚めたんだ。声を掛けてくれなかったら、きっと全部諦めてた」
あのとき、ちゃんと声が届いていたのか。
なんか結構恥ずいこと言ったような気がするけど……。
俺はコホンとひとつ咳払いをした。
「よかったよ。二人で戻ってこれて」
そう言えば、金光は穏やかに微笑んでくれた。
なんか久しぶりだな、この感じ。
しばらく金光の身体に抱き留められていた俺だが、じわじわとこの状態に羞恥が込み上げてきた。
「も、もう大丈夫だから」
「え? まだ足震えてるけど……」
「いいっ! ひとりで立てるから!」
ぐいぐいと胸を押して、無理やり金光の身体から抜け出す。
そんな俺のことを、金光は不思議そうな顔をして見下ろしていた。
しかしそれも束の間、何かに気づいたように顔を上げた金光が、みるみるうちに険しい表情になっていく。
その視線は俺の背後に向けられていた。
「金光? どうし……」
振り向くと、教室の入口に誰かが立っているのが見えた。
カヨだ。
彼女はなにかをブツブツと呟きながら、真っ赤な顔で静かに俺を睨み付けている。
その両手には、何かを握り締めていた。
「っ、南場……っ!」
金光がなにやら切羽詰まった様子で俺の名前を呼ぶ。あっと思うより先に、カヨが俺をめがけて走り出した。
こちらに向かってくるのがスローモーションのように視界に映る。
次の瞬間、どんっと身体を突き飛ばされて、壁にどかっと背中をぶつけた。
痛みを堪えながら顔を上げた先で、金光の身体がわずかによろめく。
「金光……?」
呼び掛けるが返事はない。金光の正面に立つカヨの手には、銀色の刃物が握られていた。
「あ……ああ……」
声を震わせながら、カヨの顔がみるみるうちに青ざめていく。カヨは刃物の柄から手を離すと、尻餅をついて倒れ込んだ。
俺はよろよろと立ち上がって、金光のそばに駆け寄る。
震える手でその肩に触れると、ふっとその身体から力が抜けていった。
「か、金光……おい……」
倒れ込む金光を抱き留めて、何度も名前を呼んだ。しかし気を失っているらしく返事はない。
金光のシャツは腹の辺りが赤く染まっている。床にじわじわと血だまりが広がっていくのを見ながら、呼吸が浅くなっていくのを感じた。
まるで覚めない夢を見ているような心地で、自分の鼓動だけがやけにうるさく響いていた。
壁に備え付けられていた大きな鏡にはヒビが入っている。
助かったんだ……。
そう実感が湧いた瞬間に、ふっと身体中の力が抜けていくのがわかった。
「南場、大丈夫?」
「ムリ、腰抜けた……マーージで怖かった……」
「やっぱり無理してたのか」
あのときは気を張っていたし、強がってはいたが、内心恐怖で震え上がっていた。
反動で立てなくなった俺の身体を、金光に支えられる。
「ありがとう。南場のおかげで助かった」
「いや、だから元を辿れば俺のせいなんだって」
「そんなこと関係ない。身体を乗っ取られてたとき、南場の声が聞こえて目が覚めたんだ。声を掛けてくれなかったら、きっと全部諦めてた」
あのとき、ちゃんと声が届いていたのか。
なんか結構恥ずいこと言ったような気がするけど……。
俺はコホンとひとつ咳払いをした。
「よかったよ。二人で戻ってこれて」
そう言えば、金光は穏やかに微笑んでくれた。
なんか久しぶりだな、この感じ。
しばらく金光の身体に抱き留められていた俺だが、じわじわとこの状態に羞恥が込み上げてきた。
「も、もう大丈夫だから」
「え? まだ足震えてるけど……」
「いいっ! ひとりで立てるから!」
ぐいぐいと胸を押して、無理やり金光の身体から抜け出す。
そんな俺のことを、金光は不思議そうな顔をして見下ろしていた。
しかしそれも束の間、何かに気づいたように顔を上げた金光が、みるみるうちに険しい表情になっていく。
その視線は俺の背後に向けられていた。
「金光? どうし……」
振り向くと、教室の入口に誰かが立っているのが見えた。
カヨだ。
彼女はなにかをブツブツと呟きながら、真っ赤な顔で静かに俺を睨み付けている。
その両手には、何かを握り締めていた。
「っ、南場……っ!」
金光がなにやら切羽詰まった様子で俺の名前を呼ぶ。あっと思うより先に、カヨが俺をめがけて走り出した。
こちらに向かってくるのがスローモーションのように視界に映る。
次の瞬間、どんっと身体を突き飛ばされて、壁にどかっと背中をぶつけた。
痛みを堪えながら顔を上げた先で、金光の身体がわずかによろめく。
「金光……?」
呼び掛けるが返事はない。金光の正面に立つカヨの手には、銀色の刃物が握られていた。
「あ……ああ……」
声を震わせながら、カヨの顔がみるみるうちに青ざめていく。カヨは刃物の柄から手を離すと、尻餅をついて倒れ込んだ。
俺はよろよろと立ち上がって、金光のそばに駆け寄る。
震える手でその肩に触れると、ふっとその身体から力が抜けていった。
「か、金光……おい……」
倒れ込む金光を抱き留めて、何度も名前を呼んだ。しかし気を失っているらしく返事はない。
金光のシャツは腹の辺りが赤く染まっている。床にじわじわと血だまりが広がっていくのを見ながら、呼吸が浅くなっていくのを感じた。
まるで覚めない夢を見ているような心地で、自分の鼓動だけがやけにうるさく響いていた。


