きみに会うためのデスゲーム

「あっ、三崎やっと来た」
 三崎馨がやってきて、食卓の気まずい空気がやわらいだ。
「おっ! 噂をすれば」
「噂?」
 三崎馨がにこやかに言う。
「とぼけんなよ。島田さんに告白されてきたんだろ?」
 吉田寛太が責めるように言った。
「もちろんオッケーしたんだよな?」
 と梶本俊介。
「いや?」
 三崎馨は言った。桐谷嵐士の隣に座り、味噌汁から口をつける。
「断ったのか?」
 梶本俊介が不思議そうに言った。
「断った」
「なんで……あんな美人を!」
 吉田寛太が信じられないという風に言った。
「だって俺、恋愛対象男だし」
 三崎馨はなんでもないことのように言った。
「えっ……?」
「はっ!?」
 俺は驚いて、口に含んでいた味噌汁を吹きそうになった。
「お、お前っ……ゲイなの?」
 吉田が聞いた。
 背後のテーブルにいる女子生徒が振り返り、コソコソと身を寄せて話し出す。それを見るだけで心臓がキュッと縮み上がった。
「うん」
 三崎はあっさりと認めた。怯えとか、後ろめたさとか、一切感じさせない声だった。
 ショックだった。
 きっと三崎は、拒絶されたことがないのだ。だから堂々と「男が好きだ」とカミングアウトできる。それをすることによって嫌われるかもしれないなんて想像もしない。
 それに比べて、俺はどうだ。
 必死に隠して、それでもバレて、みんなに拒絶された。気持ち悪いと罵られ、教室に自分の居場所はなくなった。
「うん。俺、男が好きなんだ」
 堂々と、はっきりと。出会ってまだ、1週間しか経っていないクラスメイトに。
 俺が、隠し通すつもりでいたことを、彼は易々と言ってのけた。
 視界がぐわんと歪んだ。羨ましくて……めちゃくちゃ羨ましくて、気づいたら、勝手に口が動いていた。
「ないわ……」
 三崎馨がこちらを見た。三崎だけじゃない。周りにいるみんな、俺を見ている。
 俺は、彼らの顔を見ることができない。サッと俯くと、暑くもないのに汗が頬を伝った。
「俺……無理っ……そういうの……」
 自分が過去に言われて傷ついたことを言う。
「無理って、何が?」
 三崎の声が鋭かった。
「何がって……その……」
 呼吸が上手くできなくて、大きく息を吸った。
「男が好きとか……そういうの……」
「ふーん」
 冷たく、冷静な声で、三崎は言った。
「お前、生まれる時代間違えたんじゃない?」
「っ……」
 愕然とした。
 俺を否定してきた人間に、俺はこんなに強気な返しはできなかった。「キモい」を受け入れて、ひたすら普通じゃない自分を呪った。
「は? 何それ。今ってゲイに寛容にならなきゃいけないわけ?」
 どういうわけか、俺はゲイを否定する側に回っていた。本当は「実は俺も……」と今すぐ打ち明けたいのに、過去の記憶がそれを拒んだ。
「別に良いんじゃない? 嫌いならそれで」
 三崎は氷のように冷たい表情で、取るに足らないことのように言った。
「どうやったって変えられない人の趣向を否定するようなやつ、俺だって無理だし」
 もしかしたら三崎は、俺が思っているよりずっと、気が強いのかもしれない。敵に回したら、ダメな人間かもしれない。
「みんなも無理だよな?」
 三崎はみんなに問いかける。
 俺は、真っ先に桐谷嵐士の顔色を伺った。彼は不愉快そうに眉根を寄せて、三崎を睨んでいた。
「もう、良いだろ」
 桐谷が言った。
「良いって?」
 三崎が首を傾げる。
「それ以上言ったら、お前が悪者になるぞ」
「そうか? どう考えたって、人の趣向を否定する方が悪いだろ。俺、なんか悪いことした? 男が好きで、お前らになんか迷惑かけた?」
 三崎はテーブルを見回した。みんな、三崎に否定されるのが嫌で、ブンブンとかぶりを振った。
「いや……つかむしろ、ライバルが減ってラッキー?」
 芦屋裕樹が言った。
「確かにっ!」
 と吉田。
 三崎が俺を見て、言った。
「ああ、言っとくけど、俺にもタイプがあるから。間違ってもお前なんか恋愛対象にならないから、勘違いすんなよ」
「馨」
 と、桐谷が制した。
 三崎は肩をすくめた。口元には満足げな笑みが浮かんでいた。
 敵に回したのは俺だ。俺は、責められているのだ。
 なのに、過去の自分が肯定されたみたいで、もっとそういう言葉を聞きたいような、不思議な気持ちになった。