
朝が来てしまった。
枕に頭を押し付ける。
「嫌だ。――行きたくない。」
どんな顔して会えばいい?
そもそも、昨日、
どうやって帰ってきたのか。
気づいたら
電車乗ってたし、
気づいたら
家で飯食ってた。
――とにかく、変だ。
俺の頭が。
ガバッ!
起き上がる。
「ぐわぁあああ!!」
頭を掻きむしる。
「朝からうるさいよ!」
母の怒声が飛ぶ。
―――――
――教室。
あちこちで
おはよう!が響いてる。
出くわしたくなくて、
超早く登校してしまった。
「あぁ……こんなのダメだ。」
机に突っ伏して
脱力する。
ドカッ!
後頭部に衝撃。
「いって!」
足元に
サッカーボールが転がる。
「悪い!」
「快!またお前かよ!」
「今のは俺じゃねぇって。」
「黙れ。
そういうのは
あっちでやれよな。」
「機嫌悪いねー。
まだ燻ってんのか?」
快が
腕組みをして覗き込む。
「眠いだけ!」
体ごとそっぽを向く。
「なんっだよ、感じ悪いな。
おっ!然、おはよーっ!」
――ドクッ……
うわ、来た。
とりあえず
気配を消してみる。
丸見えなのだが。
視界の端に
ふりかぶる快の姿が入る。
「え。快、何してんだ!?」
ヒュッ!!
「おりゃっ!」
ボールを投げるふり。
「ぅわっ!」
ガタッ!
驚いた然がバランスを崩す。
「――然っ!」
咄嗟に、身体が動く。
腕で抱きとめる。
然の前髪をかけ分け
顔を覗き込む。
「大丈夫か?
怪我はないか?
痛いところは……」
――トンッ。
然の手が、
俺の胸を押す。
「――然?」
「やめろよな。」
――低い声。
「……然?どうした?」
然は、
距離を詰めると
俺の目を
まっすぐ見据えた。

「俺は――、
“オンナノコ”じゃねーんだよ。」
フイッ……
踵を返し、
そのまま席に戻った。
どうしたら良かったんだ?
俺はただ、
心配しただけだろう?
何が正解だ?
快が、
俺と然を
目だけで追う。
「……何?お前ら。」
快に目配せし、
肩をすくめる。
――それは俺が聞きたいよ。
放課後までが長い。
早く帰りたい。
「……屋上いこ。」
――授業なんか、もういい。
席を立つ。
―――――
空が高い。
「うわ……これ、いいやつ。」
スマホを出す。
カシャッ!
『然!今日の空、最高!
夜、楽しみだな!』
写メ、送信。
っと。
「あっ!違う!」
画面を何度もタップする。
消せない。
……終わった。
「あー、もう、
何もかもが裏目じゃねーか。」
屋上のベンチに寝転ぶ。
空を見上げる。
吸い込まれそうな青。
流れる白い雲。
コントラストがまぶしい。
『俺は――、
“オンナノコ”じゃねーんだよ。』
頭の中でこだまする。
然の眼差しは、
俺に何を伝えたかった?
大きく息を吸う。
ふ~……
空に浮かぶ雲を
吹き飛ばす。
「どうしたらいいんだ、俺は。」
目を閉じる。
―――――
……パチッ。
やべ。
俺、寝てた。
目をこする。
時計を見る。
「――やっと起きたか。」
頭の向こうから
然の声がする。
――ガバッ!
体を起こし、
大きく振り返る。
ベンチの端に、
然が座っていた。
「……え?なんで居るんだ?」
然がムッとする。
「写メ、送ったのお前だろ。」
「あぁ……。うん。うん。」
言葉が出ない。
その代わりに
何度も頷く。
呆れ顔の然。
「はぁ……。困った奴。
――で?夜、行くか?」
「行く!行こう!」
俺は即答した。
―――――
いつもの丘。
サク……
サク……
芝生を踏みしめる。
同じ重さで
心臓も鳴ってる。
いつもの丘なのに
知らない丘みたいだ。
「――おい。」
ビクッ!
――うわ、もう来た。
「お前さぁ……
いい加減にしろよ?」
然の声が、
後頭部にぶつかる。
痛い。
すごく、痛い。
ゆっくりと振り返る。
然が、
天体望遠鏡を担いで
俺の前を通り過ぎる。
ザッ!
黙って設置する。
然の横顔が、
知らない人みたいに見える。
「――然。」
取り残される。
「朔、ちょっと来い。」
望遠鏡を覗きながら
然が手招きする。
「……なに?」
そっと近づく。
ガッ!!
胸ぐらを掴まれる。
「えっ!ちょっ…離せよ!」
「やだね。」
ギリギリと
引き寄せられる。
痛い。
苦しい。
「……くっ!離せ……って!」

「聞こえねぇな。」
ググググッ……
細い指が食い込む。
締め付け、
引っ張られる。
なんだコイツ!
負ける――――!!
「……離せ……って……」
グッ…!
然の手首を掴む。
「言ってるだろ!!この馬鹿力!!」
ドンッ!
全力で突き飛ばす。
ズサッ……
鈍い音を立てて
然が芝生の上に落っこちた。
そのまま、
――動かない。
「……あ。ごめん……。然?」
ゴロンッ。
そのまま大の字になる然。
息が乱れている。
横目で俺を見る。
大きく
深呼吸する。
「妙なイメージ、
勝手に作ってんじゃねーぞ。」
――あ。
そうか。
そうだったんだ。
――痛かったのは、然だ。
「お前、
いちいち考えすぎ。」
ふっと、然の頬が緩んだ。
―――――
望遠鏡の傍らに
二人並んで寝転ぶ。
とても静かだ。
まばたきをする音すら
聞こえそうだ。
そっと、然を見る。
然の瞳が煌めく。
同じ星空を、
俺も見ている。
今、
この瞬間を、
焼き付けたい。
「然、俺が悪かった。」
自然に口からこぼれた。
「――俺も。ごめん。」
澄んだ空気に
然の声が乗っかる。
「俺、お前にムカついたんだ。
分かって欲しかった。
気持ち、押し付けた。
――悪かった。」
違う。
違う。違う。
然にこんなことを、
言わせたいんじゃない。
「……そんな風に言うなよ。」
目が合う。
然の口が
静かに動く。
「だって、お前、
俺のこと超好きじゃん。」
「はぁ!?
おまっ……お前、何言ってんだ?」
ダメなやつだ。
今は、
そこに触れちゃいけない。
「やめろよ、そういうの。」
立ち上がろうとする。
「――待てよ。」
然が俺のシャツを引っ張る。
振り返る。
「なんだよ。」
然の瞳が、俺を映してる。
「――俺、気づいてたよ。」
多分、もう逃げ道はない。
「――何に?」
「あの雨の日、
お前――、俺に恋してた。」
ぐはっ。
――終わった。



