二人の視線の先には、小柄な男子生徒がいた。その男子生徒は一年生だったが、身体が小さいせいで今まで試合をしても、誰にも勝ったことがなかった。送別会に馴染めないのか、隅の方に一人で立っている。
「いいよ」
涼太はそう言うと彼の元へ行き、話を聞いていた。その男子生徒は、涼太が傍に来ると嬉しそうに話をしていた。胸の奥がズキズキと痛む。
(あれ? ズキズキってなんだ?)
僕が自分の変化に首を傾げていると、後ろから肩を叩かれた。
「先輩! お疲れっす」
「お疲れさま。今まで、ありがとう」
「先輩、それはこっちのセリフっすよ。後は俺達に任せてください。泥船に乗ったつもりで」
「泥船じゃ、沈んじゃうよ」
「あー、いっけね。なんでしたっけ、そういうの?」
「大船じゃない?」
「あっ、そうだ。大船だ。先輩がいなくなって、俺やってけるかなー」
「西村君なら大丈夫だよ」
明日から僕の後を引き継いで剣道部の副部長になる西村君は、剣道部のムードメーカー……と言えば聞こえはいいが、かなりのお調子者だった。
「そうかなー。先輩にそう言われると、自信ついちゃうなー」
「そんなこと、ぜんぜん思ってないでしょ?」
彼の言い方がおかしくて笑っていると、後ろから肩を掴まれた。
「近すぎ」
「ごめん」
涼太だった。彼の眉間にはシワが寄っていた。かなり怒っている時の表情だ。
(もしかして、西村君と話してたから妬いてるのかな……まさかね)
その後も、剣道部の後輩たちと話をして別れを惜しんでいた。後輩たちは「また、いつでも遊びに来てくださいね!」と言っていた。そう言われれば、引退した後も部活に顔を出しやすい。
「楽しかったね」
「ああ」
帰りに二人で歩いていると、涼太は僕の手を掴んできた。付き合うって、こういうことなのかと思いながら、手を振りほどけないでいると、涼太が僕に近づいて来て聞いた。
「何を話してたの?」
「部活の話だよ。涼太こそ、後輩の子と何を話してたの?」
僕が聞くと、涼太は肩をすくめていた。
「内緒」
「そうなんだ」
「気になる?」
「うん。でも、大丈夫」
そう言えば、あの胸のズキズキは気がついたら消えていた。あの感情が、嫉妬というものなのだろうか。
「大丈夫って、何がどう大丈夫なの?」
「えっ……」
涼太は僕の手を引くと、公園がある方へ歩いて行く。暗くなってきたせいか、人通りはまばらだった。
「俺が後輩と二人きりで話していても、何とも思わない?」
「えっと……相談されたんだし、仕方ないんじゃないかな」
「そうじゃなくて。俺が他の奴と話してても何とも思わない?」
彼の真剣な表情から、すごく大切なことを聞かれているのだと思った。ちゃんと話さなければ、彼との関係が終わってしまう……何となく、そんな気がした。
「胸の奥がズキズキして苦しかった」
そう言った瞬間、僕の目から涙が溢れた。泣くつもりなんて、なかったのに一度泣き始めると、涙は止まらなかった。
「ごめん。泣かすつもりじゃ、なかったんだけど……」
涼太はそう言うと、頭をかいていた。すごく狼狽えているようだ。しばらくして僕が泣き止むと、涼太は僕の顔を間近で見つめていた。
「まだついてる」
そう言って、涼太は頬にキスをしながら吸い上げるようにして涙を拭き取っていた。
「ふふっ、変な取り方。ハンカチ持ってるのに」
「……」
「お返し」
僕が仕返しに涼太の唇にキスをすると、涼太は口元を押さえて顔を真っ赤にしていた。
「なんっ、えっ……」
「だって、付き合う前にキスされたから……」
「……」
「好きだよ、涼太」
好きだと自覚したのは、ついさっき泣いた時だった。泣くほど苦しかったのなら、もう言い逃れ出来ないだろう。
「俺も……」
「俺も?」
「直樹が好きだ」
涼太は満面の笑み浮かべると、僕に抱きついていた。
「……うん」
涼太は僕の肩を掴んで身体を引き離すと、目を閉じて僕にキスをした。そっと触れた唇に、僕は喜びを感じた。
「涼太がキスしてくれるの、嬉しい」
「直樹、目を閉じて」
「ん……」
お互い目を閉じると、どちらからともなくキスをしたのだった。
「いいよ」
涼太はそう言うと彼の元へ行き、話を聞いていた。その男子生徒は、涼太が傍に来ると嬉しそうに話をしていた。胸の奥がズキズキと痛む。
(あれ? ズキズキってなんだ?)
