月の裏側に行ってみたい。season1



『――勘違いしそうだった。』




然の艷やかな声が、

繰り返し

再生される。



体の奥が、疼く。



―――――


「はぁ……
 然、戻って来ねえな。」

教室のドアに目をやる。

さっきのは、
良くなかった。

きっと傷つけた。


からかうなって言った時、

僅かに揺れた――

然の瞳。



なんか、

ものすごく、

深く、

……反省。



いつもみたいに、
スタスタと
入ってこないかな。


あの、
角のとこで、

チラッと
こっち見て、

ニッと笑って――

「……くるわけないか。」


ドアを
ぼんやり眺める。



快が入ってくる。

次々に絡むクラスメイトを
綺麗にさばいていく。

「またサボりか?」
「HP戻してたんだよ。」
……バスケ、キレッキレだったもんな。

「先生、怒ってたぞ!」
「牛乳飲めって言っといて。」
……そうそう、カルシウムな。


「お前どこ行ってたの?」


「あー、体育館倉庫。」


――ん?


んん!?

体育館倉庫!?


てか、
なんで俺を見ながら言う?

嫌な予感しかしない。

快の足が、
迷いなく
こっちへ向かってくる。



ドカッ……

勢いそのままに、
俺の椅子に足を乗せる。


「よぉ、男子煩悩生。」



「なんだそれ、
 変な名前付けんな。」

その足を
払い落とそうとする。

ひょいっ。
片足あげて
避けられる。
「……チッ」



ドカッ……

快が
また足を乗せる。


今度は、
奴の身体ごと
押し戻す。

ビクともしない。


俺を見る
快の目線も、

ビクともしない。


めんどくせぇ……。
「なんだよ。」


「あのさ、
 振り払っていい時と
 ダメな時あるぞ。」


「――あ?」


「手を取ってやること
 たまには、大事なんだよ。」


「何言ってる?
 サボりすぎて
 ついに頭いかれたか?」


「そんなに尖るなよ。
 いいこと教えてやる。
 耳、貸して。」

快の指が
クイクイと俺を呼ぶ。


いちいちムカつく。


上目遣いで
頭を近づける。

ボソッ。
『涙拭いてたら遅刻した…。』



え……?

目を見開く。


「どういう意味だ?」

快の腕を軽くつかむ。


ピッ!
手を払われる。

「気になるなら
 見てくれば?」


置き去りになった
俺の指――

ギュッと握りしめる。

―――――


気づいたら、
バカみたいに
走ってた。


廊下の向こう、
水道の音がする。


――居た!


然が顔を拭いている。

手には
快のタオル。


「然っ!」
肩を掴む。
顔を確かめる。


然が驚く。

「……朔。
 どうしたんだよ。」

まつ毛が――濡れてる。


然の頬を
両手で覆う。

親指で
濡れたまつ毛を拭う。


然がクスッと笑う。

「あぁ、これか。
 快が可笑しくてさ。

 笑い過ぎて、
 死ぬかと思った。

 ブハッ……!また笑えてきた。」


俺の心配をよそに、

声を立てて
笑っている。



なんだよ、もぅ……。

めちゃくちゃ
焦ったじゃんか……。



「……びっくりさせるなよ。」

然が、
目元をこすりながら
俺を見る。


「泣いてると思ったのか?

 ――馬鹿だなぁ。」

ふわっと目を細める。




俺の身体の奥から

ギュッと込み上げる、


痛みにも似た――“衝動”。




もう、どうでもいい。


なにもかも、

どうでもいいよ。

ためらいなく
抱きしめる。

然の柔らかい髪に
頬を当てる。

足りない。

顔を埋める。

微かに、
あの日の
然の部屋の香り――

俺の鼻を
無情にくすぐってくる。

このまま、
俺の腕で
潰してしまいたい。



「朔っ!?
 ちょっと……っ、痛いよ。」


もっと、

もっと、密着したい。

グググッ……。
力を込める。



「……おいっ!朔!?」



絶対、離すもんか。

離したら
――また遠くなる。

剥がれようとする然を、

無理やり
胸に押し込める。



「……さ、朔っ……痛い……」



――ドカッ!


「うっ!!」

俺の下半身に
然の膝がヒットする。

まさか、
そこ、狙うなんて――

なんてこった。



「お前っ……

 やっぱりムッツリだな!」


床に倒れ込む俺の横を
然が駆け抜ける。



「……ムッツリ?

 やっぱりってなんだ?

 ……くっ、痛ぇ……。」


駆けていく然の後ろ姿を
目で追う。


自覚した。

俺、お前が好きだ。

難しいことは、もういい。


「上等じゃねーか。
 首洗って待っとけ。」


――俺スイッチ全開。




―――――
~次回第8夜から、season2へ~

ここまでお付き合い頂き、
ありがとうございます。

いつか…で良いので、
お声を聞かせて頂けると、
FKROW非常に勉強になります。

では、またseason2で👋

FKROW R8.4.23記