20の差は遠くて




 僕が、西里を初めて見たのは、バレーボール部の試合だった。部員の中で、一番小柄な西里は、誰よりも高く飛び強いスパイク打つ姿だった。

 うわ……かっこいい!

 僕は、料理を作ること食べこと、食べてもらうことが大好きで、高校生になるまでは、ぽっちゃり体型だった。なんとなく、始めたダイエットが成功して、今まで日陰で生きてきた僕が、高校生で『貴公子』なんて言われて____入学当時は、動物園のパンダになった気分だった。
 今は、大分慣れたけど、目立つのはやっぱり疲れる。別世界の生き物みたいに、遠慮がちに接されると、不本意な気持ちにさえなった。
 西里と同じクラスになって、知ったことは、根っからの明るい性格で「うわっ!イケメン……流石、 『家庭科部の貴公子』! 俺、西里よろしくな!」僕にも遠慮なしの自己紹介だったこと。クラスのお調子者といわれている西里は、僕には眩しくて____
 
 西里なら僕の料理食べてくれるかな……

 なんでそんなこと思ったのか分からない。家庭科部で、作ったクッキーやチーズケーキ、西里に食べて欲しかったけど結局、渡せなくて校舎裏で静かに泣いた。
 それがこの前の昼休み。西里が、不意に僕の作った卵焼きを食べて『旨い!』と言ってくれて、嬉しくて弁当箱ごと渡した。
 西里は、何故か僕の反省場所である家庭科室の校舎裏を知っていて「弁当美味しいかった」っていいに来てくれた。
 成り行きで、僕の作った弁当食べてくれることなって____嬉しくて、この前より二倍くらいある弁当箱に、食べて欲しいものを詰め込んだ。

 西里にいっぱい食べて欲しい!

 *

 お試し手作り弁当一日目____

 待ちに待った昼休み。僕は、この時間になるまで、ソワソワして落ち着かなかった。

「……西里、弁当作ってきたよ」僕は、机の上に弁当箱を置いた。
「お! めちゃくちゃ腹減った!」
「え!? 小笠原くん、西里に弁当作ったの? なんで?」クラスの女子達が寄ってきた。
 西里は、弁当の蓋を効果音を付けて開けた。
「俺がさ、小笠原に一週間弁当作ってって頼んだんだ!見ろよ! めちゃくちゃ旨そう!」西里は、羨む女子達に弁当を見せた。
「小笠原も一緒に食べようぜ!」
僕は、空いている席に座り自分用の弁当を開けた。
「西里、どんな味?」
「ん……優しい味!」西里は、ミニハンバーグを頬張った。
「…ッ!ゴホッゴホッ!」僕は、その言葉にむせてしまい「大丈夫か?」西里は、僕の水筒を取ってコップに注いぎ渡してくれた。
「ありがとう……」

 どっちが優しいんだよ……

「……いいな」取り巻きの女子が言った。
「じゃさ、小笠原に頼んでみれば?」
「え……それはちょっとハードルが……西里! 一口でいいから頂戴!」
「ダーーメ! 残念だな……ま! 頼んだ俺の特権!」西里は、全て食べ切ってご馳走様と言って「今日のも美味しかった」と笑った。
 
 西里の笑顔を見るとなんだろう……胸の辺りが暖かいこれって……

 *

 放課後、家庭科室____

 料理がしたくて、入部した家庭科部。男子は、僕一人。料理教室をしている母に、料理を教わったので抵抗はないのだけれど……出来れば、男子入部大歓迎だ。

 今日は、ホットケーキミックスを使って焼き菓子を作っていた。
「小笠原!」
 西里が、開いてる窓から僕を呼んだ。びっくりして、ボウルの中身をひっくり返しそうになった。

「今日、何作ってんの?」西里は、開いてる窓から入ってこようとする。
「そっから入っちゃダメだよ!」僕は、小声で止めた。
「だって、めっちゃ美味しそうな匂いするからさ……」西里は、ジャージ姿で家庭科室へ入ってきた。
「西里また来たの?」部員の女子が呆れ顔。
「腹減ってさぁで!何作ってんの?」
「マドレーヌ作ってる」僕は、出来上がったマドレーヌを見せた。
「旨そう!」
「あ、こら! 西里くん!!」顧問の野々山先生が家庭科室に戻ってきた。
「うわ! やべっ!」西里は、身を屈めてしー!っと人差し指を口元に当てた。

 家庭科室の外で西里を呼んでる声がする。

「マジでやべぇ! 先輩が呼んでる!」西里は、慌てて立ち上がり、マドレーヌを口に咥えて窓から出ていく。
「小笠原! 後で残りくれよな!」西里は、手を振って体育館へ走って行った。
「もう〜〜西里くんたら」野々山先生は、ため息混じりに苦笑した。
「西里食いしん坊! ってゆーか、小笠原くんのねらってきてるんじゃない?」
「……そうかもね」僕は、西里が出てった窓側に目をやった。

 西里が、食いしん坊なの僕だけが知ってたかったな……