僕が自分の変化に首を傾げていると、後ろから肩を叩かれた。
「先輩! お疲れっす」
「お疲れさま。今まで、ありがとう」
「先輩、それはこっちのセリフっすよ。後は俺達に任せてください。泥船に乗ったつもりで」
「泥船じゃ、沈んじゃうよ」
「あー、いっけね。なんでしたっけ、そういうの?」
「大船じゃない?」
「あっ、そうだ。大船だ。先輩がいなくなって、俺やってけるかなー」
「西村君なら大丈夫だよ」
明日から僕の後を引き継いで剣道部の副部長になる西村君は、剣道部のムードメーカー……と言えば聞こえはいいが、かなりのお調子者だった。
「そうかなー。先輩にそう言われると、自信ついちゃうなー」
「そんなこと、ぜんぜん思ってないでしょ?」
彼の言い方がおかしくて笑っていると、後ろから肩を掴まれた。
「近すぎ」
「ごめん」
涼太だった。彼の眉間にはシワが寄っていた。かなり怒っている時の表情だ。
(もしかして、西村君と話してたから妬いてるのかな……まさかね)
その後も、剣道部の後輩たちと話をして別れを惜しんでいた。後輩たちは「また、いつでも遊びに来てくださいね!」と言っていた。そう言われれば、引退した後も部活に顔を出しやすい。
「楽しかったね」
「ああ」
帰りに二人で歩いていると、涼太は僕の手を掴んできた。付き合うって、こういうことなのかと思いながら、手を振りほどけないでいると、涼太が僕に近づいて来て聞いた。
「何を話してたの?」
「部活の話だよ。涼太こそ、後輩の子と何を話してたの?」
僕が聞くと、涼太は肩をすくめていた。
「内緒」
「そうなんだ」
「気になる?」
「うん。でも、大丈夫」
そう言えば、あの胸のズキズキは気がついたら消えていた。あの感情が、嫉妬というものなのだろうか。
「大丈夫って、何がどう大丈夫なの?」
「えっ……」
涼太は僕の手を引くと、公園がある方へ歩いて行く。暗くなってきたせいか、人通りはまばらだった。
「俺が後輩と二人きりで話していても、何とも思わない?」
「えっと……相談されたんだし、仕方ないんじゃないかな」
「そうじゃなくて。俺が他の奴と話してても何とも思わない?」
彼の真剣な表情から、すごく大切なことを聞かれているのだと思った。ちゃんと話さなければ、彼との関係が終わってしまう……何となく、そんな気がした。
「胸の奥がズキズキして苦しかった」
そう言った瞬間、僕の目から涙が溢れた。泣くつもりなんて、なかったのに一度泣き始めると、涙は止まらなかった。
「ごめん。泣かすつもりじゃ、なかったんだけど……」
涼太はそう言うと、頭をかいていた。すごく狼狽えているようだ。しばらくして僕が泣き止むと、涼太は僕の顔を間近で見つめていた。
「まだついてる」
そう言って、涼太は頬にキスをしながら吸い上げるようにして涙を拭き取っていた。
「ふふっ、変な取り方。ハンカチ持ってるのに」
「……」
「お返し」
僕が仕返しに涼太の唇にキスをすると、涼太は口元を押さえて顔を真っ赤にしていた。
「なんっ、えっ……」
「だって、付き合う前にキスされたから……」
「……」
「好きだよ、涼太」
好きだと自覚したのは、ついさっき泣いた時だった。泣くほど苦しかったのなら、もう言い逃れ出来ないだろう。
「俺も……」
「俺も?」
「直樹が好きだ」
涼太は満面の笑み浮かべると、僕に抱きついていた。
「……うん」
涼太は僕の肩を掴んで身体を引き離すと、目を閉じて僕にキスをした。そっと触れた唇に、僕は喜びを感じた。
「涼太がキスしてくれるの、嬉しい」
「直樹、目を閉じて」
「ん……」
お互い目を閉じると、どちらからともなくキスをしたのだった。



