きみに会うためのデスゲーム

「三崎遅くね?」
「2組の女子に呼び出されてた」
「まじ? 告白かな?」
「それしかないっしょ」
 食堂は長テーブルが並んでいて、学生は親しい者と好きな場所に座っている。
 学生の数に対してテーブルが多く、食堂がだだっ広いのは、3年生しかいないからだ。
 ここは3年生限定の高校だ。この学校を運営するのは「アース」という家電メーカーで、僕たちはアースの商品開発のためにこの学校に集められた。
「入学してたった1週間で、告白なんてするかな」
 僕も会話に加わった。
「お互いのこと、何も知らないのに」
「所詮顔だろ。顔! 中身なんてどうでもいいんだよ」
 吉田寛太(かんた)がムスッと唇を突き出した。
「不貞腐れんなよ」
 梶本俊介が笑う。
「別に不貞腐れてねーし」
「さてはお前好みの可愛い子か」
「ちょー可愛かったよ」
 吉田寛太は素直に言った。
「あーあ、俺もあんな可愛い子と付き合いてー。イケメンはずるいよなあー」
「でもさ」
 と、梶本俊介がチラリと背後を振り返った。
 後ろの長テーブルでは、同じクラスの佐久間蓮が黙々と食事をしていた。
 歌舞伎俳優のような整った顔立ちの美男だが、箸の持ち方はめちゃくちゃで、皿に顔を近づけて食べる姿は飢えた犬のようだ。
 彼のそばを通った女子生徒が露骨に嫌そうな顔をした。
「いくら顔がよくたって、あれじゃあ誰も相手しねえよ」
 梶本俊介がニヤニヤと言った。
「きったねぇ」
 吉田寛太が顔を歪める。
「あーいうの、俺ほんと無理。目障り」
「僕は安心するけどね」
 言うと、皆の視線が一斉に僕に集まった。
「安心?」
 僕は頷いて、言った。
「ろくに躾もできない、途中で投げ出すような親に育てられるくらいなら、最初から施設に預けられた方がいい。ああいうみっともない奴を見ると、自分の親は正しかったんだって安心する」
 ここにいるのは、アースが運営する児童養護施設で育った子どもたちだ。
 親がいないのは皆同じだが、その経緯は様々だ。育児放棄、死別、貧困……一番多いのは出生直後に施設に預けられた人間で、僕もそうだった。
 僕は親の顔を知らない。勉強も運動もそれなりにできるから、悪い親ではないと思う。きっとのっぴきならない理由があって、僕を施設に託したのだ。
 アースが運営する児童養護施設は清潔で居心地が良く、職員による躾は一定の基準を満たしていた。
 施設育ちというだけで、部外者は勝手に同情を向けてくる。でも僕は、自分を不幸だと思ったことは一度もなかった。
 通っていた学校には、施設暮らしの自分よりずっと貧しい暮らしをしている者がいたし、途中から施設に入居した者の中には、栄養失調だったり、ひどい虐待を受けてきた者もいた。
 自分の親がまともじゃないと知る方が、僕はずっと不幸だと思う。クズな親とはたとえ数年でも関わらない方がいい。
 佐久間蓮を見て、僕はその思いを強くした。
「まー、確かに。見下せる人間って必要だよな」
 梶本俊介が意地悪く笑った。
「誰かを見下すような人間の方が、俺はみっともないと思うけどな」
 桐谷嵐士が言った。
 一緒に食事をする仲と言っても、入学してまだ1週間。僕たちだって互いのことをほとんど知らない。
 桐谷嵐士は僕と同じ、親を知らない人間だ。大柄で目つきが鋭く、一見近寄りがたい雰囲気だが、よく見ると端正な顔をしていて、箸の持ち方は見惚れるほど美しい。
「じゃあ、桐谷くんはああなりたい?」
 そう言って、僕は佐久間蓮を見た。少し声が大きかったかもしれない。佐久間蓮がぬらりと顔を上げ、目が合った。
「っ……」
 僕は思わず息をのんだ。
 彼の耳には僕のとよく似た、小さなブルーのピアスがついていた。