月の裏側に行ってみたい。season1




「――やらない。
 まだ、やらない。」





――ハッ!!

目を覚ます。

外はまだ薄暗い。

起き上がる。

「まだやらない(キリッ!)って
 なんだ、それ。」

額に手を当てる。
「……そうじゃないだろうよ。」



昨夜のことが

頭の中を駆け巡る。


まるで、
フライパンの上の
ポップコーンだ。

次から次へと
弾けやがる。


――穴があったら入りたい。


許されるなら、
しばらく出てきたくない。


部屋の中を歩き回る。

完全なる墓穴だ。

あれじゃぁ、俺、
普通に認めてるじゃん。


――お前にキュンしてる、って。


「うわぁ……鳥肌……。」

俺の口、
勝手に何言ってくれてんの。


はぁ……。

なんか心理学で
聞いたことあるな。

深夜の
真面目LINEはやめとけ、とか。

夜は
人を開放的にするとか、

判断力がどうとか、

なんとか。


ダメだ。
いろいろかすってる。

悪い例の鏡じゃないか。



――ちょっと、待て。


足が止まる。


あれはどういう意味だ?


『……やらないのか?』



ゴクリ……。

――ドクンッ!!



わわわ!

収まれ、俺!!


「やるか!!バカ野郎!!」


誰もいない部屋で叫ぶ。


――ダダダダッ!

――バンッ!
勢いよくドアが開く。

「朔!うるさいよ!」

「さーせん……。」

母の鬼の形相にビビる。



―――――


――学校の体育館。


「ナイス、然!」
快の声が響く。



バンッ!

ボールを受け取った然が、
軽やかに踏み込み、
ふわりと跳ぶ。

しなやかな手首。

連動する指先。



シュッ――
ネットが揺れる。

「よっしゃー!」

ガッツポーズ。

跳ねる髪。

笑った横顔。

ジャージの裾で
汗を拭う。

少し腹が見える。


……キラッキラしてやがる。


眩しくて
目がショボショボする。

いや、違うよ。
単なる寝不足だ。

そう。
俺は、寝不足なだけ。


「やるじゃん!」
快が駆け寄り、
然とハイタッチする。

そのまま肩を組み、
ギャハハと笑っている。


――待て。

その肩は俺のだ。

快の野郎……

離れろ。

離れろって。

は、な、れ、ろ!


然の目が、
ふとこっちを見る。

「うっ……」

おっと。

危ない。

うっ……
じゃねぇよ。


平常心。

平常心。

カピバラ思い出せ。


――うん。
大丈夫。

いつもの俺、取り戻した。

「ナイッス!」
親指を立てて笑ってみせる。

然がふっと笑う。



そのまま背を向け、
ゲームへ戻っていく。


……キラッキラしてやがる。


なんだ、アレは。
眩しくて
可愛くて、
カッコイイって、

あれかな、
俺の理想が
3Dになってんのかな。

もう認めざるを得ないな。

抗うの
面倒くさくなってきた。

負けそう――。


「……尊いな。」
無意識にこぼれる。


ほけーー……


ん?
視線を感じる。


うわ、――快!


目が合っちまった。

ニヤけた顔、見られたか?


にたぁ……。
快が笑う。


間違いない。
見られたな。

なんかムカつく。

『行けよ!』
口だけ動かす。

顎で、
――あっち行け!



―――――


――体育館倉庫。

ガタッ……
得点表を置く。


――俺はなぜ体育係なんだ。


「あー、めんどくせ!」

ボールをカゴに
投げ入れていく。

ガコン!

ガコン!

意外と上手い。

1人でドヤ顔をする。


ガツン!

コロコロ……

外に出ていくボール。

「チッ!こうなると思ったわ!」

取りに行こうと
振り返る。


ドアの向こうから

――トンッ、――トンッ

リズミカルな弾む音。


ひょこっと
然が顔をのぞかせる。

ボールを抱え
入ってくる。

「手伝うよ。」


えっと……

俺、いつもどう接してたっけ……。


「もう終わるし、
 ――行けよ、教室。」

目を逸らしたまま、
言葉を吐き出す。

あ。
嫌な言い方になった……かも。


視界の端に、
立ち止まった然の足が入る。

気のせいか、寂しそうだ。


顔を上げ、然を見る。

「……ほら、ボール貸して?」

手を出す。



「手伝うの、やーめた。」

挑発的な目をした然が、
ボールを背中に隠す。


「子供かよ。
 ボール返せよ。」


肩をすくめる然。


返す気はない。――か。

「はぁ……
 何だよ、絡むなよ。

 ほら、ボール貸して。」


然の手からボールを取り、
カゴに投げ入れる。


「遅れるぞ。教室、いこ。」

踏み出そうとした瞬間、

グンッ…!
後ろに引っ張られる。

立ち止まり振り返る。


「……なんだよ。
 然、お前、なんか変だぞ?」


然は何も言わない。

ただ、俺の目を、

その奥を――見てる。


「……教室に、行こう?」

視線を

ゆっくりと、

然の目から

ドアへ滑らせる。



「ずっと、俺の事見てた。」

然の声が
俺を、止める。


「――え?」


「……なんで見てたの?」


「なんでって……。
 上手いなーって、
 見るくらい普通だ。」


「それもそうだな。」

然の顔が
グンッと近づく。

ふいっと
顔を逸らす。

耳元に
低い声が落ちる。




「――勘違いしそうだった。」



ぶわっ……

全身に、変な汗が滲む。


「からかうのやめろよ。」


トンッ……

然を軽く押して出ていく。



倉庫の中、
1人残された然の姿。

「なんっ……だよ!」

然の脚が床を蹴った。