20の差は遠くて




 さっき、偶然、女子達が話しているのを聞いてしまった。七日間、貴公子が作る弁当を食べた後、付き合うか、付き合わないかが決まるという『貴公子手作り弁当Seven Days』という謎の噂が流れていると。手紙だったり、直に申し込む挑戦者もいるとかいないとか。

 そう言えば____

「小笠原、おはよう」俺は、自分の下駄箱にスニーカーを突っ込んだ。
「おはよう」小笠原は、短いため息吐いて下駄箱を開けた。中から大量の紙がバサっと落ちてきた。
 よく見ると、どれも可愛い封筒に可愛い文字が書かれていた。

 あ、ラブレターってやつだ……この前の田辺さんといい、小笠原やっぱモテるな……

「すげぇ……」
「……本当に」小笠原は、他人事のように言って落ちた手紙を拾った。俺も拾うのを手伝って「もしかして…弁当食べたいって立候補者とか?」と聞いた。
「さぁ、どうだろう」小笠原は、苦笑し手早く手紙を拾って鞄の中にしまった。

 別に隠すことねぇのに……俺だけのために弁当作って欲しいとは思ったけど、友達としてだし……でも、なんかモヤる……

 今日、朝の昇降口で、小笠原に会った時の話だ。

 そして……俺は、今、他クラスの女子から小笠原に手紙を渡して欲しいと、頼まれて困っていた。小笠原には、こういうのいいからって言ってたけど、下駄箱のがいいならこれもいいだろうと、承知して受け取った。が、女子から『小笠原宛のラブレター』を渡して欲しいと頼まれる度、モヤモヤした気持ちが増していった。結局、五人の女子から渡すよう頼まれた。

 ああ! もう! 俺は、小笠原専用配達員じゃねぇって!

 俺は、正直うんざりして教室に戻った。
 
 *

 お試し手作り弁当六日目____


 昼休みの時間。小笠原は、いつも通り俺用の弁当箱を持って席に来た。別の場所で食べないかと誘われた俺は、小笠原に着いて行った。

「結局、ここか……」
「家庭科室、空いてると思ったんだけど…ごめんね」
「いいよ、気にするなって。それより! いただきます!」俺は、弁当の蓋を開け、大好物の卵焼きを箸で摘まみ頬張った。
「〜〜! めっちゃうまっ!」
「……今日の卵焼き上手くいったんだ」小笠原は、嬉しそに弁当の蓋を開け、同じ卵焼きを食べた。
「うん、美味しい。良かった」
「な! 小笠原が作る弁当は旨いっていっただろ!」
「ありがとう、めっちゃ嬉しい」小笠原は、昨日と違って、別人じゃないかってくらい上機嫌だった。
「そうだ! 弁当のお礼したいんだけど」
「いいよ。僕が食べて欲しくて作ってるんだし」
「いや、そういう訳にはいかねぇって。何がいいか考えといて」
「何でもいいの?」小笠原は、俺をじっと見てくる。
「おお、なんでもいいぜ! あ、俺の出来る範囲でだけど」
「分かった。考えとく」小笠原は、目を細め青天の空を眺めて微笑んだ。
「美味しかった! ごちそうさまでした!」 俺は、最後のピーマン肉詰めを口いっぱいに頬張って手を合わせた。
「あの、西里……」
「あ! そうだ! これ、小笠原にってさ」俺は、女子達に頼まれた手紙を差し出した。それを見た途端、小笠原は、さっきまでの笑顔が消え、怒っているのか眉を寄せた。
「こういうのいいっていったよね?」
「だってさ、断りづれぇじゃんか! 下駄箱のがいいならいいだろ!」
「顔も名前も知らない人からのなんて、本当は受け取りたくないよ!」
「そんなに怒ることないだろ!」
「怒ってない! 西里が分かってないから!」
「分かってないのはそっちだろ!もう! いい!」俺は、立ち上がり教室に戻ろうとした。
「俺!気になる人いるから!」

  え……? 気になる人……

 振り返ると小笠原が、真剣な表情で俺を見ていた。

「そ……そっか、じゃ、余計なことしたな……」
「西里!」

 俺は、それ以上聞きたくなくて逃げるよにその場から離れた。

 この気持ち……俺…小笠原こと……

「ああ! クソ! 今更気付いてどうすんだよおおおお!」俺は、ヤケクソで走って気付いたら、中庭まで来ていた。設置されたベンチに、崩れるように座った。

 はぁ……気付いて速攻、失恋かよ!!