ボニー・バタフライ・エフェクト

 深夜0時を過ぎても、ベッドで丸まっているだけの愛斗に眠りは訪れなかった。
 暗い部屋の中には、秒針が時を刻むカチカチという音だけが響き渡っている。

(あのメガネの人が犯人なのかな)

 家の前にいた男子学生──愛斗が密かにメガネくんと呼んでいる彼が、あの写真の犯人なのだろうか。状況から見てそうとしか思えないが、しかし動機が分からない。

 彼に恨まれるようなことをした覚えはないし、そもそも関わったことすらないのだ。

 それにあの手紙とガラス片のことも気になる。
 あまりにもショッキングな出来事が重なったせいで、それらすべてに繋がりがあるような気さえしてくる。

 けれどそれぞれの出来事は、まったくの別件であるはずだ。

 手紙とガラス片は、単純にあの白リボンの女が『K』という人物と、愛斗を取り違えているだけのとばっちり。愛斗は女の子と付き合ったことすらないし、ましてや妊娠させるなんてありえないのだから。

 だが写真の件は明らかに、愛斗へ憎悪が向けられている。
 メガネくんが犯人だと仮定して、気づかぬうちによほどの恨みを買ったということか。

 だけど、本当に?

 本当に、これらの出来事には関わりがないのだろうか。
 何か見落としていることがあるのではないか。どこかで繋がるべくして、見えない点と点が存在しているのではないか──?

「喜逸……」

 無意識に、その名を呼んでいた。

 こんなとき喜逸がいてくれたら。きっと愛斗が眠るまで手を握っていてくれる。大丈夫だよと、何度も何度も言い聞かせてくれるだろう。

 急激に恋しさが募り、愛斗はぎゅうと目を閉じながら下唇を噛み締めた。

 自分にそれを望む資格はない。だってあんな酷いことを言って、突っぱねてしまったのだ。喜逸はただ心配してくれただけなのに。

 だけど、あのときの愛斗の気持ちは本心だった。
 一人でなんでもできるようになりたい。ちゃんと大人になりたい。喜逸がいなくても。

 いつまでも一緒にはいられない。

 来年の春にはきっと、彼とバイバイしなくちゃいけないのだから。